「裁判所の処置請求に対する取扱規程(案)」についての意見書


2005年10月27日

東京弁護士会
  会長 柳 瀬 康 治  殿

東京弁護士会 期成会
  代表幹事 斎 藤 義 房 

 当会は、表記取扱規程(案)について、下記のとおり、意見をまとめましたので、東京弁護士会の意見に取り入れていただきたく要望いたします。

1.第1条(目的)について

 (1) 本規程は、刑事裁判において裁判所の訴訟指揮と弁護人の弁護活動が鋭く対立した場面において適用が予定されている。その意味で、弁護士会としては、裁判所と対峙している刑事弁護人の法廷における弁護権が不当に制限されることがないよう、刑事弁護人を支援・援助する弁護士会の態勢と手続を確立するという視点を第1に置くべきであり、あわせて、公正、適正かつ迅速な裁判を確保するという視点を、もう一つの柱にすえるべきである。この様な観点から本規程を策定するのであれば、規程策定の意義がある。

   そのことは、東京弁護士会の法廷委員会のこれまでの活動の実践と実績からも裏付けられている。

 (2) そこで、本規程の第1条の目的条項に、上記の趣旨こそ明記すべきである。

   すなわち、規程(案)の第11条(運用指針)の文言を第1条に繰り上げ、第1条の「もって」以下を、「もって、弁護人が法廷において弁護権を十全に行使することを確保するとともに、公平、適正かつ迅速な裁判が行われることを確保することを目的とする。」と改めるべきである。

 (3) 弁護士会が、上記(2)の目的に従い、裁判所の処置請求に対し適正に対応するならば、弁護士、弁護士会及び連合会に対する国民の信頼は自ずと確保されるから、本規程の第1条に、わざわざ「国民の信頼を確保することを目的とする」と記載する必要はない。

   本規程(案)の様に「国民の信頼の確保」を正面から目的条項に掲げると、国民世論の名の下に弁護権の十全な行使を制限するのではないかとの危惧の念を拭いきれない。

 

2.第2条(裁判所から連合会への処置請求)について

 (1) 規程(案)では、裁判所から連合会へ処置請求があったとき、「連合会が自ら対処することを相当と認めたときを除き、当該弁護士の所属する弁護士会に対処することを請求する」という制度構想になっている。

   すなわち、裁判所から連合会へ処置請求があった時の管轄の第1次判断権は連合会にあると条文上解釈される。

   しかしながら、当該弁護士の審級の利益を考慮すると、連合会は、全てについて当該弁護士の所属する弁護士会に対処するよう求め、所属弁護士会からの申出等により適当と認めるときには連合会が自ら対処できるとの制度構想にすべきである。

   すなわち、所属弁護士会の処置のうち懲戒処分に不服がある当該弁護士は連合会に審査請求できる二審制であるのに、連合会の処置としての懲戒処分は弁護士会としての最終審であり、これに対する不服申立は行政訴訟しかないからである。

 (2) ちなみに、昭和59年9月5日付日弁連中央法廷委員会策定の「処置請求等についての対処要綱(案)」は、対処管轄の第一次判断権は所属弁護士会が持つとする制度構想を採用している。(昭和59年9月5日付日弁連中央法廷委員会「調査報告」57頁)

 

3.第3条(連合会の調査)、第7条(弁護士会の調査)について

 (1) 第3条および第7条には、「調査は、当該弁護士、関係人、裁判所、検察官その他の者に対して陳述、説明若しくは資料の提出を求め、又は公判調書その他の関係書類を検討するなどの適宜の方法により行うものとする」としている。

   しかし、調査の方法については、より弾力的なかつ多様な運用を可能とする条文の表現にすべきである。

 (2) 東京弁護士会法廷委員会の委員経験者からの報告によれば、調査の方法として法廷委員が裁判所に身分を告げて当該法廷の傍聴をしたり、法廷委員会の調査を踏まえて弁護士会理事者が裁判所と協議を行ったりしており、そのなかで、裁判所が姿勢を改めたという事例もあったとのことである。また、弁護士の弁護活動についても、法廷委員と当該弁護士が相互に意見交換や話し合いを行ない、場合によっては会員集会を開催して会員間で相互に意見交換をするなかで、当該弁護士が自ら弁護活動の見直しを行ったこともあったとのことである。

 (3) 東京弁護士会法廷委員会のこれまでの実践を踏まえ、その活動の教訓が生かせるように、調査の具体的な方法について、より弾力性のある対処を可能とする条文にすべきである。また、規程の解釈・運用の手引には、具体的な実践例や多様な対処方法を明記すべきである。

 

4.第4条(連合会の処置等)、第8条(弁護士会の処置等)について

 (1) 規程(案)第4条および第8条の各第2項の「当該弁護士に対する意見を述べる機会の保障」は不可欠であり、同項の各但し書は削除すべきである。

 (2) そもそも、但し書にいう「意見を述べる機会を与えることが困難な事情がある場合」とは、いかなる事態を想定しているのか明らかでない。

   当該弁護士が意見を述べる機会に出頭しないことがあるかも知れないが、それは当該弁護士が自らの意見陳述権を放棄したものであって、弁護士会の判断で意見を述べる機会を与えないこととは別の問題である。適正手続の保障は、絶対的なものであり、例外は認められない。

 

5.第5条(連合会の通知)、第9条(弁護士会の通知)について

 (1) 規程案第5条および第9条の各第2項の条文中に「検察官の訴訟活動に対する意見」も明記すべきである。

 (2) ちなみに、昭和56年当時日弁連から各弁護士会に対してなされた「処置請求に対する処理要綱(案)作成の必要とその具体案についての諮問」に対し、東京弁護士会がまとめた処理方針(案)の六の(2)には、「裁判所の訴訟指揮に是正を求める必要がある場合または検察官の訴訟活動に是正を求める必要がある場合には、それぞれ適切な処置をとる」と記載してある。(1984年3月「東京弁護士会法廷委員会先例集」239頁)

(以上)