「弁護士職務基本規程」第3次案についての意見書


                                             2004年9月3日

東京弁護士会
 
会長 岩井重一 殿

 

「弁護士職務基本規程」第3次案についての意見

 

東京弁護士会期成会

代表幹事 斎藤義房

 

1.日弁連会長の平成16年7月27日付「弁護士職務基本規程(案)について」と題するコメントにもあるように、弁護士人口の飛躍的な増大、広告規制の緩和、法人化による複数事務所の設置、報酬規程の撤廃、営利事業への参画の原則自由化など、弁護士を取り巻く環境は激しく変化しており、弁護士の多様化は必至である。

  そのなかで、「弁護士自治の根拠である人権擁護と社会正義の実現の使命を全ての弁護士を統合する共通基盤としていくためにはどうしたらよいのか」、「企業法務、民間企業、行政、地方公共団体などで活動する弁護士をも含めて、弁護士のアイデンティティをどの様に確立するのか」は、これからの弁護士・弁護士会にとって、きわめて重要な課題である。

  この様な観点からみるとき、少なくともプロフェションとしての弁護士倫理と最低限守るべき行為規範を確立し、その遵守をもって、弁護士としての共通の基盤とすることが必要不可欠である。そのためには、弁護士会の最高法規である会則、会規により、高度の規範性を持つものとして制定する必要がある。そのことが弁護士・弁護士会に対する市民・国民の信頼につながるものと考える。

 

2.この間、日弁連執行部が会内の討議をふまえ、職務基本規程の第1次案および第2次案に大きく手を入れて第3次案をまとめた努力と姿勢に対しては、積極的に評価するものである。

  しかし、「弁護士職務基本規程」は弁護士としての倫理と行為規範を定めるものであり、懲戒処分の構成要件となる条項もあるから、会規化の必要性とその内容の確定にはさらに全会あげて討議を尽くす必要があり、会員が納得できる内容としなければならない。

 

3.特に、第5条の「真実を尊重し」との文言には問題が残っている。

 (1) 日弁連のコメントによれば、ここに言う「真実」とは客観的真実ではなく、弁護士自らが真実を信じるところ(主観的真実)をいうとされているが、刑事弁護の実務に照らすと、弁護人は自らの主観と必ずしも一致しなくても被疑者・被告人の主張に添って活動することが求められる場面が少なくない。そして、そのことが冤罪を防止する刑事弁護人の責務とされてもいる。この様に考えると、弁護士職務基本規程の中に、「真実を尊重し」との文言を加入することの是非はさらに慎重に検討してよい。

 (2) また、日弁連のコメントでは、第5条に「真実を尊重し」と加入したのは、従前の弁護士倫理第7条の「弁護士は、勝敗にとらわれて真実の発見をゆるがせにしてはならない」を削除するかわりに、第3次案の第5条に「真実の尊重」をうたったと説明をしているが、「真実を尊重し」との文言は、「真実の発見をゆるがせにしてはならない」との文言よりも積極的で強い表現とも解し得るのであって、日弁連のコメントにも拘わらず、弁護士の「真実義務」が強まるのではないかと危惧する。

   その意味で、仮に弁護士職務基本規程上に「真実」の文言を残すのであるならば、従前の弁護士倫理第7条の文言を承継して、第3次案の第5条を次のようにすべきである。

   「第5条 弁護士は、勝敗にとらわれて真実の発見をゆるがせにしてはならず、信義に従い、誠実かつ公正に職務を行うものとする。」

 

4.加えて、第3次案で懲戒事由となる条項と努力義務規程である条項の区分が明確か否かについて、さらに検討する必要がある。

  特に、82条の第2項の「第1章並びに第20条から・・・・・・第74条の規定は、弁護士の職務の行動指針又は努力目標を定めたものとして解釈し適用しなければならない」との文言には、依然として問題が残っている。

  すなわち、日弁連会長の平成16年7月27日付の各条項コメントでは、「第2項に努力義務の規定として定める条項をまとめて掲げわかりやすくした」としているが、第2項の「弁護士の職務の行動指針」との表現は、弁護士として当然なすべきことと解しうるうえ、条文が「又は」という接続詞で結ばれているために、列挙した条項が単なる「努力目標」とは言えない事項も含まれているかのように読める。現に、82条を含む第13章の表題は「解釈適用指針」としており、「指針」という文言は規範性を有するものとして用いられている。そのため、82条の第2項に列挙されている各条項のうち、特に「第1章」の各条項のどの条項が「行動指針」で、どの条項が「努力目標」なのかとの疑問が生じる。

  よって、82条第2項の「行動指針又は」との文言を削除して、日弁連会長のコメントによる解説に留まらず、職務基本規程本文の文言上も、努力義務の規定であることを明確にすべきである。

 

5.また、信義と公正の要請は紛争解決の全ての手続で要請されることであるから、76条(裁判手続きの遅延)、77条(裁判官等との私的関係の利用禁止)については、裁判手続きに限定せず、ADRにも適用可能なように規定すべきである。

 

6.職務基本規程は、内容確定に至る会内討議が重要であることはもちろんであるが、文章化すれば済むことではない。策定後の規程を、全ての会員およびこれから弁護士となる会員にいかに徹底していくのかという課題がより一層重要である。

  東京弁護士会としては、本職務基本規程(案)についての会内議論を尽くすこととあわせて、日弁連に対し、「日弁連執行部は、職務基本規程を現在および将来の全会員に浸透させるために、どの様な方策を具体的に検討しているのかを日弁連総会において報告すべきである」と申し入れるべきである。

  なお、当会は、上記の具体的方策として、@本年7月27日付の日弁連会長コメントにとどまらず、前文及び全ての条文につき逐条解説をまとめ、日弁連が全ての会員(新規登録者を含む)に無償で交付する、A弁護士職務基本規程研修をさらに徹底する、B司法修習生に対する弁護士倫理教育、法科大学院における弁護士倫理教育を強化することが不可欠であると考えている。