身体拘束少年事件全件付添人制度導入に関する意見書


                                                                  2003年11月27日

東京弁護士会 

会長 田中敏夫 殿

                                        東京弁護士会期成会

                    代表幹事 鈴

 身体拘束少年事件全件付添人制度の導入に関し、以下のとおり意見を具申する。

 東京弁護士会は、東京における身体拘束少年事件全件付添人制度を2004年度中のできる限り早い時期に実施すべきである。そのために、下記事項に全力を挙げて取り組むべきである。

(1)適切な予算措置の確保

(2)少年事件弁護士登録者数の「900人への倍増」確保

(3)そのための会内合意の確立

(4)東京他会への働きかけ

 

1.少年審判手続においては、検察官関与事件という限られた場合を除き国選付添人制度が実現していないため、少年及び保護者に認められた弁護士付添人選任権は、付添人扶助制度による他は、私費での付添人選任権という意味を持つにとどまる。

  このため、2001年度を例に取ると、身体拘束を受け外部交通遮断下で審判を受けた少年の約75%以上が、経済的事情などの理由で、弁護士付添人の援助を受けられずにいる。2001年度に東京で鑑別所収容の観護措置のあった少年は2,264人だが、少年審判時に弁護士付添人の援助を受けた少年は在宅で付添人の付いた少年も含め583人にすぎない。

2.かかる状況は、「子どもの権利条約」第37条(d)、第40条2項(b)(B)、「国際人権B規約」第10条、第14条3項(d)などの条約や、「自由を奪われた少年の保護のための国連規則」、「北京ルールズ」などの国際準則に抵触する虞のある状態といわなければならない。現に、子どもの権利条約に基づく第1回政府報告書の国連子どもの権利委員会による審査結果の最終所見(1998年6月)においては、これについて懸念が表明され、見直しを図るよう勧告がなされている。

3.現在、司法制度改革推進本部の公的弁護制度検討会では、身体拘束少年被疑者には段階的に公的弁護制度を導入することとされつつあるが、併せて検討されている公的付添人制度の導入については、身体拘束を受けた少年の全件に公費による公的付添人を選任するということからほど遠い。引き続き別の検討機会を設けることとして、結論は先延ばしにされるのではないかとの予測も伝えられるところである。

4.公的付添人制度の検討に先だち、福岡県弁護士会では2001年2月から、法律扶助制度を利用した「当番付添人制度」が導入され、身体拘束少年事件の全件に付添人を保障する実践がなされている。

身体拘束少年被疑者が家裁送致後も法的援助を受け得る制度を確保し、広汎な公的付添人制度の実現を期すには、東京で身体拘束少年事件の全件に、福岡県と同様の「当番付添人制度」(以下「全件付添人制度」)を早急に実施する必要がある。

  この必要性に鑑み、東京三弁護士会は、2003年5月30日に日弁連と共催でシンポジウムを開催し、身体拘束少年事件における弁護士付添人の適正手続保障を実質化し、少年が被害実態に向き合い、自己の抱える問題に気づくよう、その立ち直りを支援する役割の重要性・不可欠性を確認した。

同年7月15日には「2003年東京弁護士会宣言」で「少年事件について、公費による全件付添い実現に向け東京家裁と協議を始めるとともに、当番付添人登録弁護士の倍増を目指し、財政措置の検討に着手する」ことを確認した。9月1日には「東京三弁護士会身体拘束少年事件全件付添人制度導入協議会」(以下「協議会」)を発足させ、協議を重ねるとともに、東京家裁とも意見交換会を始めている。

5.この協議会においては、東京弁護士会の人的体制として求められる年間延べ待機人員1,326人に対し、本年5月現在で430人程度であった少年事件当番弁護士登録人数が、8月からの登録呼びかけで2ヶ月程度の間に500人程度に増加している。多摩支部から応援を求められている260人分の全てを加算しても年間3回程度の負担にとどまり、実行可能な条件の整っていることが確認されている。ただし、第一東京弁護士会の人的な体制確保が遅れていることなどから、協議会においては、「全件付添人制度」の実施時期の見通は立っていないというのが実情である。

  前述のような事情に照らせば、「全件付添人制度」は、早急に実施される必要がある。公的付添人制度の検討状況を併せ考えると、2004年度中のできる限り早い時期に実施すべきである。2005年度に実施するなどと言うことになれば、公的付添人制度は極く限られた小規模なものとどまってしまう可能性が極めて高く、広汎な公的付添人制度の実現は困難となる事態に陥りかねない。

6.「全件付添人制度」の実現のための財政的な条件について言えば、法律扶助協会は平成15年で年間380件の予算を組んでいるところ、最大に見積もった増加分約2,000件について、扶助費用の日弁連予算の増額が仮に困難としても、現行の扶助付添人費用(10万円)並みを支払う前提で、受任率福岡県弁護士会並みの6〜7割として、東京弁護士会に求められる2:1:1の割合負担は、6,000万〜7,000万円である。これを会員1人当たりにならせば、月額1,1001,300円となる見込みである。

  福岡県弁護士会が「当番付添人制度」実施に伴い、会員1人当たり月5,000円の特別会費を徴収していることも参考にして、東京弁護士会において「全件付添制度」導入を決意するにあたり、相応の適切な予算措置を講ずることが必要である。この点に関し会内合意を形成して財源を確保することが急務である。

7.また、前述のような第一東京弁護士会の人的体制の不足を補うには、東京弁護士会でも人的体制を一層十全なものに整える必要がある。少年事件当番弁護士の担い手の登録運動を更に推進し、「2003年東京弁護士会宣言」の完全達成を目指す取り組みが求められる。

8.以上の次第であるから、「全件付添人制度」を2004年度中のできる限り早い時期に実施するために、適切な予算措置の確保を行い、東京弁護士会における少年事件当番弁護士登録者数の「倍増=900人」を確保し、これらのための会内合意を確立し、第一東京弁護士会・第二東京弁護士会への働きかけを行うことに、東京弁護士会の総力を挙げて取り組むべきである。

                                                                       以上