弁護士業務基本規程案の検討に関する意見書
2003年9月8日 東京弁護士会 会長 田中敏夫 殿 東京弁護士会期成会 代表幹事 鈴木堯博 現在、弁護士業務基本規程案について検討が行われているが、この会内合意手続きに関して以下のとおり意見を申し述べる。 会長におかれては、本意見の方向で日弁連執行部に働きかけていただくように要望する。 意見の趣旨 弁護士業務基本規程案について十分な会内合意を尽くすため、日弁連執行部(弁護士倫理委員会)において、各単位会等から今回寄せられる意見を十分に反映させた新たな弁護士業務基本規程案を策定し、再度、各単位会等に意見照会したうえで、その意見を踏まえた最終案をとりまとめるべきである。 意見の理由 1 弁護士業務基本規程案の意見照会と検討時間の不足 日弁連会長から本年6月17日付の書面をもって東京弁護士会会長宛に「弁護士業務基本規程(委員会案)」(以下、本規程案という。)についての意見照会がなされたが、各単位会の意見の回答期限は本年8月末日とされていた。 本件に関する東京弁護士会会長からの各委員会に対する諮問について各委員会で検討が始まったのは7月の定例委員会においてであった。夏休み期間中の8月は定例委員会が開催されないため、それぞれ臨時委員会を開催するなどして、回答書の取りまとめに全力を挙げた。 しかしながら、本規程案は、弁護士業務の根幹にかかわる重要な問題を含んでいるにもかかわらず、検討の時間があまりにもすくないため、各委員会では議論が十分尽くせないままとりあえず期限内に回答をまとめるしかなかった、というのが実情である。 2 各委員会の回答内容の状況 各委員会の回答内容をみると、本規程案の会規化の問題をはじめ、各条項についても、賛成、反対、修正意見など、さまざまな意見が寄せられている。短期間の討議だけでは、東京弁護士会の意見が容易には帰一しがたいように見受けられる。 とりわけ、会規化については、賛成意見と反対意見のほかに、意見を留保した委員会がかなり存在していることは看過できない。会規化が重要な問題であればあるほど、多数の会員が議論に参加し、十分な検討を経たうえで意見を提出すべきであるにもかかわらず、回答期間があまりにも短いために意見の集約ができなかったというのがその理由である。また、多くの委員会回答は、討議の時間の保障と慎重な合意形成を求めているが、それは本規程案の重要性から見て当然というべきであろう。 さらに、会規化をめぐる意見は大きく対立しているようにも見えるが、反対意見の多くは本規程案を会規化することに反対するものであり、現行弁護士倫理の改定の必要性や弁護士業務に関する必要最低限の行為規範の会規化の必要性それ自体までも否定するものとは思われない。次に述べる会規化の2つの前提要件が充足され、かつ会員の議論が十分に尽くされるならば、大方の意見の一致のもとで、弁護士業務基本規程の制定は可能になるものと考える。 3 会規化の2つの前提要件 弁護士業務基本規程を制定するにあたっては、@倫理的行動指針と行為規範との仕分けをして行為規範について法的拘束力を持たせること、A法的拘束力を持たせる条項については構成要件をできるだけ明確にすること、という2つの前提要件が充足されるべきである。この立場から本規程案を見た場合に、さらに検討を重ねなければならない条項が数多く含まれているといわざるをえない。例えば、本規程案の前文や第1章には倫理的行動指針の色彩の濃い条項があるなど、行為規範との仕分けがされていないように見受けられるものがかなりあること、各条項の文言についても構成要件的にみて明確とはいえないものが散見されること、など問題のある条項が数多く存在している。それは本規程案が会員の意見を聞くためのたたき台的な提案であったと考えれば、理解できないわけではない。しかし、そうであればなおさらのこと、このような問題のある条項については、各単位会等の意見を踏まえて再検討し、新たな案を策定することが必要である。 4 弁護士業務基本規程制定のための会内合意の重要性 会規として弁護士業務基本規程を制定するには、以上のような問題点をクリアーしつつ、会内合意を十分に尽くことが前提となる。しかし、日弁連会長の前記意見照会書によれば、今回各単位会から寄せられた意見を踏まえて最終案の策定作業を進めることを予定しているとのことである。今回の意見照会に対する回答だけで日弁連総会に諮る最終案が策定されることになるのでは、会内合意を尽くすという点から見てきわめて不十分であり、将来に禍根を残す恐れもある。 日弁連執行部(弁護士倫理委員会)において、各単位会等から今回寄せられる意見を十分に反映させた新たな弁護士業務基本規程案を策定し、再度、それについて各単位会等に意見照会することが必要である。さらに、弁護士の依頼者となるべき市民の声も聞く必要がある。そのうえで最終案をとりまとめることが会内合意形成を図るために不可欠であると考える。 そのような手続きを経由すると、今年度末(来年2、3月)に予定されている日弁連臨時総会で弁護士業務基本規程案を審議するのは困難になるというのであれば、今年度の総会ではなく次年度以降の総会においてその審議を行うという選択がなされて然るべきである。 5 結論 弁護士倫理のどのような内容に法的拘束力を持たせるかは、一人一人の弁護士の業務のあり方に大きく関わる問題であるだけでなく、弁護士に対する市民の信頼をより強固にするためにも、弁護士自治を守るためにも、きわめて重要な意味を持っている。 したがって、弁護士業務基本規程の最終案の策定にいたるまでに、会員の意見を十分に聞き、議論を尽くしたうえで、合意形成を図ることが必要不可欠である。 会長におかれては、以上述べたことを斟酌され、本意見趣旨の方向で検討されるように要望する次第である。 以上 |