具体的裁判事例からみる
  「弁護士費用敗訴者負担制度」の問題点


2003年4月1日

期成会代表幹事 鈴木堯博
期成会弁護士費用敗訴者負担制度反対プロジェクトチーム
座長 山本 孝・橋本佳子

 司法改革推進本部「司法アクセス検討会」において、現在、弁護士費用敗訴者負担制度の検討が集中して行われています。

 裁判所に持ち込まれる事件のほとんどは勝敗がはっきりしないものであるため、敗訴した場合に相手方の弁護士費用まで負担する制度が導入されたならば、一般市民や中小企業などの経済的弱者は、敗訴した場合の負担をおそれて提訴をためらうことになります。これでは司法へのアクセスが拡大するどころか減少することは必然です。

 期成会では、会員から寄せられた弁護士費用敗訴者負担制度が弊害をもたらす具体的事例を別紙のとおり整理、検討をしました。その結果、以下のように、経済的弱者の被害救済を中心に国民が裁判にかかわるほとんどの事件において、弁護士費用敗訴者負担制度の下では提訴は慎重にならざるを得ず、提訴をあきらめ、泣き寝入りの結果となる場合が大きいといわざるをえません。さらに、提訴をした後も敗訴した場合の大きな負担を考え、やむなく不本意な和解に追い込まれることも予想されます。

以上から、当会は弁護士費用敗訴者負担制度に強く反対します。

 bP〜5の消費者訴訟においては、被害者に決め手となる証拠が加害者側にある場合がほとんどです。同様の被害の実態や加害の手口等が社会的に明らかとなり、被害救済の必要性が認識されるまでの裁判では敗訴の確率が高いといわざるを得ません。それでも救済を求めて裁判に訴える被害者が続くことで社会問題化することができ、救済につながるという場合が少なくありません。

 bU、7、8などの不動産関係の事件も専門業者相手の訴訟で、個人としての原告が立証困難の場合が少なくない。

 bV〜11、26、27など、不法行為や債務不履行の中でも、特に、薬害、医療過誤等の相手方の過失の立証が困難な事件も弁護士敗訴費用敗訴者負担制度の下では提訴数の著しい減少につながります。

 bP7〜21の労働事件も、事実関係を立証する資料はほとんどが会社側にあること、解雇の正当事由の有無等の判断、法律判断(例えばbP8の「地位確認」)など判決の勝敗を予測することが困難な事件が多く、敗訴者負担制度の下では多くの労働者は提訴に踏み切れなくなります。

 bQ2のように人権侵害を理由とする慰謝料請求事件は、請求額が少額であるのに相手方の弁護士費用が高額の場合が多く、弁護士費用敗訴者負担となれば不公平な結果になるといわざるを得ません。bP6の株主代表訴訟事件における弁護士敗訴者負担も同様に不公平が著しい例です。

 bQ3の宗教法人に対する帳簿閲覧請求権のように判例が分かれている場合、弁護士費用敗訴者制度は提訴を躊躇する方向に影響を与えます。

 bQ4、25の公害訴訟、bQ6の薬害訴訟も、多くの被害者は長期間被害に苦しみ、訴訟を起こすことも困難な状態を強いらていることが多く、公害、薬害であることが解明された後であっても、加害者の法的責任追求訴訟において勝訴することは容易ではないのが現状です。

 bP4、15、29の行政訴訟での勝訴率は極端に低いというのが実情である。弁護士費用敗訴者負担制度の下では、行政事件は激減せざるを得ません。

 bQ8の嫌煙権訴訟など、当初は敗訴を余儀なくやされても裁判に訴え、やがて新しい権利の確立につながるような裁判も困難となってしまいます。

 bR0などの憲法裁判では、現実的には敗訴も覚悟で提訴をするというのが実情である。弁護士費用敗訴者負担制度は、敗訴を繰り返しながらも憲法違反という最も重大な権利侵害を糾していく国民の闘いを奪うことになります。

 

 弁護士費用敗訴者負担制度の不当性に関する裁判事例

1 変額保険

2 ワラント野村証券

3 先物取引・日本アクロス事件

4 空クレジット連帯保証請求

5 モデル工事商法事件〜クレジット名義貸し

6 手付金返還

7 欠陥住宅訴訟

8 リゾートマンション契約解除

9 欠陥カウンターテーブル〜転倒幼児死亡事故

10 コンビニ内転倒事故

11 カビキラー事件

12 統一教会青春返せ訴訟

13 遺産分割協議無効確認

14 婚外子手当打切無効訴訟

15 パチンコ店営業許可取消訴訟

16 三菱石油株主代表訴訟

17 カンタス航空事件〜有期雇用雇い止め無効訴訟

18 芝信用金庫女性差別事件

19 野村証券女性差別事件

20 フリーカメラマンの過労死事件

21 じん肺訴訟

22 人権侵害裁判(青梅)

23 宗教法人帳簿閲覧等請求事件

24 東京大気裁判

25 新横田基地公害訴訟

26 薬害ヤコブ

27 医療過誤訴訟

28 嫌煙権(禁煙車両設置請求)

29 被爆者認定

30 即位礼・大嘗祭違憲訴訟

 

 

1 事件名 変額保険・説明義務違反に基づく不法行為損害賠償請求一審判決(不当な判決など)

裁判所判決年月日・係属中結果 東京地裁平7.3.24判決 一部勝訴

事案・判決の概要(不当性) 

高齢者(本件63歳)の相続対策として銀行から9000万を借りて、保険金額や解約返戻金額が  特別勘定の資産の運用実績に基づいて増減する変額保険契約をしたものの、マイナスとなり、利子の支払いに窮し、契約を解約した男性が、銀行(担当者)、保険会社(担当者)に説明義務違反その他不法行為に基づく損害賠償の請求をしたもので、判決は保険会社(担当者)に過失相殺8割として責任を認め、銀行(担当者)の責任を否定した。二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所判決年月日・係属中結果 東京高裁平8.1.30判決一部勝訴(過失相殺を6割とする)最高裁平8.10.28判

上告棄却 判決の概要と敗訴者負担が導入された場合の問題点

控訴審の東京高裁は、過失相殺を原告の8割から6割へ下げた。その他は一審と変わらず。本件 は上告され、変額保険事件ではじめて保険会社の賠償責任を認めた最高裁判決となった(平成8.1 0.28夕刊)。

変額保険訴訟は、バブル崩壊後、大都市を中心に約600件が提訴され、はじめは保険会社、銀行 の責任を否定する判決が多かったが、次第に説明の内容状況から契約の錯誤とか、説明義務違反の不法行為責任を認める判決が目立つようになった。

本変額訴訟は、平成元年頃から相続税対策のキャンペーンにより変額契約がされるようになった 新しい形態だけに、判決のはじめのころの責任否定の流れの中で、もし敗訴者負担制度になっていたら、多くの被害者が躊躇したものと考えられる。

(出典) 判決コピー判時 1580号 111頁〜、 判例の流れのコメント 判時 1576号 61頁  日弁連消費者問題ニュース       号     頁  その他文献 → 他の判決として、判時1724号48頁 平12.9.11東高判決

2 事件名 ワラント野村証券一審判決(不当な判決など)

裁判所判決年月日・係属中結果 東京地方裁判所 H7.9.19 原告敗訴・請求棄却

事案・判決の概要(不当性)

1)50代の主婦が,本店投資相談室から勧誘されて,親から贈与されて保管していた株などをもとに株取引等を始めるうちにワラントを勧誘され,最後はほとんどワラントに誘導されて,失ったという事案。金額が多く,取引回数が400回を超えるのが特徴。

2)一審判決は,金額と取引回数から,説明の有無は問題にならないとして,請求棄却。二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所判決年月日・係属中結果 東京高裁 H9.7.10損害の5割=約1億円認容判決の概要

1)ワラントの危険性等についての説明義務を認め,損害の5割=約1億円を認容した。

敗訴者負担が導入された場合の問題点

1)投機的要素が強い取引は,一般人には理解しにくいし,証券会社の勧誘手法など,裁判官の理解が十分でない場合がある。一審判決は実態の理解不足ではないか。

2)参考判例

@ 東京高裁平成8年11月27日判決(判時1587号72頁)も逆転判決で大和証券に損害の7割の賠償を認めた。

A その他にも広島高裁,大阪高裁の逆転判決がある。

3)裁判所は,同種事案が増えないと理解を示さないことがあり、敗訴者負担制度となれば同種事業の積み重ねは期待できない。

(出典)判決コピー   判時     号     頁、判タ 984号 201頁  日弁連消費者問題ニュース  60号11頁(1999.9.10発行)  その他文献→

 

3 事件名先物取引・日本アクロス事件一審判決(不当な判決など)

裁判所判決年月日・係属中結果 原告一部勝訴(過失相殺7割)

事案・判決の概要(不当性)

1)被害額3570万円,そのうち手数料が1770万円。

2)過失相殺7割。

3)浮き玉と過大建玉誘導の違法のみ認める。

二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所判決年月日・係属中結果 東京高裁 H12.3.8 原告一部勝訴(過失相殺5割)

判決の概要

1)認容額1998万円。過失相殺5割。

2)控訴審は原審に加えて,断定的判断の提供,虚偽事項の表示等を認めた。

3)原審は担当外務員の証言をほぼ鵜のみにしたが,控訴審は外務員の証言は不自然とした。

敗訴者負担が導入された場合の問題点

1)控訴審では証拠調べが行われておらず,裁判官の理解程度の差で判決が変わった。先物取引は勝訴の予測がたてにくく、敗訴者負担制度導入の影響が大きい。

2)先物取引逆転判決の例として,前橋地裁敗訴,東京高裁過失相殺5割による勝訴(先物取引判例集23巻)がある。

(出典)判決コピー  判時     号     頁、判タ     号     頁   日弁連消費者問題ニュース  76号 8頁(2000.5.11発行)  その他文献→

 

4 事件名 空クレジット連帯保証請求一審判決(不当な判決など)

裁判所判決年月日・係属中結果 高裁連帯保証人敗訴

事案・判決の概要(不当性)

1)クレジット契約が、実際には購入していない「空クレジット」だった場合に,連帯保証人は責任を負うかという事件。

2)判決は連帯保証人に支払を命じた。

二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所判決年月日・係属中結果 最高裁H14.7.11連帯保証人勝訴

判決の概要

1)高裁判決も一審判決と同様であった。

2)最高裁は、空クレジットと通常の契約では保証人が負うべきリスクに見逃せない違いがある。連帯保証は錯誤があり無効。

敗訴者負担が導入された場合の問題点

形式的契約論で企業論理に追随した高裁判決は不当で,最高裁判決は常識にも合致し正当である。高裁判決のような不当判決は多々見られ,そのうえ弁護士費用まで負担させれたのでは,被害者は更に被害に苦しむ。

(出典)判決コピー  判時     号     頁、判タ     号         頁  日弁連消費者問題ニュース     号     頁  その他文献 →裁判所時報 1319号 3頁 日経新聞H14=2002年7月11日夕刊

5 事件名 モデル工事商法事件・クレジット名義貸し一審判決(不当な判決など)

裁判所 判決年月日・ 係属中 結果津地裁クレジット会社一部勝訴

事案・判決の概要(不当性)

セールスマンの不正行為により、顧客が名義貸しをし、クレジット会社が立替金請求をした事件。

販売会社と顧客の間で和解が成立していた。顧客の名義貸しについて,顧客がクレジット会社からの立替金請求を拒否することが信義則上許されないとは言えない。

二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所 判決年月日・係属中 結果 名古屋高裁 H8.8.29 クレジット会社全面敗訴

判決の概要

1)被害者である顧客に対し,不正行為をしたセールスマンの使用者である販売会社が自らの資金負担回避の意図を秘して,和解を拒めば信用情報上悪影響があると脅かして和解を取り付けた行為は,著しく正義に反する,と高裁判決は判断。販売会社と顧客の間での和解は民法90条により無効。顧客は割賦販売法30条の4の規定によりクレジット会社からの立替金請求を拒否できる。

敗訴者負担が導入された場合の問題点

高裁は,和解成立の経緯を考慮し,形式的な和解契約にとらわれなかった。形式的判断では被害者は,更に裁判所の判決による被害者となる。

(出典)判決コピー  判時     号     頁、判タ     号     頁  日弁連消費者問題ニュース  55号 6頁(1996年11月13日発行)  その他文献 →

 

6 事件名 手付金返還訴訟一審判決(不当な判決など)

裁判所 判決年月日 ・係属中 結果 横浜地裁川崎支部 原告勝訴

事案・判決の概要(不当性)

本訴ー買主が売主に対して、不動産売買契約について、融資利用特約に基づき、融資が得られなかったとして、契約を解除し、手付金250万円の返還を求めたもの。反訴ー買主が融資を断ったから、受けられなかったとして、売主が債務不履行により、契約を解除し、違約金826万円の支払を求めたもの。

一審は、買主の本訴請求を認めた。二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所 判決年月日・係属中 結果東京高裁 H14.7.1 逆転敗訴

判決の概要

二審は、銀行の融資も内定し、期限も到来していたので、買主が融資利用特約により契約解除する余地はなくなったとして、買主の本訴請求を棄却し、一審判決を取消し、逆に代金支払を拒絶したとして、反訴請求を認めた。

敗訴者負担が導入された場合の問題点

典型的な売買をめぐるトラブルの一般的民事事件である。売主(不動産業者)の契約書更新の作成上ミスもあって、買主(一般顧客)も感情的になっているとみられる。こうしたケースの場合、敗訴者への弁護負担が制度化されているとき、提訴への抑制にはならないと思うが、逆転敗訴により、負担させることは気の毒な事案である。

(出典)判決コピー 高裁事件番号 平成14年(ネ)第869号  判時     号     頁、 判タ     号     頁  日弁連消費者問題ニュース            号     頁  その他文献 →

 

7 事件名 欠陥住宅訴訟一審判決(不当な判決など)

裁判所 判決年月日・ 係属中 結果事案・判決の概要(不当性)

1)欠陥住宅の訴訟で売主,施工業者,建築士(設計監理),調査会社(業者依頼で調査)を被告として訴訟を提起している。

2)欠陥住宅訴訟では,建築専門分野のために,瑕疵立証の困難性があるうえ,建築会社は専門家であるから情報量の差が大きく,提訴段階において既に消費者は大きなハンディを負っている。しかも,消費者は,建築段階においては建築状況を十分観察していないためにできあがって隠蔽された部分の把握が困難である。

3)建築業界は,建築士が建築を監理するシステムになっているが,建築士は建築会社から仕事をもらうことで業務を成り立たせ,生計を得ている場合が多く現実は追従的である。しかも,下請けシステムでは,手抜きは当然化しており,裁判所で調停委員に任命されている建築士でさえ,建築基準法違反は普通の建築であって瑕疵ではないと公言する者さえいる。最近は,欠陥建築の鑑定人を選任しやすく最高裁と日本建築学会の連携がとられているが,建築士の中には上記のように建築基準法違反を軽視する者がいるので,鑑定の妥当性については不安が多い。

二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所 判決年月日・係属中 結果 判決の概要

敗訴者負担が導入された場合の問題点

1)売主,施工業者,建築士(設計監理),調査会社(業者依頼で調査)を被告として訴訟を提起したところ,被告は,それぞれ別の弁護士が受認した。

2)これまでの日本では建築基準法令違反が当然としてまかり通ってきた面も否定できず,鑑定人の意見も,法令遵守よりこの程度は普通という考えから適切でない場合が少なくない。3 万が一,原告が敗訴した場合,4名分の弁護士費用まで負担しなければならず,原告は,敗訴者負担制度があったら訴訟提起を決断できなかったと思う,と述べている。

(出典)判決コピー  判時     号     頁、判タ     号     頁  日弁連消費者問題ニュース     号     頁  その他文献 →市民集会「弁護士報酬の敗訴者負担制度」

 

8 事件名 リゾートマンション契約解除一審判決(不当な判決など)

裁判所 判決年月日・ 係属中 結果

事案・判決の概要(不当性)

1)スポーツ施設(テニスコート,プール等)の利用権付リゾートマンションを購入

2)購入者は屋内プール利用を主たる目的としてマンション購入したが,屋内プールが建設されなかった。原告はマンション売買契約及び会員契約を解除。

3)一審は原告勝訴。

二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所 判決年月日・係属中 結果 最高裁 1996年11月12日 マンション購入者逆転勝訴

判決の概要

1)高裁で敗訴。高裁は別個の契約として判断。

2)最高裁は、二個の契約の関連性から不動産売買契約の解除を認めた。

敗訴者負担が導入された場合の問題点

1)二個の契約を独立のものとしか見なかった高裁判決は,伝統的な理論にのっただけで,健全な常識には欠けていた。本件の高裁判決のような非常識な判決は,まれではない。

2)裁判所の判決が,常識と明快さを欠き,法理論的に可能であるにも関わらず,国や大企業に追随していては社会は腐敗する。

3)常識に反した判決が少なくない状況で,弁護士費用敗訴者負担が導入されれば,社会的健全な要求が通らない社会となり,社会は活力を失う。

(出典)判決コピー  判時 1585号 21頁 、 判タ 925号 171頁  日弁連消費者問題ニュース  56号6頁(1997年1月14日)  その他文献 →

9 事件名 欠陥カウンターテーブル転倒幼児死亡事故訴訟一審判決(不当な判決など)

裁判所 判決年月日・係属中 結果福島地裁郡山支部 平7・7・25 原告敗訴

事案・判決の概要(不当性)

1)平成5年山形県鶴岡市で2歳8か月の男児がカウンターテーブルにぶら下がった。カウンターテーブルは重さ19.7キロであったが,横転し,男児は急性心不全で死亡した。

2)一審は,横転しやすい性質を認めながら,ぶら下がることが通常の使用方法と異なるとして,原告の請求を棄却。

二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所 判決年月日・係属中 結果仙台高等裁判所 平8・1・30和解  和解1600万円

判決の概要

1)第1回口頭弁論で、裁判所は、「当裁判所はこのテーブルの欠陥について原審と同じ考えをとらない」と述べて、和解勧告。

2)製造業者が1100万円,設置していた店が500万円を原告に支払い,互いに求償しないという和解が成立した。

敗訴者負担が導入された場合の問題点

1)判例時報等で原審の判決を是とするかの解説がなされているが,控訴審の和解勧告で否定されていると考えられる。

2)原審はテーブルの安全性を欠いた状態を考慮せず,安易に誤使用と判断しており、誤った判決によって敗訴者負担を強要されるおそれがある。

(出典)判決コピー  判時 1552号 103頁 、 判タ     号     頁  日弁連消費者問題ニュース 52号7頁(1996年5月15日発行)  その他文献 →

 

10 事件名 コンビニ内転倒事故一審判決(不当な判決など)

裁判所 判決年月日・ 係属中 結果 大阪地方裁判所  平12・10・31 原告敗訴

事案・判決の概要(不当性)

1)事案は、コンビニ内における床掃除で水分を十分ふきとらずに滑りやすくなっていて、お客の女性(原告)が転倒し、腕を縫うけがをした。

2)一審判決は請求棄却。

二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所 判決年月日・係属中 結  果大阪高等裁判所  平13・7・31 原告一部勝訴

判決の概要

請求原因事実を認めた上で、被害者にも過失(靴底が減って滑りやすい、両手がふさがっていた)があったとして5割の過失相殺を認めた。敗訴者負担が導入された場合の問題点

1)高裁判決は,「加盟店やその従業員に,水拭き後にからぶきするなど顧客が転ばないよう床の状態を保つよう指導する義務を怠った」と認定している。

2)本来安全な場所が,転倒しやすい状態であったことについて責任を認めなかった一審判決には常識が欠落している。常識に反する判決により、敗訴者負担を強要されるおそれがある。

(出典)判決コピー  判時 1764号 64頁 、 判タ     号     頁  日弁連消費者問題ニュース     号     頁  その他文献 → 日本経済新聞 平成13年8月1日

 

11 事件名 カビキラー事件一審判決(不当な判決など)

裁判所 判決年月日・ 係属中 結  果東京地裁  H3.3.28. 勝訴

事案・判決の概要(不当性)

1)昭和57年カビキラーを使用して呼吸困難に陥り救急車で入院。その後,香水,たばこの煙や微量の化学物質で呼吸困難が発生するようになった。北里大学病院で「化学物質過敏症」と診断され た(診断者はアメリカで学んできた「化学物質過敏症」の日本の第一人者)。

2)提訴。メーカーは,訴訟で争う一方で,次亜塩素酸ナトリウム等の危険物質の濃度を下げ,噴霧式からムース式に製品改良。

3)原告勝訴

二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所 判決年月日・係属中 結果 東京高裁  H6.7.6 敗訴

判決の概要

1)被害は一過性。

2)「化学物質過敏症」は仮説。

3)原告敗訴

敗訴者負担が導入された場合の問題点

1)「化学物質過敏症」は,現在は,厚生労働省も認める疾病。シックハウス症候群もそのひとつ。「化学物質過敏症」を仮説にすぎないとの判断は,あまりにも先が見えない判決。裁判官に50年先を見ろとは言わないが,後ろばかり見ている保守性では真実は発見できない。

2)科学的理解能力が乏しい裁判官による不当判決で敗訴し,被告の弁護士費用も負担するのでは二重の不当判決となってしまう。

(出典)判決コピー 地裁判決=判時1381号21頁、高裁判決=判タ856号227頁 日弁連消費者問題ニュース     号     頁 その他文献 → 市民集会「弁護士報酬の敗訴者負担制度」 (原告・・・村山章)

 

12 事件名  統一教会青春返せ訴訟一審判決(不当な判決など)

裁判所 判決年月日・係属中 結果 岡山地裁 H10.6.3 原告敗訴

事案・判決の概要(不当性)

1)霊感商法などの違法活動をさせられ,精神的苦痛を受けた等として統一教会に慰謝料請求を求めた訴訟。

2)一審は請求棄却。

二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所 判決年月日・係属中結果広島高裁岡山支部H12.9.14原告勝訴

判決の概要

正体を偽って勧誘した後,更に偽占い師を仕立てて演出して欺罔し,原告の不安をあおる等して自由意思を制約し,宗教選択の自由や自由に生きるべき時間を奪ったとして請求を認容。統一教会に支払を命じた。 敗訴者負担が導入された場合の問題点1 高裁判決が実態論に踏み込んで判決していて逆転勝訴となっている。一審判決は,紹介されて いないので詳細は不明であるが,高裁判決は勧誘実態に踏み込んで丁寧に事実認定をしてい る。丁寧な判決と評価できる。2 一審判決では,事実認定に問題があった可能性がある。このような不当判決で,弁護士費用ま で負担させれたのでは,被害者は更に被害に苦しむ。

(出典)判決コピー  判時1775号93頁、判タ     号     頁  日弁連消費者問題ニュース     号     頁  その他文献 → 朝日新聞 H12=2000年9月15日

 

13 事件名 遺産分割協議無効確認の訴え一審判決(不当な判決など)

裁判所 判決年月日・ 係属中 結果横浜地裁 H13.11.8 請求棄却

事案・判決の概要(不当性)

1)遺産分割協議書がある。

2)その後,遺言書,第三者に対する贈与契約があること,遺産の明細が示されずに遺産分割協議 が為されたことを発見

3)相続人の一人が遺産の92%を取得

4)遺産分割協議書を理由に請求棄却の判決二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所 判決年月日・係属中 結果東京高裁 H14.6.14 和解

判決の概要

1)控訴審は,第1審判決は問題がありすぎると指摘した。

2)和解は遺言書に基づいて調整のうえ成立した。

3)第1審判決は,法律上も常識上もあまりにも問題がありすぎたもの。敗訴者負担が導入された場合の問題点本件事案で敗訴者の費用負担を,第1審判決に基づくとすると問題がありすぎる

(出典)判決コピー 横浜地裁 平成12年(ワ)第2018号         東京高裁 平成13年(ネ)第6424号  判時     号     頁、判タ 号     頁  日弁連消費者問題ニュース     号     頁  その他文献 →公刊物非登載事件である(問い合わせは弁護士大河原弘氏へ)

 

14 事件名 婚外子手当打切無効一審判決(不当な判決など)

裁判所 判決年月日・ 係属中 結果 奈良地裁  H6.9.28

事案・判決の概要(不当性)

児童扶養手当法の施行令が、母親が結婚しないで出産した子(婚外子)への手当支給は父親が認知したら打ち切ると定めていたことの有効性が争われた事件。両親が離婚した母子家庭(当然、父子関係は確定している)、事実婚を解消した母子家庭と状況は変わらないのに、なぜ婚外子だけが不支給となるのかという問題があった。奈良県知事,広島県知事による打ち切り処分に対し二つの訴訟が提起された。一審判決は憲法14条に違反するとして、打ち切り処分無効とした。二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所 判決年月日・係属中 結果最高裁判所第1小法廷  H14.1.31原告勝訴(施行令無効)

判決の概要

高裁判決(H7.11.21)は、原告逆転敗訴。最高裁は合憲問題には踏み込まなかったが、「規定は母子家庭を支援しようという法律の趣旨に反し無効」と判示した。2事件とも原告勝訴。

敗訴者負担が導入された場合の問題点

下級審で合憲・違憲と判断がわかれた。規定自体は,「不平等」との批判を受けて1998年に削除された。現在は認知後も手当が支給される。行政を被告とした訴訟は壁が大きいといわれるのは現実である。最高裁で規定が無効とされ,規定自体も訴訟中に削除されるようなものであっても,下級審で敗訴している。このような事例を考えると,弁護士費用を敗訴者負担とする制度のもとでは,行政の不当な制度を改めることが困難となり,国民の人権を守るべき裁判所が機能しなくなるおそれが強い。

(出典)判決コピー  判時     号     頁、判タ 1085号 169頁  日弁連消費者問題ニュース     号     頁  その他文献 → 朝日新聞2002年1月31日夕刊

 

15 事件名 @パチンコ店営業許可取消訴訟、A国家賠償請求訴訟一審判決(不当な判決など)

裁判所 判決年月日・係属中 結果@東京地裁A東京地裁八王子支部 H7.11.29H13.5.23 敗訴(控訴)敗訴(確定)

事案・判決の概要(不当性)

専用駐車場が第一種住居専用地域にはみ出しているにもかかわらずなされたパチンコ店の営業許可処分は風営法違反であるとして周辺住民が取消訴訟を提訴(@)。また、違法な営業許可処分により住環境を破壊されたとして国家賠償訴訟も提訴(A)。

@取消訴訟 風営法は、個々人の個別的利益を保護しておらず、したがって、周辺住民には原告適格なし、として却下。

A国家賠償請求訴訟 東京都公安委員会がなした営業許可は違法であるが、原告らの損害とは因果関係がないとして請求は棄却。 ただし、理由中で営業許可処分が違法であること、相当期間経過するも何ら是正の措置を講じない場合は不作為の違法になることを指摘。

二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所 判決年月日・係属中 結果@東京高裁,最高裁 H8.9.25, H10.12.17 いずれも敗訴

判決の概要

@取消訴訟の控訴審、上告審周辺住民には原告適格なし、として控訴、上告棄却。

敗訴者負担が導入された場合の問題点

1)取消訴訟はすべて敗訴したが、国家賠償請求訴訟において裁判所は理由中で営業許可処分が違法であることを明確に認め、その2か月後に東京都公安委員会は、営業許可処分に条件(制限)を付加して違法状態を解消し、実質的に住民側の要求が実現された。

2)この場合、行政訴訟での地裁、高裁、最高裁の相手方弁護士の費用、国家賠償請求訴訟での相手方弁護士の費用を住民が負担しなければならないとすれば、住民は訴訟など提起できない。

3)まして主文は「敗訴」でも、実質は住民勝訴であり、違法状態の解消は社会的にも歓迎すべきこ とである。にもかかわらず、相手方の弁護士費用を住民が負担しなければならないとすれば、誰 が違法状態を解消しようと立ち上がるか。違法は野放しにされ、社会的マイナスは大である。

(出典)判決コピー@地裁 判時1558号22頁、高裁 判時1601号102頁、最高裁 判時1663号102頁その他A地裁 判例地方自治 その他文献 →『自由と正義』2002年4月号

 

16 事件名 三菱石油株主代表訴訟一審判決(不当な判決など)

裁判所 判決年月日・ 係属中 結果H13.7.6 原告敗訴

事案・判決の概要(不当性)

1987年から95年までの間に、三菱石油鰍ェ石油商泉井純一に60億円以上の資金を提供していたことが発覚し、泉井は逮捕、有罪が確定した。三菱石油では役員でない担当者だけが懲戒解雇されたにとどまり、役員らは責任をとらなかった。平成11年に,株主から株主代表訴訟を提起したが,原告は全面敗訴した。関連訴訟(刑事・民事)の記録などから金銭の流れは明白であり,60億円もの金員の流出に取締役の誰も責任をとらなくて良いというこの判決に,マスコミも強く批判した。

二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所 判決年月日・係属中 結果H14.4.原告一部勝訴

判決の概要

高裁では、60億円のうち認容額は1億8000万円であるが一部勝訴となった。訴訟費用は,控訴審でも原告が10分の9を負担する判決であった。敗訴者負担が導入された場合の問題点控訴審で原告一部勝訴となったが,被告代理人の勝訴金額は約58億円となり,その3パーセントでも約1億7000万円となる。勝訴による1億8000万円は,株主代表訴訟の性格上,会社に入る。勝訴金員1億8000万円は会社に入り,原告は会社のために行動して1億7000万円の弁護士費用を負担するということになったら,経営者の責任追及制度である株主代表訴訟は機能しなくなる。

(出典)判決コピー  判時     号     頁、判タ 1084号 113頁  日弁連消費者問題ニュース     号     頁  その他文献 →

 

17 事件名 カンタス航空事件一審判決(不当な判決など)

裁判所 判決年月日 ・係属中 結果 東京地裁 H12.3.30 原告敗訴

事案・判決の概要(不当性)

雇用期間1年、更新の期間を5年と区切った契約社員12名を、9〜10年後に期間満了を理由に、雇止めを行ったことについて解雇法理の適用が争われた事件。判決は、期間満了後なお雇用関係の継続を期待する合理性があるとはいえないとして雇止めを有効とし、請求を棄却した。二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所 判決年月日・係属中結果 東京高裁 H13.6.27 逆転勝訴

判決の概要と敗訴者負担が導入された場合の問題点

判決は期間の定めのある契約であっても、更新を重ね期間の定めのない契約と異ならない状態にあり、労働者も期間が満了をしたという理由だけで雇止されないと期待、信頼し、そのような相互関係のある労働契約が存続していた場合には解雇法理が類推適用でき、特段の事情ない限り雇止め信義則上許されないとした。

判決の概要と敗訴者負担が導入された場合の問題点

一、二審判決とも、「東芝柳町」「日立メディコ」の最高裁の判例を援用しながら、結論が異なった判決が出されているのである。そのような微妙な事件について一審段階で敗訴者に相手方の弁護士費用を負担させることの不当性は明白。

(出典)判決コピー  判時     号     頁、 判タ 1096号 276 頁  日弁連消費者問題ニュース          号    頁  その他文献 → 労働法律旬報1516号71頁


18 事件名 芝信用金庫女性差別事件一審判決(不当な判決など)

裁判所 判決年月日 ・係属中 結果東京地裁 H8.11.27 原告勝訴

事案・判決の概要(不当性)

昇格試験制度の下でも男性はほぼ年功で昇格し、女性は試験に受からない仕組みであるとして、原告13名が課長職に昇格した地位確認と差額賃金の請求。判決は、男性は年功で昇格させる労使慣行があったのに、女性にはそのような運用をしていないとして、はじめて昇格した地位確認と差額賃金の支払いを命じた。年齢の若い一名敗訴。

二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所判決年月日・係属中 結果東京高裁 H12.12.22 原告勝訴

判決の概要

地位確認、差額賃金の他に慰藉料、弁護士費用まで認めた。

敗訴者負担が導入された場合の問題点

昇格した地位の確認というこれまで認められていない困難な裁判であり、敗訴者負担制度が導入されたなら、男女差別は明かであっても、提訴をためらわざるを得ない。 なお、本件はH14.10.24最高裁で和解成立。

(出典)判決コピー  判時 1588号 3頁、1766号 82頁 、 判タ   号   頁  日弁連消費者問題ニュース         号     頁  その他文献 → 労働法律旬報1398号、1498号

 

19 事件名 野村證券女性差別事件一審判決(不当な判決など)

裁判所 判決年月日 ・係属中 結東京地裁 H14.2.20 原告一部勝訴

事案・判決の概要(不当性)

    男性は13年目に課長代理に自動的に昇格、女性は昇格せず、均等法以後、男性を総合職、女性を一般職と名称を変更してコース別を導入した男女別処遇による総合職課長代理との地位確認と差額賃金等の支払を求めた(原告13名)。判決は、男女別処遇を憲法14条の趣旨に反するが原告らが入社した1957〜1965年当時は公序に反しないとした。但し、改正均等法施行の1999年4月以降は違法とし、慰謝料支払を命じた。

二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所 判決年月日・係属中 結果東京高裁 係属中

判決の概要、敗訴者負担が導入された場合の問題点

一審判決は、改正均等法施行以前の違法を認めなかったため、原告らの敗訴部分は大きい。特に、差額賃金額が大きいため、もし相手方の弁護士費用を支払うことになった場合、会社の勝訴部分が大きく、その額も大きくなる。コース別人事制度の男女差別性を争うなど、困難な裁判で敗訴者負担制度が導入されたなら、ただでさえ差別されて少ない賃金しか得ていない女性労働者が裁判を起こすことは困難となる。

(出典)判決コピー  判時     号     頁、 判タ    号     頁  日弁連消費者問題ニュース          号     頁  その他文献 → 労働法律旬報1526号


20 事件名 フリーカメラマン過労死事件一審判決(不当な判決など)

裁判所 判決年月日 ・係属中 結果東京地裁 H13.1.25 敗訴

事案・判決の概要(不当性)

フリーの映画カメラマンがドキメンタリー映画のロケで連日0度以下の厳寒の下で、徹夜も含む9日間休みなしの仕事後の移動中に、脳梗塞で死亡。労災申請で、労働者性が否定され、敗訴した。一審判決も、使用者の指揮監督関係になく、報酬も出来高性が強いとして、労働者性を否定し、請求棄却。

二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所 判決年月日・係属中 結果東京高裁 H14.7.11 勝訴

判決の概要

二審判決は、カメラマンに裁量権限があるものの、最終決定は映画監督にあるとし、報酬も賃金と認め、労働者性を認めた。

敗訴者負担が導入された場合の問題点

労災の前提としての労働者性が微妙な場合の裁判の見通しは、困難な場合が多い。敗訴の可能性も認識しながら、提訴にふみきる例も少なくない。敗訴者負担制度は提訴をふみとどまる方向で影響する。

(出典)判決コピー  判時 1749号 165頁、 判タ     号      頁  日弁連消費者問題ニュース        号      頁  その他文献 →

 

21 事件名 じん肺訴訟一審判決(不当な判決など)

裁判所 判決年月日・係属中 結果事案・判決の概要(不当性)

労働現場での粉じんの吸引によって起こる不可逆性、進行性の職業病で、1970年代後半から企業や国のじん肺加害責任を追及する訴訟を次々と提起。これまでに加害企業の責任を認める38件の判決および80件以上の和解が成立。

二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所 判決年月日・係属中 結果判決の概要 敗訴者負担が導入された場合の問題点

1)当初、加害企業が責任を免れるために消滅時効の主張をし、企業責任を免除する判決も出て、賠償額を大幅に切り下げる判決も出た。その様な中、原告団らが最高裁宛の100万人署名に取り組むなどして、現在ほぼ加害企業の責任は不動のものと確立した。

2)もし弁護士費用の敗訴者負担という制度があったら、果たして勝てるか、時効は突破できるかという不安を引きずった訴訟など到底提起できず、今日のじん肺患者の救済はなかったであろう。

(出典)判決コピー   判時1785号85頁、 判タ     号     頁   日弁連消費者問題ニュース     号     頁   その他文献 →

 

22 事件名 人権侵害裁判一審判決(不当な判決など)

裁判所 判決年月日・係属中 結果 東京地裁八王子支部 H12.12.25 一部勝訴事案

判決の概要(不当性)

通学費の補助を求めて署名運動をした母親の一人が、青梅市の百条委員会に呼び出され、執拗に運動体の組織の内容や原告の所属団体などを尋問し、あげくの果てはこの署名運動は原告ら共産党関係者が共産党のためになした巧妙な選挙運動の一環であるとして市議会本会議で報告をされ、かつ市議会広報紙で全世帯にまかれた。原告は名誉毀損等を理由として青梅市と関与した議員を被告に300万円の慰謝料請求訴訟を提起した。一審は名誉毀損を認め青梅市に対して80万円の慰謝料請求を認めた。

二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所 判決年月日・係属中 結果東京高裁最高裁 H13.10.25係属中 逆転敗訴

判決の概要

被告らには名誉毀損をしたと信じるにつき相当な理由があり、違法性は阻却されるとして、慰謝料請求認めず。直ちに上告。

敗訴者負担が導入された場合の問題点

1)被告青梅市が本訴訟についてのみ代理人に支払った弁護士費用を、平成8年度から同13年度までの決算報告書の中から拾い出し確認したところ、実に合計4,239,185円に達していた。ここには、交通費、通信費等の諸経費も含まれているが、法廷が開かれた回数はそう多くはなく、ほとんどすべて弁護士報酬であると思われる。

2)原告は慰謝料300万円の請求をしたが、仮に敗訴すれば請求額どころでない弁護士費用を負担しなければならない。一介の市民が400万円以上もの弁護士費用を支払えるわけがない。敗訴すれば自宅も競売され、住む場所も失う。自分が住んでいる町を相手に訴訟を提起するだけでも大変な勇気がいるのに、住む場所まで失う覚悟で訴訟を提起する人がどこにいようか。結局住民は権力による人権侵害に泣き寝入りし、権力の横暴は野放しとされる。

(出典)判決コピー   判時1747号110頁、 判タ     号     頁  日弁連消費者問題ニュース     号     頁   その他文献 →

 

23 事件名 宗教法人会計帳簿等閲覧請求事件一審判決(不当な判決など)

裁判所 判決年月日 ・係属中 結果浦和地裁 H5.6.26 原告敗訴 

事案・判決の概要(不当性)

被告寺の運営はかねてから檀家によってなされており、檀家が寺と檀信徒会に会計帳簿等の閲覧を請求した事件。

一審判決は、宗教法人法や寺の規則に檀信徒に責任追及することを認める規定がないこと等を理由に請求棄却。

二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所 判決年月日・係属中 結  果 東京高裁 H6.3.23 逆転勝訴 最高裁 H10.4.1  上告棄却

檀信徒に宗教法人法25条2項の宗教法人の書類、帳簿備付義務から閲覧謄写請求権が認められるかについて判例は分かれていたが、高裁判決は、積極説に立ち、請求を認めた。最高裁も上告棄却。

敗訴者負担が導入された場合の問題点 法解釈について、判例も分かれているケースについて、敗訴者負担制度のもとでは敗訴も覚悟して提訴を躊躇することにつながる。

(出典)判決コピー  判時 1507号 133頁、 判タ     号      頁  日弁連消費者問題ニュース        号      頁  その他文献 →

 

24 事件名東京大気汚染公害訴訟一審判決(不当な判決など)

裁判所 判決年月日・係属中 結果東京地裁 H14.10.29 原告一部勝訴

事案・判決の概要(不当性)

1)1996年5月提訴。以下は,提訴時の状況

@認定患者と未認定患者を原告とし,自動車メーカーの公害発生責任を初めて問う。

A提訴時,西淀川一次判決(1993.1),川崎一次判決(1994.1)という自動車排ガスと健康被害との因果関係否定の判決が続き,西淀川2〜4次判決(1995.7)で初めて国の責任が認められたばかりであった。

2)判決は,国・東京都・首都高速道路公団の責任を認めたが,自動車メーカーの責任を認めなかった。

3)判決は,救済の範囲を幹線道路沿道50メートルに限定した。

二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)裁判所 判決年月日・係属中結果東京高裁係属中

判決の概要

敗訴者負担が導入された場合の問題点

1)提訴時,原告には印紙代等のため加入金80,000円,月額3,000円(認定患者),1,000円(未認定患者)を負担してもらっているが,これでも訴訟を断念した人が相当数いた。

2)裁判所の賠償レベルが低いので,正当な請求金額(1500万円〜5000万円)との差があり,勝訴しても被告弁護士費用が高額となりえて被害救済の妨げとなる。

3)被害者の範囲を沿道50メートルで区切ることに合理性があるか,大気汚染の原因である自動 車を作っているメーカーに責任無しということも問題があり,裁判所の判断は高裁で変わる可能性は大きい。このような事案で敗訴者負担が導入された場合は,一部勝訴でも被害者の負担が大きく不当な結果を招く。

(出典)判決コピー  判時     号     頁、判タ     号     頁  日弁連消費者問題ニュース     号     頁  その他文献 →

 

25 事件名 新横田基地公害訴訟一審判決(不当な判決など)

裁判所 判決年月日・係属中 結  果

(対米)東京地裁八王子支部 H9.3.14 却下
(対国) 同 H14.5.30 原告一部勝訴

事案・判決の概要(不当性)

横田基地周辺住民約6000名が、航空機騒音の夜間差し止めと損害賠償請求を求めて国とアメリカ政府を相手に提訴。
 対米訴訟は、外国国家に対し民事裁判権は及ばないとして却下。
 対国訴訟は、過去の損害賠償請求のみ認め(総額約24億円)、差し止め、将来の損害賠償請求
については請求棄却。

二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所 判決年月日・係属中 結  果

(対米)東京高裁、最高裁 H10.12.25、H14.4.12 いずれも却下
(対国) 東京高裁 係属中

判決の概要

(対米) 米軍の飛行行為はアメリカの主権的行為であり、民事裁判権は免除される。
 
敗訴者負担が導入された場合の問題点

1.対米訴訟は応訴すら拒否されたので代理人はつかず。対国訴訟は代理人は 訟務検事と事務官であり、弁護士はつかない。今のままでは弁護士費用の敗訴者負担の問題はおきない。

2.しかし、この制度が導入されれば、国は民間活力導入と称して大勢の弁護士を投入して、敗訴部分の住民への弁護士費用の負担を迫り、大規模訴訟を抑制してくる可能性は大きい。また、アメリカ政府も最高裁判決を盾に大弁護団で応戦してきて、弁護士費用の住民負担を武器に対米訴訟を阻止してくることは十分あり得る。

3.「対米訴訟」と「差止請求」は、目下訴訟で勝訴することは困難な負け覚悟の請求である。しかし、それでも住民の悲願は「夜間飛行差し止め」であり、それがこの横田基地公害訴訟の生命線である。しかし、敗訴者負担制度が導入され、日米政府が大弁護団を組まれれば、これら勝ち目のない訴訟を提起することはまったくできなくなる。

 (出典)判決コピー
   判時1790号47頁、 判タ     号     頁
   日弁連消費者問題ニュース     号     頁
   その他文献 →


事件名  薬害ヤコブ病

一審判決(不当な判決など)
裁判所 判決年月日・ 係属中 結  果
 東京地裁・大津地裁  H14.3.25 和解 確認書成立・和解成立

 事案・判決の概要(不当性)
1 ドイツの医療機器メーカーB・ブラウン社製のヒト死体硬膜製品が、ヤコブ病の病原体に汚染さ
 れていたために、移植を受けた者が、長期(数年〜10数年)の潜伏期間を経てヤコブ病を発症し
 た事件、患者は無言無動となり、ほとんどは1〜2年で死にいたる。
2 原因となった手術(硬膜移植)から発症まで期間があり、証拠の確保等の問題があった。また、
 輸入承認が古く,輸入していた日本の総代理店は活動を停止していた。
3 製造企業がドイツであり,調査及び訴訟被告として困難性があり,また訴訟長期化が懸念され
 た。
4 ヤコブ病自体の数が少ない病気であり、一般に知られていない病気であった。

 敗訴者負担が導入された場合の問題点
1 和解においては、B・ブラウン社が和解金の多くを負担したが、外国企業の代理人弁護士費用まで敗訴した場合に負担する可能性が生じるとなると、提訴に踏み切ることは大きな障害であった。
2 和解成立段階では和解金の多くを負担したB・ブラウン社を,当初の訴訟段階では被告としておらず,日本の子会社でなく外国企業そのものを直接被告とすることが薬害事件では初めてであ った。こうした新しい訴訟形態において、敗訴者負担制度は大きな障害である。


 (出典)判決コピー
  判時     号     頁、判タ     号     頁
  日弁連消費者問題ニュース     号     頁
  その他文献 → http://www.cjd−net.jp/index.htm
法学セミナー44巻11号64頁



26 事件名 医療過誤訴訟

一審判決(不当な判決など)

裁判所 判決年月日・ 係属中 結  果

 事案・判決の概要(不当性)

 医療過誤訴訟における患者側の勝訴率は,2001年度でおよそ40%,一般民事事件の原告勝訴率が80%台であることを考えると,困難な事件類型である。
 医療過誤訴訟では,患者は「3つの壁」といわれるハンディを負っている。@専門性の壁(被告の専門領域での闘い),A密室性の壁(患者にとって医療過程が見えない。カルテに記載のない医療経過が突然主張されたりする),B封建制の壁(医療界の相互批判を許さない体質)がある。そのうえ,患者側は証拠保全等で,訴訟提起可能かどうかの判断をする段階で相当の費用負担をしいられる。

二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所 判決年月日・係属中 結  果

判決の概要

敗訴者負担が導入された場合の問題点

1 訴訟は金銭賠償というものになるが,患者側がまず欲するのは,真実の究明と責任の所在を明らかにするということであり,その決意によって訴訟提起に踏み切っている。医療過誤訴訟は,現実の医療過誤被害のごく一部であり,多くの医療被害者が訴訟提起すら躊躇している。

2 現在でも,医療過誤訴訟を担当している弁護士は,依頼者から「訴訟に負けたら病院側の弁護士さんの費用も払わなければならないのでしょうか」と心配そうに尋ねられた経験をもっている。医療事故情報センターが,医療過誤訴訟や医事紛争に関わった市民を中心に,「弁護士費用の敗訴者負担が導入された場合,医療過誤訴訟を提訴しにくくなるか?」という問いかけをしたところ,回答の82%がこれを肯定している。
 弁護士費用の敗訴者負担は,司法改革の目的と相反している。

 (出典)判決コピー
  判時     号     頁、判タ     号     頁
  日弁連消費者問題ニュース     号     頁
  その他文献 →


27 事件名 嫌煙権訴訟(禁煙車両設置請求)

一審判決(不当な判決など)

裁判所 判決年月日・ 係属中 結  果

東京地裁 S62.3.27 請求棄却 (確定)

事案・判決の概要(不当性)

1 国鉄を利用している市民が,国鉄の全旅客列車の半数以上を禁煙車にすることを求めた訴訟。

2 判決は,請求が成り立つためには
@ 侵害を受ける現実の危険が必要
A 交通手段,列車別,時間帯によって煙を避けることができ,現実の危険は乏しい
B 受動喫煙の有害性の確かな立証はない
C わが国は従来喫煙に対して寛容等から,
受忍限度内と判断した。

二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所 判決年月日・係属中 結  果

(一審で確定)

判決の概要

敗訴者負担が導入された場合の問題点

1 現在から見れば禁煙車両がないなんて考えられない野蛮な事態である。

2 判決の論理は,いかにも裁判官が考えそうな理屈で,判例解説も「練られた構成」もされていると評している。しかし,列車に乗る時間は暇人でなければ選べないし,代替交通も限られるなかで禁煙車両を認めなかったのは野蛮時代の判決である。
  煙くて気分が悪くなる・吐き気がするのは人格権の侵害である,公共交通手段である列車は,禁煙車両を設けるべきである,という理論で原告を勝訴させることは可能である。裁判所の御大層なもって回った理屈は,ときに馬鹿らしいだけである。

3 裁判所の判決が,常識と明快さを欠き,法理論的に可能であるにも関わらず,国や大企業に追随していては社会は腐敗する。本件のような判決は,その後も多数ある。社会的健全な要求が通らないで敗訴者負担では,社会は活力を失う。

(出典)判決コピー
  判時1226号33頁、判タ     号     頁
  日弁連消費者問題ニュース     号     頁
  その他文献 →


28 事件名 被爆者認定

一審判決(不当な判決など)

裁判所 判決年月日・ 係属中 結  果

事案・判決の概要(不当性)

1 原爆症認定を求めた訴訟で勝訴例は2例ある。現在も東京と札幌で行われている。

2 2002年7月9日に75人が認定申請を行い,9月6日に60人が集団で認定申請を行った。訴訟まで行く可能性が高い。

3 これまでの勝訴例2例は確定まで12年,13年と長期訴訟であった。

4 国の認定制度運用を変えようとする訴訟であり難しい訴訟である。

二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所 判決年月日・係属中 結  果

判決の概要

敗訴者負担が導入された場合の問題点

1 国の認定制度で否定された人の訴訟であり難しい訴訟である。立証問題も相当厚い立証が必要であるし,反証も相当行われる。医学が未解明の分野を残すかぎり,立証責任を負担する原告の苦労は多い。

2 国の応訴で長期にわたり,敗訴した場合,敗訴者負担は原告に過酷なものとなる。

3 一般論としても,提訴することに,それなりに合理性がありながら,行政の行為に対する訴訟に は困難が多く,提訴をためらうケースが多い。その結果として不当性,違法性が何時までも放置されることになる。敗訴者負担制度が導入されると,このような訴訟はますます困難となり,国民の訴訟を受ける権利が実質的に確保できなくなる。

(出典)判決コピー
 判時     号     頁、判タ     号     頁
 日弁連消費者問題ニュース     号     頁
 その他文献 →市民集会「弁護士報酬の敗訴者負担制度」


29 事件名 即位礼・大嘗祭違憲訴訟

一審判決(不当な判決など)

裁判所 判決年月日・ 係属中 結  果

横浜地裁 H11.9.27 原告敗訴

事案・判決の概要(不当性)

1 神奈川県知事らの,天皇即位式への出席及び費用支出が違憲であるとする訴訟。

2 国・天皇の行為に関する訴訟であり難しい訴訟であるが,政教分離の問題に関わる重要な訴訟である。

3 一審は原告敗訴。

二審・三審判決又は和解(逆転した結果など)

裁判所 判決年月日・係属中 結  果

東京高裁 H14.9.19 原告敗訴

判決の概要

原告敗訴

敗訴者負担が導入された場合の問題点

1 即位式は,天皇を神であり統治権者としていた戦前と同じく,神道方式で行われており,政教分離の問題が問われた。

2 1997年に出された愛媛玉串料最高裁大法廷判決は,靖国神社への公金支出は意見であると判断した。違憲訴訟は,原告・弁護団とも手弁当による犠牲的行為で成り立っており,敗訴した場合,敗訴者負担は原告に過酷なものとなる。

3 一般論としても,提訴することに,それなりに合理性がありながら,行政の行為に対する訴訟には困難が多く,提訴をためらうケースが多い。その結果として不当性,違法性が何時までも放置されることになる。敗訴者負担制度が導入されと,このような訴訟はますます困難となり,国民の訴訟を受ける権利が実質的に確保できなくなる。

(出典)判決コピー
  判時 1741号 53頁 、 判タ     号     頁
  日弁連消費者問題ニュース     号     頁
  その他文献 → 判例地方自治206号52頁