「少年警察活動規則の一部を改正する規則案」に対する意見

 

                           2007年10月3日

 

                   東京弁護士会 期成会

                      代表幹事 中   村   雅  

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 当会は、東京弁護士会の政策研究団体であり、弁護士会員537名で構成されている。

 当会は、本年6月1日に公布された「改正」少年法(以下「『改正』少年法」という。)の施行に伴う少年警察活動規則の「改正」案(以下「規則案」という。)に対し、次のとおり、意見を述べる。

 

 

〔意見の趣旨〕

 第1.政府提出の少年法「改正」法案では、警察官のぐ犯調査権限の及ぶ範囲が不明確で、対象の範囲が過度に拡大することを懸念し、国会での法案修正により、「改正」少年法案第6条の2および第6条の6から「ぐ犯少年」の規定が削除された。この国会での法案修正の経過に照らし、規則案第三章第三節「ぐ犯調査」の規定は、削除すべきである。

 

 第2.規則案第三章第二節「触法調査」の規定については、次の点の手直しをすべきである。

  1.少年の調査にあたり、警察官が少年に対し、弁護士付添人を選任できることを告知する規定を定めるべきである。

  2.少年の調査にあたり、警察官が少年に対し、「意に反して供述を強制されることはない」旨を告知する規定を定めるべきである。

  3.規則案第20条第4項の立会いを認める者の例示に、弁護士付添人を加えるべきである。

  4.規則案第16条から、すくなくとも「詳細に」は削除すべきである。

 

 

〔意見の理由〕

 第1.規則案第三章第三節「ぐ犯調査」について

  1.国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。民主主義国家では、全ての行政機関の権限行使は、国会が定める法に基づいて行われるのが大原則である。なかでも、警察は、その権限行使が市民の人権を制約するおそれが高いことから、憲法31条以下で適正手続きの順守が強く求められている。

    今回の規則案は、「改正」少年法の施行に伴って策定したとしながら、「改正」少年法案から削除された規定を、規則案で復活させようとするものであり、違法・違憲のものと言わなければならない。

 

  2.第166回国会での「改正」少年法案の審議では、「ぐ犯少年」については、警察官による調査権限の及ぶ範囲が不明確で、調査対象の範囲が過度に拡大するおそれがあるという懸念が強く出され、「改正」少年法案第6条の2および第6条の6から「ぐ犯少年」の規定を削除することで全政党の見解が一致した。

 

  3.ところが、規則案第27条は、「ぐ犯事由」と「ぐ犯性」があることを警察官が具体的に明らかにするように努めるというのであるから、警察官が調査を開始する段階では、「ぐ犯事由」と「将来、罪を犯すおそれ」が具体的でなくともよいことが前提になっている。これでは、警察官が主観的に「将来、罪を犯すおそれがある」と判断すれば、少年に対する調査を実施できることになる。

    このことは、規則案第30条が規則案第20条第1項を準用し、「規則案第20条第1項中の『触法少年』とあるのは『ぐ犯少年』と読み替えるものとする」と定めていることから、一層明確になっている。

    また、規則案第13条第2項では、「14歳未満のぐ犯少年」を少年法第6条の6第1項で送致すると規定している。

        これはまさに、「改正」少年法第6条の2および第6条の6の規定の中に、「触法少年」と並べて、国会が削除した「ぐ犯少年」を書き加えて、「ぐ犯少年である疑いのある者」に対する警察官の調査権限を復活させることに他ならない。

 

  4.規則案第三章第三節の「ぐ犯調査」の規定は、国権の最高機関である国会での審議と法案修正を無視するものであって、違法・違憲の内容であるから、全て削除すべきである。

 

 第2.規則案第三章第二節「触法調査」について

  1.少年は大人以上に被暗示性や被誘導性が強く、14歳未満の少年では、その傾向が特に顕著である。「改正」少年法第6条の3は、少年自身に弁護士付添人を選任する権利を認めた。権利は、まず知らなければ行使することができない。調査にあたり、警察官が少年に対し、弁護士付添人の選任権を分かりやすく告知することを、規則案に規定すべきである。

 

  2.少年期の特性に配慮する準則の策定を求めている参議院の附帯決議第1項の趣旨からも、警察官が少年に対し、供述を強いられることはない旨を分かりやすく告知することを、規則案に規定すべきである。

  

  3.弁護士付添人選任権が規定された趣旨に照らし、規則案第20条第4項の立会いを認める者の例示に、弁護士付添人を明記すべきである。

 

  4.触法少年についての調査は、児童相談所又は家庭裁判所調査官が行うことが予定されており、警察官の調査はその準備行為としての調査と位置づけられるから、規則案第16条の「詳細に調査しなければならない」との規定は削除すべきである。

                                                                        以上