有事法制問題に関する期成会の提言


 

東京弁護士会

 会長 伊礼勇吉 先生

                         2002年5月1日

                          東京弁護士会期成会

                           代表幹事 鈴木堯博

 

有事法制問題に関する期成会の提言

 

1、政府は、本年4月16日に所謂有事法制関連3法案を閣議決定して、翌17日に国会に上程しました。4月23日に有事法制特別委員会(武力攻撃事態への対処に関する特別委員会)が設置されて同26日には衆議院本会議で趣旨説明・質疑が行われて6月19日までの国会会期末までに可決・成立することが企図されております。

この有事関連法案は、日本国憲法第9条など日本国憲法の定める恒久平和主義や国民の基本的人権保障の観点、更には、この国のあり方そのものにも重大な影響を与えるものであり、日弁連としても本年3月15日の理事会及び4月20日の理事会において反対する旨の決議をしております。

2、所謂有事法制関連3法案の問題点は、4月20日の日弁連理事会決議が端的に指摘しているところです。日弁連理事会決議の指摘する問題点をごく簡単に要約すると、別紙の通りです。

3、この問題の重大性に鑑みて、日弁連だけではなく、東京弁護士会としても、日弁連理事会決議を受けて、法案の問題点を明確に指摘して反対意見を表明する必要があります。同時に、他の多くの単位会にも呼びかけをして同様の反対意見の表明を求めていく必要があると思います。更には、国会・各政党・各議員に対してはもとよりのこと、マスコミを含めて広く国民に対して法案の問題点を指摘して廃案を目指す活動を可及的速やかに展開する必要があります。

4、従って、当期成会は、東京弁護士会が会として所謂有事法制関連3法案に関して、次のような措置を取られますように要請する次第です。

@東京弁護士会としても、憲法問題協議会や人権擁護委員会などを中心に有事法制関連3法案の問題点を検討して、法案に反対する定期総会決議または常議員会決議を行うこと。少なくとも東弁会長声明を出して会としての見解を明らかにすること

A他の単位会や弁護士連合会に対しても、同様の反対決議や反対声明を出すように働きかけること

B国会・各政党・各議員に対して会として有事法制関連3法案の問題点を指摘して廃案にすることを求める活動を行うこと

C会として緊急シンポジュームを開いたり、ビラを作成・配布するなどしてマスコミを含めて広く国民に対して法案の問題点を指摘して廃案を目指す活動に取り組むこと

以上の通り要請致します。                     

以 上


<別紙>

有事法制関連3法案の問題点

 

2002年4月17日に国会に上程された所謂有事法制関連3法案は、決して看過することの出来ない重大な問題点や危険性を含んでいる。2002年4月20日の日弁連理事会決議は、日本国憲法上、重大な問題点や危険性があることを指摘して廃案にするべきことを訴えている。日弁連理事会決議が指摘している法案の問題点・危険性は、概略、以下の通りである。

1、法案の「武力攻撃事態」には、現実に外国からの武力攻撃を受けた場合だけではなく「武力攻撃のおそれのある事態」や「事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」までを含んでいる。「武力攻撃事態」の概念は極めて曖昧であり、政府の恣意的な判断を許すものになっている。これでは、米軍が諸外国などで武力行使を行うに際して、在日米軍基地のある日本に対して武力攻撃が予測されるとして、国家総動員体制を発動することを可能にする。そのために、「武力攻撃事態」宣言が、日本に対する武力攻撃を誘発する危険性を孕んでいる。

 「武力攻撃事態」での自衛隊の軍事行動などは、憲法の平和主義、第9条の戦争放棄、戦力の放棄、交戦権の否認に抵触する。更に、周辺事態法と連動することによって、米軍による戦争や軍事行動に日本を巻き込み、憲法の禁止する「集団的自衛権の行使」に該当する事態を招く。

2、「武力攻撃事態」においては、陣地構築、軍事物資の確保等のための私有財産の収用・使用、軍隊・軍需物資の輸送、戦傷者治療等のための市民に対する役務の強制、交通、通信、経済等の市民生活・経済活動の規制などが憲法の保障する適正手続の保障無く行われ、市民の基本的人権を大きく制限することになる。このことは、憲法上の根拠に基づかず基本的人権保障原理を大きく制限する道を開くことになる。

3、「武力攻撃事態」では、武力の行使、情報・経済の統制等を含む広汎な事態対処権限が内閣総理大臣に集中的に与えられるほか、内閣総理大臣に地方公共団体に対する法的拘束力のある指示権が与えられるとともに、地方公共団体が内閣総理大臣の指示に従わない場合には、地方公共団体が行う措置を内閣総理大臣が自ら実施する強制執行権限を与えられる。このことは、憲法の定める地方自治の本旨に反して民主政治のあり方を根本から否定することにつながるものである。

4、日本放送協会(NHK)などの公共放送機関などを指定公共機関として、「必要な措置を実施する責務」を負わせたうえで、内閣総理大臣が対処措置を実施すべきことを指示し、指示が実施されない場合には、内閣総理大臣が自ら対処措置を実施することが出来るとされている。これによって、政府が放送メディアを統制下におき市民の知る権利やそれに奉仕すべき報道の自由、メディアの権力監視機能を侵害し、国民主権と民主主義の基盤を掘り崩す危険性がある。

5、「武力攻撃事態」の認定と、それに基づく「対処基本方針」は、内閣官房によると「原則的には(国会での)事後承認であり、閣議決定すれば対処措置は実施できる」とされている。国権の最高機関である国会審議は形骸化し、国会による民主的統制が有名無実化するおそれが大きい。                 

以 上