2003年度期成会 基本政策


21世紀の新しい司法をめざして

市民とともに創る人権の世紀


はじめに.. 4

1章 めざすべき司法改革と弁護士の役割.. 5

1 私たちのめざす司法改革... 5

2 規制緩和政策と司法改革の背景・情勢... 5

3 弁護士制度改革への危惧... 5

4 司法制度改革審議会意見書と司法制度改革推進本部... 6

5 弁護士・弁護士会の役割... 7

6 むすび... 7

第2章 司法制度改革実現のために.. 8

1 司法制度改革をめぐる情勢と今後の取り組み... 8

2 裁判員制度と刑事司法改革... 9

3 公的弁護制度... 11

4 裁判官制度改革... 12

5 弁護士任官の推進... 13

6 法科大学院と法曹養成... 14

 弁護士報酬敗訴者負担制度... 15

 法律扶助制度改革... 16

9 仲裁制度... 17

10 民事司法制度改革... 18

11 行政訴訟改革... 21

12 労働裁判改革... 22

13 裁判迅速化のための改革と「裁判迅速化法案」の検討... 23

14 弁護士制度改革と弁護士自治... 23

15 弁護士過疎・偏在の解消と地域司法計画... 24

16 法曹資格付与問題... 25

17 「外国法事務弁護士」との提携・協同問題... 26

第3章 人権擁護活動の前進のために.. 29

1 憲法改正問題への取り組み... 29

2 有事法制法案の廃案を求める取り組み... 30

3 反核・平和を求める取り組み... 31

4 教育基本法見直し問題... 31

5 政府から独立した実効性のある人権救済機関の設置... 32

6 刑事司法と人権... 33

7 犯罪被害者支援... 36

8 消費者問題... 37

9 住基ネットと個人情報保護... 38

10 公害・環境問題と人権... 39

11 両性の平等... 40

12 子どもの人権... 41

13 高齢者・障害者問題... 42

14 外国人の人権... 43

15 医療過誤と人権... 44

16 民事介入暴力からの被害者の救済... 45

17 戦後補償問題... 46

第4章 弁護士会の会務運営改善のために.. 48

1 会内合意形成... 48

2 会務参加の促進... 49

3 公益活動の義務化... 49

4 会務運営の透明化... 50

 内外人事の民主化・透明化・公平性... 51

6 綱紀・懲戒制度と弁護士不祥事対策... 52

7 会員のためのサービス機能の充実... 52

8 東弁財政のあり方... 53

9 多摩支部問題... 54

10 日弁連の会務運営上の課題... 55

11 関弁連の活動上の課題... 56

第5章 弁護士のあり方を考える.. 57

1 あるべき弁護士像と弁護士自治... 57

2 弁護士人口増大のもとでの弁護士活動領域の拡大... 58

3 弁護士法72条と隣接専門職... 58

4 続発する企業不祥事問題と弁護士のあり方... 59

5 ゲートキーパー立法問題... 60

6 弁護士報酬問題... 61

 

 


 

はじめに

 

いま、司法改革は最大の正念場を迎えている。

司法制度改革推進本部の検討会では立法化に向けての議論が急ピッチで進行しており、国会では司法改革関連法案の審議も始まっている。

日弁連は、「市民による市民のための司法」の実現をめざして活動しているが、その方向への改革を押しとどめようとする動きや別の方向にねじ曲げようとする動きも強く、日弁連を取り巻く情勢は厳しい。手を拱いていれば、危険な方向に押し流されるおそれが多分にある。この時期に、司法改革の状況が「総力戦」の真っ只中にあることを肝に銘じ、あらためて弁護士・弁護士会の果すべき役割の重要性に思いを致し、めざすべき司法改革を実現するために日弁連の総力を挙げて最大限の取り組みをしなければならない。

いま求められているのは、司法改革の具体的な諸課題に関する説得力ある政策提起である。検討会における論戦でも、国会における審議でも、改革についての具体的な政策案とその拠って立つ論拠を説得的に提示しなくては相手を説き伏せることはできない。その政策の策定活動がきわめて重要である。その際、目指すべき改革案を採り入れさせることができるかどうかの最大の決め手となるものは、なんといっても国民の声の大きさである。国民世論を盛り上げ、国民的な運動を大きく発展させることが司法改革実現のための必須の条件である。

弁護士・弁護士会は、政策活動と国民的運動の発展のために、全力を挙げて取り組まなければならない。会員一人ひとりが真剣になって司法改革と向き合い、会員が司法改革実現のために結束することが今ほど強く求められている時はない。会員の結束のためには、会内合意の民主的形成のあり方に最大限留意しつつ、粘り強い努力をすることが肝要である。

21世紀初頭を生きている私たちは、21世紀を「人権の世紀」にする責務がある。

国民の基本的人権を真に擁護する司法の実現をめざして、私たち一人ひとりが、今こそ、「総力戦」の中で悔いのない闘いをしようではないか。

 

 


 

1章 めざすべき司法改革と弁護士の役割

 

 

 

1 私たちのめざす司法改革

   私たちが1990年代初めから積極的に推進してきた司法改革の原点は、司法の現状に対する批判であった。

   司法の現状は、市民に利用しやすい司法∞市民のための司法∞市民による司法≠ゥらはほど遠く、司法消極主義に立ち、質・量共に不十分で小さな司法というべきものであった。すなわち、憲法の掲げる理想にもかかわらず、市民の裁判を受ける権利、適正手続の保障、さらには弁護人依頼権などは実効性に乏しく、社会的、経済的、政治的強者にとっての司法ではあっても、消費者、労働者、被疑者・被告人、被害者等の社会的弱者にとっての司法ではなかった。

   そこで、私たちがめざす司法改革は、憲法上の大原則である国民主権と基本的人権擁護を実質化させるものでなければならない。つまり、強者のための司法改革ではなく、社会的弱者のための司法改革であって、官僚司法を打破し、司法を「人権の砦」にするものでなければならない。

 

2 規制緩和政策と司法改革の背景・情勢

   今回の司法改革論議は、@私たちが長年主張してきた市民に利用しやすい∞市民のための∞市民による=u市民の司法」への抜本的改革を求める動きと、A経済界が主導する国際的グローバル化・規制緩和政策の一環としての使い勝手のよい司法に変えようとする動き、そして、B最高裁官僚主導の官僚司法を維持しようとする動きとがせめぎ合っているものである。いわば三者の総力戦といってよい。

   社会のあらゆるシステムへ浸透し肥大化した官僚制の弊害が指摘されて久しいものがある。官僚が全ての情報を握り、規制権限を盾に行政指導などの名の下に自ら社会を動かす制度は、改革されなければならない。しかし、生命、健康、安全、労働、環境などを保護するための規制は必要である。

   規制緩和の流れの中で、個人の自己決定、自己責任のルールがことさら強調されているが、そうであるならば、事前、事後の救済を問わず、人権尊重の理念を社会的に定着させることこそ、必須の前提条件でなければならない。いうまでもなく、人権は、たとえ少数者であっても、他から奪われない生来の権利であり、民主主義社会を構成する個々人の基礎的価値である。人権尊重とは、各個人が一人ひとりの人間として人格が尊重され、健康で平和裡に人間らしく生きることが保障されることである。

   規制改革が進行する社会では、人権を実質的に保障、定着させる司法制度の整備とそれを担うに足る十分な法曹の存在が求められ、これなしには人権尊重の理念を実現することはできない。

 

3 弁護士制度改革への危惧

   今次の司法改革の中で最も危惧される動きの一つに、弁護士・弁護士会改革に関する部分がある。

例えば、総合規制改革会議(旧行政改革推進本部規制改革委員会)の主張している法曹人口のさらなる大増員、現状の法曹を実質上なくして法律資格者制度とする提案、また弁護士法72条の抜本的見直し、さらには弁護士強制加入制度廃止による弁護士会・日弁連の解体案などが、その最たるものである。

   こうした立場からは、弁護士は単なる法的サービスの提供者にすぎず、その存在と選別は市場の自由競争に委ねられる。弁護士報酬の基準を弁護士会が示すのは違法な規制となり、弁護士養成へ国費を給付することも認められない。弁護士自治も否定されることになろう。

   しかし、弁護士の業務と弁護士像を全く異なったものへと変容させることは、市民の人権保障を危うくすることに他ならない。先人達の権力との厳しい対決を経て国民から私たちへ負託された弁護士自治は、絶対に否定させてはならない。

   私たちは、市民の声を十分に汲み上げてこうした動きに断固反対し、その不当性を内外に幅広く訴え続けるとともに、市民のために必要とされる弁護士のアイデンティティを再確認しなければならない。そして、基本的人権擁護と社会正義の実現を責務とする高度のプロフェッションとして、社会のあらゆる分野の法的支援を担う自覚を持ち、いまこそ一丸となってそれを実践していくことが必要である。

   そのことが弁護士自治の基盤を強固にすることになる。

 

4 司法制度改革審議会意見書と司法制度改革推進本部

   司法制度改革審議会意見書(以下、審議会意見書という。)に基づく司法制度改革推進本部検討会での審議は、課題毎にいよいよその検討のスピードをあげている。しかも改革課題は多方面であり、与えられた時間は短い。私たちが審議の主導権を握って、市民の司法に向けての改革の課題を私たちの狙いどおりに推進するのは、総力戦の中で相当厳しい状況にある。また、最重要課題の一つである裁判所・裁判官の改革も、最高裁は依然としてその人的・物的拡充には消極的であって、この面での際立った進展は未だみられない。さらに、立法作業に長けた事務局の大半とこれに同調する多くの委員らと対峙し、これを説得し、対決するせめぎ合いは容易なことではない。

   ところで、こうした情況は、今次の司法改革当初から予想できたもので、改革の狙いは経済界による安価で効率的な司法を求めるだけのものだから、基本的には改革の渦中に踏み込まず国民とともに外からの徹底した反対活動に終始すべきであったとする意見がある。

   今次の改革が規制緩和政策の一環としても打ち出されてきた経緯、さらに、弁護士像を変容して、弁護士自治を否定する動きとも照らし合わせると、私たちも上記意見と情勢認識等で一致できるところがある。もとより、警戒すべきところには厳しい監視の目を怠ることは許されない。

   しかし、私たちは、審議会意見書は間違っているといって司法制度改革推進本部検討会の作業をボイコットすることはできない。もちろん、審議会意見書は完璧なものではなく、不十分な点も多々あるが、裁判員制度、裁判官制度改革、法曹人口の抜本的増大など、今後の取り組み如何によって、私たちの目指している市民の司法の実現に向けて活用できる事項が含まれている。

   これらを確実に前進させ、揺るぎない方向を与えるよう努めなければならない。さまざまな諸課題について私たちは、市民の声を結集するのはもちろん、審議の場へ臨み、積極的で説得力ある意見をもって周囲を説き伏せる継続的で粘り強い活動が求められている。

   また、審議会意見書とそれを受けた司法制度改革推進本部の議論は、総合規制改革会議などの歯止めなき弁護士制度攻撃を食い止める場としての役割を客観的に果たしている、という事実も正確にみておく必要がある。

   私たちはどんなに苦しくとも、こうした場と機会(後の国会の場も含めて)を積極的に活用して、市民の司法を実現することを訴え続けるべきである。それこそが、国民から負託を受けて基本的人権擁護を担うべき者の責務の一つだからである。

   私たちは、可能な限りの創意と工夫を重ね、また、市民の人権擁護活動に長年関わってきた経験の上に立って、審議会意見書の中の汲み上げて実現すべき改革の諸点を積極的に推進して後退を許さず、他面、審議会意見書の中で欠落した部分、不十分な部分や問題点は、速やかに具体的な改革提案を策定して提起し、改革内容の補正に全力を傾注すべきである。

 

5 弁護士・弁護士会の役割

司法改革はもとより国民的な最重要課題である。今次の司法改革も国民的運動の大きな発展のなかでこそ実現されるものである。とりわけ、私たち弁護士・弁護士会の全力を挙げた取り組みがなければ、その実現は困難なものとなろう。私たちは、自らの業務などの改革とその実践へ踏み出すとともに、司法改革運動の先頭に立ち、わが国の司法制度とその運用の抜本改革を担う覚悟を持たなければならない。

これからの弁護士は、裁判手続を担い、法制度の維持・変更に関心を持つだけでは不十分である。全ての社会問題が法に関わりを持たざるを得なくなった現代社会にあって、市民の抱える全ての問題や悩みが法律問題か否かの判断を含め、その包括的助言者となり、問題解決への責務を担うべきである。

 特に、消費者、労働者、被疑者・被告人、被害者等の社会的弱者の人権擁護に関して国家権力と対決し、また大企業や国家が守るべき法的・社会的責任を遵守しているか否かを監視するなど、幅広く積極的な法制度の担い手になることを期待されている。

 また、これからの弁護士会は、会員の資質を高めるため、専門分野ごとの研鑚制度を確立して、全ての法的問題へ十分対応し得る多数の弁護士養成に努めるべきである。会員が団結して機敏に情勢へ対応し、社会へ的確な力を駆使するための、速やかで効果的な会内合意の形成システムも作らなければならない。

 

6 むすび

   私たちの先輩は臨司反対闘争を経験した。昨今の情勢は臨司のときよりも大きく進展している。法律家だけでなく市民も司法改革運動に積極的に参加しており、立法スケジュールもすでに組まれて改革が具体化してきている。私たちは、燃えるような熱情と気概をもって司法の民主化に立ちあがった先輩たちと同じように、今こそ力を合わせて立ち上がらなければならない。

  21世紀の日本の司法が今次の司法改革にかかっている。正念場にある司法改革を前進させ、官僚司法を打破し、市民の人権擁護のために力を尽そうではないか。

  こうした視点から、以下の「各論」において、個別テーマ毎の私たちの政策を述べる。

 

 




 

第2章 司法制度改革実現のために

 

 

 

1 司法制度改革をめぐる情勢と今後の取り組み

 

1 情勢の特徴

司法制度改革は、具体的制度設計と立法の段階に入った。その先陣を切って先の臨時国会において法科大学院、新司法試験、新司法修習に関する立法が行われた。
 中盤に入ろうとしている現在の情勢全体の特徴について適切な言葉で表現することは容易ではない。この法曹養成制度改革をはじめとする、十数項目にわたる各論的な諸課題は、課題ごとに異なるペースで、それぞれが重大な局面を迎えているが、いくつかの検討会を除き、いずれも具体的な制度設計の段階に入り、これからまさに弁護士会の真の力量が問われる正念場を迎えたといえよう。

情勢は決して単純な形で動いていない。対立する一方に絶対的に有利という形で動いているわけでもない。しかし、「市民のための、市民による司法」という目標には何よりも強い正当性がある。
 総論でも述べているとおり、私たちは、好むと好まざるとにかかわらず、「規制改革が進行する社会では、人権を実質的に保障、定着させる司法制度の整備とそれを担うに足る十分な法曹の存在が求められ、これなしには人権尊重の理念を実現させることはできない」との観点に立って情勢を分析し、状況を積極的に切り開いていかなければならない。
2 抜本的改革に向けて

まず、司法の担い手が市民に身近で、かつ市民に理解され、支持される存在となるよう、抜本的な改革が加えられようとしている。

法曹養成制度の改革はそのための基盤をなす最重要課題であり、制度設計から、2004年の立ち上げに向けて、弁護士会がどれだけその役割を果たせるかが、成功させることができるかどうかの大きな鍵となろう。

 第一期をゆるがした弁護士制度改革は、まず弁護士会の綱紀・懲戒制度の透明化を図るための諸改革が、弁護士自治を守る観点から会内論議の焦点となった。
 引き続き、簡易裁判所判事、副検事等に対する限定的な法曹資格の付与、司法試験合格、司法修習未了者で一定の法律事務を経験した者に対する法曹資格の付与問題などがさらに大きな論議を呼ぶことだろう。

これらの問題は、弁護士と弁護士会がややもすれば陥りがちな独善性を排するという意味で積極的側面をもつ一方、一部合理的根拠を欠き、厳しく対処していかなければならない問題も含まれている。
 これらの問題についての弁護士会の対応が最善であったというつもりはない。しかし、内部に矛盾をはらみつつ、過剰な開放に対する歯止めを確保しつつ対応しようとしていることは評価したい。
 むしろ重要なことは、これらの課題に対して弁護士会が基本的に積極的な姿勢をとっていることが、以下の各論課題における「せめぎあい」での弁護士会の主張の説得力を強化し、力関係をそれぞれの場面で有利に展開する方向に作用していることにある。
 今次の司法改革の最重要課題の一つである裁判員制度の導入については、弁護士会や市民各層の運動によって、いま、国民の中に理解と共感が急速に広がりつつある。司法に国民自らが参加するということは、これまで専門家任せであったこの分野において画期的な転換をもたらすものである。さらに市民の理解を広げていくとともに、具体的制度設計において、日弁連の基本方針を実現させる方向で、運動を強化していくことが求められている。

 市民を基盤とする民主的改革は、裁判官制度の改革の場面でも大きく進展しようとしている。下級裁判所裁判官指名諮問委員会の設置は、かって裁判官の思想統制の道具とされ、現時点でもその不透明さにおいて批判され続けてきた裁判官任命制度に市民が実効的に監視する制度を導入するもので、弁護士任官制度の拡大、非常勤裁判官制度の導入、判事補の他職経験制度の導入、そして今後論議される裁判所運営への市民参加などとともに、これまで実現が考えられなかったような改革の波が進んでいる。

3 司法改革実現のための運動を

確かに今次の司法改革は、危険な側面もある。司法アクセスの拡大という名目で弁護士報酬の敗訴者負担の問題などが忍び込んでいる。弁護士資格の無原則な拡大なども官や大企業からの「天下り」先を作ることにほかならない。前進的な諸改革でも具体的な制度設計如何では危険な方向に向かうおそれがある。

 しかし、進行しつつある改革の意義を理解し、それをさらに拡大し、中身を作っていく積極的な取り組みと、危険な方向に対する厳しい姿勢を堅持する運動を両立させながら前進していくこと以外には、私たちには選択肢はない。

 そのほかにも、被疑者の公的弁護制度の創設、法律扶助制度の抜本的拡充、弁護士の働くべき場所の拡大など、取り組むべき課題は目白押しである。いまは、だれが司法改革を言い出したか、この改革は戦争準備の体制作りの「改革」ではないのか、などというような議論に終始していてよい時期ではない。いまこそ弁護士会が大同団結をして、あるべき司法改革の実現のための運動に取り組むべきときである。

 

2 裁判員制度と刑事司法改革

 

1 国民の司法参加の意義

憲法は、国民に基本的人権を保障し、裁判所に「人権の砦」としての役割を与えた。しかし、わが国の司法の現状は、この憲法の理念に沿ったものとは到底言えない。

刑事裁判においては、「疑わしきは被告人の利益に」の原則はなおざりにされ、いつ冤罪が生み出されても不思議ではない状況にある。労働裁判においては、整理解雇の4原則を否定したり、中労委の救済決定を簡単に引っくり返すなど、労働者や労働組合の権利を無視した非常識な判決が増えている。行政訴訟についても、大半が行政勝訴の結論に終わり、行政に対する司法のチェック機能が果されていない。一般市民事件や消費者事件においても、国民の良識とかけ離れた判決が目立つ。

こうした現在の司法のあり方を抜本的に転換し、国民のための司法を実現するには、主権者である国民が司法に直接参加するなど、司法全体のありようを大きく転換する必要がある。

国民の司法参加を刑事事件において導入するだけでなく、全ての訴訟手続に適切な国民参加のあり方を提起していく必要がある

2 裁判員制度はどうあるべきか

(1) 審議会意見書の評価

審議会意見書は、国民の司法参加、なかでも訴訟手続への国民参加を重要なものとして位置づけ、刑事重大事件に限ってではあるが、「裁判員制度」を導入することを提起した。陪審法停止以降、一般国民が直接裁判に参加する制度がまったく存在しなかったわが国において、戦後初めて一般国民が司法に参加する制度の導入を提起したことの意義は大きき。

しかし、最も徹底した国民参加制度である陪審制度の導入を見送ったことを含め、裁判員制度の構想が具体性を欠いているなどの問題を残しているので、これからの制度設計をめぐる取り組みの強化が重大な意味を帯びてくる。

(2) 裁判員制度と刑事司法改革

 裁判員制度は2004年の立法化をめざし、「検討会」での論議が進んでいる。そこでは、裁判員の数を裁判官より少ない人数に押さえ込もうとする議論も少なからず見受けられ、国民参加が形骸化させられる危険性を指摘せざるをえない。

裁判員制度を構想するにあたっては、刑事司法の抜本的改革をあわせて実現することが不可欠である。一般の国民が裁判の主体として参加する以上、直接主義・口頭主義が徹底されるべきであり、それには、現行制度のもとでも批判が集中している現在の調書裁判・自白偏重、人質司法を抜本的に転換することが必要である。また、「連日的開廷」が要請されるので、公判開始前の十分な準備期間の保障と、被告人の実質的当事者性の確保、そして事前の十分な証拠開示制度の導入が必要である。それらが実現されなければ、被疑者・被告人の防御権、弁護人の弁護権は著しく侵害される結果となる。しかし、現在の検討会においては、こうした刑事司法改革の議論が十分とはいえない。

このように裁判員制度には、国民参加の形骸化の危険、及び被疑者・被告人の防御権侵害の危険性がある。しかし、このような危険性を理由に、初めから立法化における法律家の役割を放棄することは、結局のところ制度改悪に手を貸すものといわざるをえない。

裁判員制度を真に実質的な国民参加の制度として立法化し、定着させ、陪審制度につなげていくことは極めて重要である。同時に、この改革を契機に人質司法、調書裁判、自白偏重等、前近代的かつ絶望的な、わが国の刑事司法を抜本的に改革することが極めて重要である。その実現のために、積極的な政策提言を行い、国民各層に訴え、真の国民参加と刑事司法改革を実現することが求められている。

3 裁判員制度についての政策提言     

以上の観点から、裁判員制度の制度設計として以下の諸点を提言する。

(1) 裁判員の人数は裁判官の少なくとも3倍以上でなければならない。

一般国民が裁判員として、飾り物でなく、真に主体的実質的に裁判に参加できるようにするためには、参加する裁判員の人数が職業裁判官より圧倒的に多数であることが必要であり、裁判官の数を3人とすることにこだわるべきではない。

(2) 直接主義・口頭主義の徹底

 一般国民が参加する裁判員制度において、国民が主体的・実質的に参加するためには、直接主義・口頭主義を徹底しなければならず、現在の膨大な調書により事実を認定する調書裁判主義は全面的に転換されなければならない。そしてこれを契機に自白偏重、人質司法といわれる刑事訴訟の病理を根本的に転換することが必要である。伝聞法則の例外を広範に認める現行刑事訴訟法321条1項2号、322条はこれを廃止すべきである。

(3) 被疑者・被告人の防御権の保障と刑事司法の抜本的改革

現行の被疑者・被告人の人権・当事者性を無視した捜査や身体拘束の実態を抜本的に転換することなしに集中審理を行うことは、被告人に過大な負担を課すもので容認できない。裁判員制度の導入にあたっては、被疑者・被告人の防御権、弁護人の弁護権を十分に保障するため、   以下の改革が必要不可欠である。

@ 連日的開廷に不可欠な防御権保障

@ 公判準備のための十分な期間保障

A 検察官手持ち証拠の事前・全面開示

B 刑訴法39条3項を削除し、拘置所での執務時間外・休日接見を自由化し、接見交通権を実質化する。 

A 被疑者・被告人の人権を保障する刑事手続の抜本的改革

@ 代用監獄の廃止・保釈の原則化等被疑者・被告人の身体拘束の抜本的改善

A 被疑者の取調状況のビデオ・テープ収録、弁護人の取調立会権を制度化し、取調過程を可視化する。

(4) 裁判員選定手続    

 裁判員は無作為抽出とし、予断・偏見のない公正な裁判員を選定するために、十分かつ適切な選定手続を保障する。

(5) 公開法廷での説示

評議に先立ち職業裁判官は裁判員に対して、無罪推定の原則、黙秘権、適正手続保障の重要性、「合理的な疑いを容れる余地のない程度の有罪の心証」というときの「合理的な疑い」の意味、刑事訴訟の諸原則の説明、事実認定・評議にあたっての裁判官と裁判員の対等性、争点整理に関する説明を十分に行う。説示は、公開の法廷において当事者立会いのもとに行なわれることとし、評議では説示の内容に反する議論をしてはならない。

 (6) 評議・評決

評議にあたっては、裁判員が十分に意見を言わない限り裁判官が自己の意見を述べないものとする。「疑わしきは被告人の利益に」の原則に基づき、有罪評決は、4分の3の特別多数決とし、死刑判決は全員一致とするなど評議権のあり方に工夫を加える。

 

 

3 公的弁護制度

1 基本的視点

司法制度改革審議会は、公的費用による被疑者・被告人の弁護制度(公的弁護制度)の創設を提言し、この問題については現在公的弁護制度検討会で検討が進められている。
公的費用による被疑者弁護制度の実現は、弁護士会がこれまで長年にわたって求めてきたものであるだけに、その実現が現実のものとなった今、公的弁護制度の具体的な制度構想の策定とその実現に向けた行動が求められている。
 公的弁護制度の具体的制度構想の策定にあたっては、@弁護活動の自主性・独立性の保障、A弁護活動に見合った国費による弁護報酬の実現という基本的視点を貫く必要がある。
2 運営主体

公的弁護制度の主要な担い手の一つが弁護士会であることはいうまでもない。弁護活動の自主性・独立性の保障のためには、弁護士会が、弁護人の推薦および解任に関与するとともに、弁護人の指導・監督、研修など弁護活動の質の確保のための態勢を整備することが不可欠である。
 公的弁護制度の運営主体については、司法制度改革審議会も提言するように、公正中立な機関であること、その組織構成・運営方法・監督等にあたっては透明性が確保されること、その制度整備・運営にあたっては弁護活動の自主性・独立性を損なってはならないことなどが貫かれなければならない。
 そのためには、委員の構成や選出方法、組織や運営に関する情報開示や説明責任、監督のあり方(監督の主体・方法など)、異議申立や意見具申などのチェックシステム、弁護士会の役割と権限など、弁護活動の自主性・独立性を保障するための運営主体の具体的な仕組みについて検討することが不可欠である。
 また、当番弁護士制度に法律扶助協会が果たしてきた役割と機能、経験などを考えると、その独立性の確保を前提として、法律扶助協会を運営主体とすることも十分検討に値するといってよい。
3 弁護報酬 

国選弁護に関し、弁護活動に見合った弁護報酬の実現もまた弁護士会の長年の課題であった。   東弁では、国選登録会員約2,000名余(全会員数の約半分)のうち100名余の会員が全国選事件数(2001年の場合6,475件)の半数を受任するという異常な事態にあり、その中には弁護の名に値しない弁護活動を常習的に行っている会員もいるという。このような異常事態を招いた最大の原因の1つが国選弁護報酬の低さにあることはいうまでもない。

弁護活動に見合った弁護報酬と実費全額補填の実現は、公設弁護人事務所の財政基盤を支える基礎となるものであり、国選離れの会員を呼び戻す契機となるものである。弁護活動に見合った弁護報酬と実費全額補填の実現なしに、公的弁護制度のもとで、充実した弁護活動を実現し、弁護活動の質を確保することは不可能である。
4 公設弁護人事務所

東弁では、刑事弁護対応型の任官推進事務所の設置を進めており、現状の国選弁護報酬のもとでの刑事中心の運営では採算性が見込めないため弁護士会から継続的な補助をしていくことも検討している。この公設事務所は、日弁連・弁護士会による公設弁護人事務所の全国的設置に向けたいわばパイロット事務所として位置づけられており、是非とも実現する必要がある。
 なお、公設弁護人事務所においても独立採算が原則とされるべきは当然であり、そのための方策について検討を進めるべきである。その方策の中心は弁護報酬の飛躍的増額にあるが、私選弁護、民事事件の受任なども視野に入れる必要がある。

 

 

4 裁判官制度改革

 

1 裁判官の大幅増員を

審議会意見書は、裁判官数が足りないことによる裁判官の負担過多等の現状の問題点を指摘しつつ、全体としての法曹人口の増加を図る中で裁判官を大幅に増員すべきであるとしている。そして、その増員幅について最高裁が示す今後約10年間で500名程度という試算を紹介している。しかし、質量ともに豊かな法曹によって司法制度の人的基盤を拡充するという審議会意見書の基本的な改革の柱からすると、この程度の増員幅では不十分であり、それを遥かに超える大幅増員が不可欠である。

弁護士会としても、今後も弁護士任官の拡充を図りつつ、この基本的な改革の視点に立った大幅増員の実現に向けた取組みを継続していかなければならない。

2 非常勤裁判官の完全導入に向けて

日弁連と最高裁は、2002年8月23日民事・家事調停事件の分野においていわゆる非常勤裁判官制度を導入することにつき、新制度創設に向けて協力することを合意した。その新制度とは、弁護士が非常勤で調停主任、家事審判官たる裁判官と同等の立場で調停手続を主宰する制度である。職務が限定されている点で、日弁連が長年提唱してきた通常の裁判官としての職務を行う非常勤裁判官とは程遠いものであるが、その本来の非常勤裁判官制度実現につながる扉を開いたものとして、その意義は大きい。

弁護士会としては、この新制度の定着に向けて積極的に取り組むとともに、今後日弁連と最高裁との協議を通じて、その職務範囲の拡大に全力で取り組まねばならない。

3 裁判官人事制度の改革

2002年7月最高裁の「裁判官の人事評価の在り方に関する研究会」の報告書が公表された。その内容は、外部評価を取り入れず、第三者機関ではない所長・高裁長官が評価者となるとともに本人の不服申立てを審査するなど、裁判官人事制度の透明化・客観化を担保する仕組みの整備を求めた審議会意見書の趣旨から大きく後退し、これが実施されると現状の不透明な人事制度を追認することになるばかりか、かえって最高裁事務総局による人事統制がより強化される懸念がある。弁護士会は、司法制度改革推進本部法曹制度検討会の場で総力を挙げてこれに反対するとともに、自らの改革案を示さなければならない。その案は、市民等の外部委員が参加する委員会によって外部評価を取り入れた評価が行われ、本人からの不服申立てが審査される仕組みを基本としなければならない。それとともに、昇給の簡素化、異動における応募制の導入等の改善策を実施することを前提として、その人事評価は、自己研鑽、再任等の任命手続、応募重複の際の調整といった極めて限定した目的のために、使用するものとしなければならない。

4 裁判官任命手続の改革

  審議会意見書が提唱する「最高裁による下級裁判所裁判官指名過程を透明化し国民の意思を反映するための機関」について審議・答申する最高裁一般規則制定諮問委員会が日弁連委員・幹事の参加のもと2002年7月から開催され、11月22日の第四回委員会でその要綱案がほぼまとまった。ここでの課題は、審議会意見書がいう「この機関がすべての任官希望者につき十分かつ正確な資料・情報に基づき適任者の選考を実質的に判断する」という趣旨をどう実質化するかというところにあった。司法制度がどんなに改革され、アクセスが改善されても、独立心を持ち、それぞれの当事者の立場を謙虚に受け止め、納得のいく裁判ができる質の高い裁判官を得ることができなければ何にもならない。

永年、「人事の秘密」の隠れ蓑のもとに、任官拒否や、逆肩たたきが行われてきた状況に終止符を打ち、人事評価制度の改革とともに任命制度に国民の意思を反映させるというのは、30年続いてきた歴史の転換でもある。「下級裁判所裁判官任命諮問委員会」が再任を含め、すべての任官希望者につき最高裁から白紙の状態で諮問を受け、市民等の外部委員を含めた中央、地方委員会のもと外部評価も取り入れた豊富な資料・情報を収集したうえ実質的な選考審査を行う仕組みと、審査及び指名結果につき説明責任を果たす手続が制度として構築されようとしている。弁護士は訴訟関係者として第一線にある者として、正確な情報を委員会に提供するなど、制度が正しく運用されるよう努める責任を負うことになる。

今後、一般規則制定諮問委員会は、地裁にも弁護士や市民が参加する「地裁委員会」の設置、法科大学院と連動した「司法修習制度運営の改善のための新たな諮問委員会」の設置を論議することになる。裁判官、裁判所も大きく変わりつつあることに確信をもち、司法改革の重要な課題であることを認識して、取り組みを強めていく必要がある。

 

 

5 弁護士任官の推進

 

1 弁護士任官推進の基盤整備

弁護士任官の推進は、キャリア裁判官で占められている特殊日本的なシステムを多様な経験を有する人材で構成するものへ改革するため、弁護士しか担うことができないことであるとともに、弁護士自らの意識改革を伴う、今次司法改革の重要課題である。その方向性に異論はないが、実行するのが大変重い課題である。

2001年12月に最高裁判所と日弁連との間でとりまとめられた新任官ルールは、従来よりはかなり任官しやすいものにした。過去10年間で40数名の任官者しか輩出できなかった弁護士会も、この1、2年、任官推進公設事務所を開設するなど、任官推進・支援のための基盤整備をすすめてきた。こうした努力と、日弁連主催の第19回司法シンポジウム「裁判官制度改革に向けた実践―弁護士任官と判事補の他の法律専門職経験を中心に―」(2002年11月)に向けた取り組みのなかで、弁護士任官者の弁護士会への出入りがしやすいようにするための再入会金の免除、登録番号の維持などの規則改正を行い、市民参加の弁護士任官適格者推薦委員会を全国8ブロック及び東京三会に組織し、全国キャラバン、経験交流集会などの開催により会員意識を高め、任官候補者の発掘に尽力した結果、この1年に32名もの任官候補者を確保することができた。

この活動を承継し発展させるため、日弁連は、新たに弁護士任官等推進センターを設置したが、前年に一気に30余名輩出した後の2003年度は、前年度と同様の任官候補者を確保できるかどうか、正に正念場である。このペースで毎年輩出できれば2010年には裁判官の10%が弁護士任官者となり、2030年には約半数を占めることになる。

2 弁護士任官推進のための具体策

弁護士任官を推進するためには、1)弁護士任官者等との交流会、2)各地裁との協議、3)広報活動の徹底、4)裁判官になってもらいたいと考える人を他薦する制度の活用、等で会員の任官意識を高めるとともに、5)東弁が設置した「東京パブリック法律事務所」のような弁護士任官推進事務所、弁護士任官支援事務所を多数設置し、6)弁護士任官推進基金等の基盤整備を一層進める必要がある。

また、7)自らは任官しない人の協力も重要である。たとえば、@任官希望者を任官前の一時期事務所に所属させ、事件の引継や経済的不安解消の支援をする、A退官後一時期事務所に在籍させる、B複数の弁護士が所属する事務所では、5年に1人位は任官者を出すよう努力する、C任官希望者の仕事や顧問を引き継ぐ、D任官希望者の事務員を受け入れる、E新人弁護士募集時に弁護士任官を条件にする、などである。

さらに、8)司法修習生への働きかけも効果的である。司法修習生の進路選択として、「弁護士任官」をメニューに加える風潮をつくりあげることは、中長期的には弁護士任官者の輩出を大きく底上げするはずである。合格後研修所入所前の事前研修、前期修習、弁護士実務修習等のカリキュラムの中に、弁護士任官経験者も参加した説明会を取り入れ、全修習生に働きかけるようにすべきである。

こうした弁護士会の取り組みは手を緩めることなく継続されなければならない。そのために、副会長の一人は任官問題に集中して執務するなどの体制が要求されよう。

 

 

6 法科大学院と法曹養成

 

1 法曹の質の高度化・多様化をめざして

法科大学院は、法曹養成に特化したプロフェッショナル・スクールであり、しかもプロフェショナル法学教育を大学院レベルで行おうとするシステムである。法科大学院を競争と第三者評価にさらすことにより、教育の質と多様性を確保しようとする。こうしたシステムにより、あたらしい時代の法曹の質を高度化・多様化しようというのである。わが国にはこれまで存在しなかった制度である。

審議会意見書が示した法科大学院の目的・教育理念・制度設計についての基本的考え方はすぐれた方向性を示しているが、現実は大学法学部、各官庁、自由民主党司法制度調査会の思惑が入り乱れ、さまざまな綱引きのなかで、制度は理想から乖離していく危険がある。

その中で、私たちは、法科大学院を可能な限り理想型に近いよう創造していく努力をすべきである。そのための活動に多くの会員が参加することが大切である。それは、司法改革の活動そのものなのである。

新しい法曹養成は、わが国の社会に法的ルールを浸透させ社会の構造を変化させる可能性を持っている。しかし、そのことは私たちの努力如何にかかっており、大きなエネルギーと財政負担を伴うことである。そのために取り組むことへ向けて、早急に会員の総意を結集していく必要がある。

2 第三者評価機関の重要性

弁護士会が担うにもっともふさわしく、また期待されるのが第三者評価機関である。第三者評価は、法科大学院において質の高い法曹を生み出していくための要となる制度である。

日弁連は、日弁連法務研究財団に第三者評価機関を引き受ける方向で検討するよう依頼した。法務研究財団は、検討の結果、評価料収入が十分見込めない場合には最大年間1億数千万円の財政援助が必要であり、そのことが確保されるのであれば担うと言明している。日弁連は、これを人的にはもちろん財政的にも支援すべきである。

3 特色ある法科大学院を

特色ある法科大学院を創ろうという努力が全国各地でなされている。例えば、医療・福祉をはじめ身近な法的問題に強い人材を養成すること及び地域経済の発展に寄与できる人材の育成を目的とするとして、そのような観点でのカリキュラム構想をあきらかにしている大学もある。多くの大学が構想を発表しているが、その目的と教育内容は多様であり、軌道に乗れば国民のニーズに応えうる多様な法曹が生み出されていくと感じられる。

必要なことは、そのような法科大学院における教育の自由と多様性を尊重することである。弁護士会は、そうした方向で、教材の開発、教育方法の実験への参加、実務家教員を引き受けること等の協力をしなければならない。

4 財政援助の必要性

経済的に恵まれた者しか入れないとの批判があるなかで、法科大学院を軌道に乗せていくためには、思い切った財政援助が必要である。金持ちの子弟だけが入れるような法科大学院であってはならない。学生支援として、奨学金、教育ローン、授業料免除制度等の各種の支援制度を充実する方策を実現するために、早急に具体的戦略を立てて活動しなければならない。

修習生に対する給費制見直論し論は強い。しかし、基本的には現行レベルの給費制は堅持する方向で努力すべきである。

5 司法修習の期間

司法修習の期間については、法曹三者で、新司法試験合格者については1年、移行期における現行司法試験合格者については14ヶ月とする合意が成立している。最高裁は、前者について、前記修習をなくし、8ヶ月実務修習(民裁、刑裁、検察、弁護の各2ヶ月)、後期は2班に分け2ヶ月ずつとし、残り2ヶ月は選択修習と構想している。後者の期間について、最高裁は、当初1年という案を示していたが、日弁連が粘り強く折衝した結果、上記の通りとなった。2006年からの移行期は両者が重複し、同時に2500人以上が実務修習に入る見通しである。至急、実務修習と選択修習の体制を整えなければならない。

 

 

 弁護士報酬敗訴者負担制度

 

1 裁判から経済的弱者を閉め出す制度

司法制度改革推進本部の司法アクセス検討会は、2002年11月28日から、弁護士報酬の敗訴者負担について本格的な議論を開始している。

 審議会意見書は、「勝訴しても弁護士報酬を相手方から回収できないため訴訟を回避せざるを得なかった当事者にも、その負担の公平化を図って訴訟を利用しやすくする」としている。自分の依頼する弁護士の費用を相手から回収できたらよいと考える人がいることは理解できる。しかし、だからと言って、相手から弁護士費用が回収できないのであれば裁判をしないという人はほとんどいない。

 裁判所に持ち込まれる事件のほとんどは勝敗がはっきりしないものであるから、裁判で負けた場合には自分が依頼した弁護士費用に加えて相手方の弁護士報酬を負担するという制度が導入されれば、一般市民や中小企業などの経済的弱者は、敗訴した場合の大きな負担を恐れて提訴をためらうことになる。また、裁判を起こされそうな場合や、裁判を起こされた場合でも、徹底的に争って判決を求めることを避けるようになり、不本意な示談や和解を押し付けられることになる。

 国や自治体、大企業など、資金力が豊富で弁護士報酬を経費などに転嫁できる者にとっては、「敗訴者負担」は提訴や応訴の障害とはならない。その意味で、この制度は経済的弱者を裁判から閉め出す不公平なものである。

 特に、薬害訴訟、公害・環境訴訟、労働訴訟、消費者訴訟、医療過誤訴訟、住民訴訟、行政訴訟など、証拠偏在型の訴訟や新しい判例を求める訴訟、さらには政策形成型の訴訟については、提訴が大きく抑圧される。

2 外国の実情把握の重要性

日弁連が2002年9月に行ったドイツ、フランス、オランダの実情調査の結果によれば、@法律扶助の充実や権利保護保険の普及など、市民と裁判を結びつける諸制度の整備についてドイツなどとわが国の現実との間に大きな違いがあること、Aドイツ、フランスなどの訴訟件数の多さに象徴されるように、裁判を利用するという市民の権利意識に圧倒的較差があることが、あらためて明らかになった。

 制度導入を議論する前提として、法律扶助など司法アクセスを推進する基盤づくりはどこまで進んでいるのか、証拠開示や証拠収集の法制度はどうなっているのか、弁護士報酬はどの様に決められているのか、市民は裁判をどの程度利用しているのかなど、各国の実状をトータルに把握し分析することが不可欠である。それなしに、「他の国でも弁護士報酬の敗訴者負担は行われている」などと形式的な議論をすることは誤りである。

3 強力な反対運動を

国民の権利意識の高まりなどから、市民の裁判利用の傾向は今後強まるであろう。「敗訴者負担」を取り入れようとする目的は、予め裁判の数を抑制しようとすることにあると言えよう。

 今回の司法改革の理念は、わが国の「二割司法」といわれる現状を改め、市民に身近な利用しやすい司法をつくることである。一般的な弁護士報酬の敗訴者負担制度は、この司法改革の理念と目的に逆行するものであり、絶対に阻止しなければならない。

 弁護士会は、既に運動に取り組んでいる市民団体とも連携しつつ、反対署名や市民集会、街頭行動、意見広告など、市民の裁判を受ける権利を制約するこの制度を持つ重大な問題性について、事実をもってわかりやすく市民に広報し、国会対策をも見据えた強力な反対運動を展開しなければならない。

 

 

 法律扶助制度改革

 

1 法律扶助の現状

民事法律扶助法が2000年10月に施行されて2年目の2002年1月に法律扶助協会は50周年を迎えた。法律扶助は、「国の責務」とする法律の施行により国庫補助金は従前の2倍以上に増額された結果、2002年度の国庫補助金は35億円となり、一部ではあるが事務費もつくようになった。

 しかし、長引く経済不況下のリストラ、失業、倒産等による法的紛争が増加した結果、法律扶助の需要も急増し、法施行後早々から事件の伸びに資金がおいつかず、市民のニ−ズに応えきれない状況である。法律扶助の事件数が大幅に増加した原因は、自己破産事件の急増によるものである。多重債務事件は深刻な社会問題であるとともに、金利の高いことや苛酷な取り立て等放置できない法律問題でもあり、法律扶助に適した事件として運用されなければならない。地裁の破産事件数は2000年に139,281件、2001年には160,419件を数えて民事通常訴訟事件数を抜いており、2002年には20万件を超えると推測されている。このような社会実態を反映して、法律扶助事件数は、2000年に20,261件(一般事件8、397件、破産11,864件)、2001年には30,918件(一般事件10,088件、破産20,830件)を数え、法施行後急増したとはいうものの、未だ自己破産事件数は地裁破産事件数の13%にすぎない。法律扶助協会50年の歴史上初めて、2002年1月に予算のワクから支部別の上限数をきめて、件数規制、支部窓口閉鎖という規制がなされた結果である。規制により実績に現れない潜在需要、泣き寝入りを強いられた市民がまだまだ法律扶助を求めていることを忘れてはならない。

2 国庫補助金の大幅増加の必要性

2002年度の国庫補助金は2001年度と比べ約9000万円の増額しかなかったため、事業規模を拡大することもできず、代理援助は30,681件に留まり、その内破産事件は20,047件と前年より数を規制せざるを得なかった。その上、4半期ごとに予定件数を割り当てて、超えた事件は打ち切りという事業抑制の取り扱いをしている。扶助による自己破産事件の内、生活保護受給者の割合は東京で約3割、生活保護を受給していなくても病気、障害、高齢、再就職困難、母子家庭等悲惨な状況にある人々も多く、生活の再建のために扶助が必要なことは明白である。

現在の法律扶助制度の対象は、イギリス、ドイツ、フランスが国民の5割層までとしているのに比べて著しく低く、国民の所得層の下から2割に制度設計されている。それなのに、資金不足からそれよりさらに下の所得層しか扶助を利用できない実態にある。このように法律はできても、法律扶助制度がその需要に対応できていないため、国庫補助金の大幅な増加は喫緊の課題である。

3 国民の期待に応える扶助制度を

規制緩和は競争社会を激化させ、法的紛争を助長し、司法による事後救済の必要性を益々増加させる恐れがあるので、経済的弱者が司法を平等に利用しえないような制度は改善されなければならない。民事法律扶助法は審議会意見を先取りする形で制定されたが、未だ国民の期待に応えられるような法律扶助制度になっているとはいえないのである。

 2002年3月に閣議決定された司法制度改革推進計画は、政府が2004年11月までに講ずべき措置として、「民事法律扶助制度について、対象事件、対象者の範囲、利用者負担のありかた、運営主体等につき更に総合的、体系的な検討を加えた上で、一層充実すること」を挙げている。司法制度改革推進本部の司法アクセス検討会での前向きな検討に期待したい。

法律扶助協会は、1990年より資力の乏しい刑事事件の被疑者に対して弁護活動を援助する刑事被疑者弁護援助事業を実施している。当初の73件が2001年度には6,174件(前年度比17.9%増)と増え続ける一方である。国庫補助金はなく、法律扶助協会の自主事業として実施している。日弁連も特別会費の徴収でこの事業を支えているが、長期的にはこのような措置だけで乗り切るのは困難であり、支部の負担も限界となっている。国費による被疑者弁護制度の早期の実現が期待される。

 また、1973年から最高裁の要請により始まった少年保護事件付添援助事業も、自主事業として日弁連の資金援助の下で行われている。この事業も支部の資金力によって実績が異なっており、国費による全国的に均質な事業展開が望まれる。

 

 

9 仲裁制度

 

1 仲裁制度改革の必要性

審議会意見書は、民事司法制度の改革の一つの柱として裁判外紛争解決手段(ADR)の拡充、法制化をあげている。第二東弁は1989年仲裁センターを立ち上げ、東弁も1994年あっせん・仲裁センターを設置し、意見書を先取りしたかたちでADRに取り組んできている。現在、全国で15単位弁護士会で仲裁センターが設立されるなどADR設置に向けての取り組みは日々活発化して来ており、日弁連もこのような全国的な拡がりに対応すべく、2001年度ADRセンターを創設した。

 それは弁護士会が行うあっせん・仲裁が極めて大きな役割を果たしていることを重視したためであった。

 実際、訴訟や調停等、他の紛争解決手段に比べ安価で、解決期間が短いことはこれまでの実績で証明されているところである。今後、各分野でADRが設立されると思われるが、法律家集団である弁護士会のあっせん・仲裁センターはその中核となると思われる。

 仲裁制度が国民の期待と信頼を得るためには仲裁制度そのものの改革、拡充とその法制の整備が必要である。

2 弁護士会のあっせん・仲裁の拡充発展に向けて

 東弁のあっせん・仲裁センターに年間約150件の事件申立がある。今後更に申立件数が増加し、その内容も多種にわたることが予想される。特に医療過誤、建築、IT関係等専門的知識を要する案件の処理が求められてくると思われる。その為には、弁護士の仲裁人候補者を充実させるとともに専門家の組織(建築士会、技術士会、医学会等)との連携及び専門家の活用が必要である。

3 仲裁法制の整備

 現在、仲裁法、ADR基本法の制定に向けて司法制度改革推進本部においてその内容が検討されている。

 仲裁法については、「仲裁検討会」において「中間とりまとめ」が発表され、その骨格が明らかになった。そのまとめによれば、「外国仲裁及び内国仲裁並びに民事仲裁及び商事仲裁について統一的に規律」することとし、その適用範囲を国際商事仲裁に限定せず、仲裁契約の意義を「契約に基づくものと否とを問わず、一定の法律関係について生じ、又は生じる可能性のあるあらゆる紛争を仲裁に付する旨の当事者の合意をいう」としている。

 その結果、当事者間の契約の内容として、一定の仲裁機関で紛争を解決する旨の合意がなされていると訴の提起ができなくなることにもなる。労働契約、消費者契約等、経済的対等性がない当事者間の仲裁契約については、その適用が安易になされることがあってはならない。

 現在、消費者保護に関する特則についての検討が行われており、そこでは主に消費者と事業者との間の仲裁契約のうち、将来の争いに関するものは無効だが、消費者のみが無効を主張できるとする案(B−1案)と、消費者に対し、本案の答弁まで一方的解除権を認めるとともに、仲裁廷に消費者に対する仲裁に関する説明義務を課するとする案(B−2案)の両案が俎上に載せられている。消費者保護の観点からは、B−1案が望ましいといえよう。

 他方、労働契約中の労働者の保護に関する規定については、労働関係法規に委ねるべきという意見が主である。なお「労働検討会」においては、ことの重大性にもかかわらずこの点について十分な議論がなされた形跡がないのは問題である。

 仲裁法の制定ないしはこれに関連しては、消費者、労働者等経済的社会的弱者の裁判を受ける権利を奪わないための法的な保障を図ることが必要である。

 

 

10 民事司法制度改革

 

1 よりよい改革の実現のために

 審議会意見書は,「国民の期待に応える司法制度」の第1として民事司法制度の改革を挙げ、適正・迅速かつ実効的な司法救済という視点からの改革を提言している。

 意見書の提言を具体化する作業としては,主として法制審議会に対し,関連諸法の改正についての諮問がなされた。既に、法制審の民訴部会、人訴分科会及び担保執行法制部会において中間試案がとりまとめられ、パブリックコメントが求められており、部会等での議論は大詰めを迎えている。

 今後、部会での意見のとりまとめ、法制審としての意見のとりまとめを経て、国会での立法作業が行われる見通しである。

 弁護士会は、今後の法制審及び国会での審議に対し、具体的な改革案のとりまとめが、<適正・迅速かつ実効的な司法救済>という視点に沿ったものになっているかどうかを厳しくチェックし、よりよい改革案の実現のために、適時に適切な意見を表明し、必要な運動を組織していかなければならない。

 また、民事司法制度の改革は、立法作業の終了をもって完成するものではない。新たな制度をどのように運用していくかが問われる。今後弁護士会には、日常の業務の経験を共有して研鑽を重ね、制度や運用の改善すべき点を不断に指摘していく活動が求められよう。

 民事訴訟制度改革

(1) 計画審理

 審理期間の短縮だけを強調して審理の充実を軽視することは問題であるが、審理期間があまりに長期化することは、市民の司法制度利用を阻害する。当事者及び裁判所が協議の上、審理計画を定め、それに基づいて審理を進めること自体は望ましいことである。

 しかし審理が進むにつれ、より事案に適合した計画の策定が可能となることもあるし、従前に策定した計画の問題点が明確になることもありうる。そこで、適宜の計画の具体化はもちろんであるが、計画の変更も柔軟に認めるべきである。弁護士は、当事者の代理人として審理計画の策定に積極的に関与すべきである。

 また、審理計画の拘束力をどの程度のものとすべきかも問題となるが、審理計画どおりに準備ができない事情にも種々ありうるのであるから、一律に強い失権効を及ぼすような制度は妥当ではなかろう。

(2) 訴訟提起前の証拠収集方法の拡充

 適正・迅速な審理を実現するためには、当該事件における争点を明確にすることが求められ、そのために、事実関係の把握に必要な証拠を早い段階で検討する必要がある。

 従来の証拠保全(及びその転用)手続きが医療事故訴訟や金融商品取引訴訟において果してきた役割は大きいが、その要件がかなり厳格であることから、比較的緩やかな要件で訴提起前に一定の証拠を収集する手続きを用意する必要性が大きい。

 そこで、解決すべき紛争を共有している当事者間において、提訴予告通知を行うことを条件に、相手方本人及び一定の第三者に対して、手持証拠の開示等を求めうることとする案が出されている。

 このような手続きが制度化されれば、早い段階で実効的な争点整理が行えるし、提訴すべきかどうかの判断も行いやすくなる。開示を求められる側の負担に配慮しつつ、適切な制度化を行うべきである。

 但し、この制度は従来の証拠保全制度(特にその転用事例)の必要性を減じるものではないから、この制度の新設により、従来の証拠保全制度の利用が阻害されることがないよう、その運用のあり方を留意すべきである。

 また、訴訟提起後の証拠収集方法について、今回の法制審民訴部会の議論では十分に検討されなかった。提訴予告通知制度の新設に伴い、当事者照会制度の拡充など、訴訟提起後の証拠収集方法についても、さらなる充実整備が求められよう。

(3) 専門訴訟への対応

 専門訴訟(知的財産権,医事、金融、コンピュータ技術等に関する事件)は通常の民事訴訟に比して審理期間が長期化するとされ、その適正かつ迅速な解決のための対策として、裁判所の知見を補助する当該分野の専門家である専門委員を活用する専門委員制度の創設、鑑定制度の改革、特許訴訟等の専属管轄化が構想されている。

 専門委員制度を適切に制度設計することで、的確な争点整理や審理計画の策定に資すると考えられたからである。

しかし、このような制度を導入するとなると、裁判所の中立性・公平性の確保も重要な課題となってくる。たとえば知的財産権訴訟と医療事故訴訟とでは、専門家の中立性・公平性が大いに異なるので、本来的には審議会意見書にあるように「それぞれの専門性の種類に応じて個別に導入の在り方を検討すべき」であろうし、一般的な制度とする場合にも、この点への十分な配慮(専門委員の人選の適切性の担保の仕組を設けるなど)が必要であろう。

 また、専門委員が関与する範囲も、実質的な鑑定や実質的な専門参審にならないために、争点及び証拠の整理の段階の関与に限定すべきである。

 なお、当事者が専門家の援助を得て争点整理や審理計画の策定に十分主体的に関与できる場合にまで専門委員を利用する必要はないであろう。

 現在、知的財産権専門部で用いられている調査官制度は、裁判官と調査官とのやりとりがブラックボックス化しており問題である。専門委員制度への一元化あるいは裁判官と調査官とのやりとりを透明化する制度改革が必要である。

(4) 簡裁事物管轄

 少額事件手続きについて、現状の30万円を50万円程度にまで引き上げることは十分合理的であろう。

 しかし、簡裁民事事件一般について、現時点で簡裁の事物管轄を大幅に引き上げることに合理性は見いだせない。現行のまま据え置くか、あるいは物価上昇率等の経済指標を目安にせいぜい100万円程度まで上げるのが妥当なところであろう。

 また、この議論をきっかけに,一方でミニ地裁化と指摘され、他方で消費者金融業者の取立機関化と揶揄される簡裁のあり方について、再検討の議論をしてゆくべきである。

3 人事訴訟制度改革

(1) 移管の範囲

 中間試案では、人事訴訟手続きのみを家裁に移管することとなっている。これまでの議論の経緯から見て、結論を動かすのは難しいであろうが、近い将来には、相続関係訴訟も家裁において一体的に解決できる制度とすべきである。

(2) 移管後の人事訴訟手続きと家裁の事実の調査

 家裁での人事訴訟手続き一般に事実の調査(調査官による調査など)を活用すべきかどうかが問題とされているが、手続保障が十分になされれば活用してよいと考える。

 手続保障としては、当事者に少なくとも事実の調査結果の開示を認め、その説明を受ける権利を認めるべきである(もちろん、特別な事情がある場合に非開示となることはあろうが、原則として公開とすることが重要である)。

(3) 人事訴訟の口頭弁論公開について

 必要な場合には非公開にできる制度を設けるべきである。

4 担保・執行法制度改革

@担保法制について

 中間試案で示されている方向性(商事留置権の不動産への成立の否定,労働債権の先取特権保護等)は概ね妥当であると考える。短期賃貸借制度の見直しに関しては,正常型の賃貸借への保護を拡大するとともに,濫用型を厳しく規制する方向で,制度を改正すべきである。

A執行妨害について

 中間試案で示されている方向性(民事執行法上の保全処分の要件の緩和,明渡執行の実効性の確保等)は概ね妥当であると考える。

B強制執行の実効性確保について

 中間試案において債務者に対する財産管理制度が構想されているが,一律に債務者を法廷に召喚するといった内容ではなく,金銭債務のための間接強制を利用すべきである。また,第三者に対する財産開示制度は実効性が高いと考えられるので,他目的利用を厳格に規制するという条件で,導入を検討すべきである。

 

 

11 行政訴訟改革

 

 1 司法の行政に対するチェック機能の強化

 行政訴訟は、行政の法律適合性を担保し、違法な行政による国民の権利救済をはかる制度であると言われており、これは現在も妥当する。とりわけ各地で行政の不祥事が多発し、違法な行政が野放しになっている今日、行政訴訟の果す役割は一段と重要性を増してきた。しかし、現行の行政訴訟制度が、訴訟法自体の不備、訴訟要件の厳しさ、行政優位の思想、証拠の偏在等から却下率が異様に高いこと、即ち実質勝訴率が極めて低く、ほとんど機能不全といってよい状態にあることは異論のないところであろう。

2 司法消極主義見直しの方向

近時、上下水道談合事件に関する住民訴訟で、相次いで地方自治法上の監査請求期間の制限に服することなく実質審理に入ることを認める最高裁判決が出され、司法消極主義を見直す糸口が示された。この方向はさらに押し進められるべきであるが、他方で現行行政訴訟法の範囲内での訴訟改革には限界があり、同法の抜本的改革も緊急の課題として提起しなければならない。

3 改革の基本的柱

  行政訴訟改革に当たっては、現代国家における行政の肥大化、行政行為の多様化を念頭におき、司法の行政に対するチェック機能を最大限確保し、国民の裁判を受ける権利を実質的に保障する制度を考えなければならない。

  具体的には、次の諸点を基本的な柱とすべきである。

1)行政紛争の多様化にあわせた訴訟類型の用意

  義務づけ訴訟(たとえば福祉行政における受給権の確保など)、行政立法(省令、命令、規則など)の取消訴訟の導入を検討すべきである。

2)訴訟要件の大幅な緩和

  取消訴訟の原告適格を格段に緩和して、処分の根拠法規が個別的利益を保護しているか否かの解釈に血道をあげてきた訴訟の現状を「取消を求める事実上の利益」があれば原告適格を認め、一定人数の原告がそろえば当然に原告適格を認めるように改めるべきである。

 また、取消訴訟の対象範囲を、行政上の計画や地域指定等の不特定多数の人を対象とする一般処分などにも拡大すべきである。

いずれにせよ、「行政に誤りなし」「濫訴防止」という従来の行政優位の思想から国民本位の思想に転換すべきである。

3)証拠の偏在、独占の解消

  立証責任の転換、職権証拠調主義の導入をはかり、訴訟の実質的対等をすすめるべきである。

4)行政裁量にも司法判断を及ぼすための決定基準の作成

  行政の裁量行為は無数にあるが、「裁量行為」の名のもとに司法判断が及びにくかった現状を是正し、司法判断を及ぼすための決定基準を作成すべきである。

5)訴訟手続きの平易化

  国民は誰でも行政と直接の利害をもって生活をしているのであり、本来行政訴訟は最も国民に身近な訴訟制度を用意しなければならないはずである。裁判管轄を広げ、出訴期間を延ばし、被告の特定を簡便化し、印紙額を低額にするなど、誰もが平易に行政訴訟を提起できる制度を工夫すべきである。

6)社会的に妥当な結論の確保

 当面は裁判員制度を実施し、将来的には陪審制を導入すべきである。行政訴訟が多様化し国民の権利関係も錯綜する中で、行政訴訟はその結果如何で広範囲の国民に影響を与える。市民感覚を重視し、社会的に妥当な結論を得るためには国民の参加を実現すべきである。

 

 

12 労働裁判改革

 

1 労働検討会の現段階と今後

  審議会意見書では、実施課題として、@労働関係訴訟事件の審理期間の半減、A労働調停の導入などをあげ、検討課題として、B労働委員会の救済命令に対する司法審査のあり方、C雇用・労使関係について専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否、D労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否をあげている。うち@は、法制審議会で審議され、現在「民事訴訟法改正要綱中間試案」がパブリックコメントにかけられているが、労働検討会での最大の焦点はBないしDの課題をいかに実現するかにある。

現在労働検討会では、総論を検討しており、2003年初めには各論の具体的な検討に入り、同年春ころ法改正事項についての意見集約、同年夏ころに制度要項および法律改正案の作成着手の段階にある。

2 労働裁判改革で実現すべきもの

 労働裁判改革では、次の5点を実現する必要がある。

1) 労働者側、使用者側の代表を参審員として参加させる労働参審制を導入すること

職業裁判官は、労働法などの専門知識を有しているが、雇用社会や企業の実態についての知識や経験に乏しく、労働者の生活と企業利益とのバランスの均衡点を見出すことが困難である。そのために、職場の実態にそぐわない労働裁判が出されているのが現実である。

いま公正な労働裁判を実現する為には、労使関係の専門知識が求められており、労使の代表たる参審員を通じてその事実認定や法律判断に市民の良識を反映させることが必要である。ドイツでは、労使の非職業的裁判官が審議に参加し、職業裁判官と一緒に合議体を構成して評議により決定している。フランスでは、労使の代表による労働審判制によって、労働問題の解決を図っている。イギリスでは、レインメンバーと呼ばれる審判員2名が審判長1名と共に審判し決定している。わが国でも、労働裁判について労使の代表を参審員とする参審制の実現が求められている。

2) 適正・迅速な労働裁判を実現する労働関係事件固有の訴訟手続を整備すること

 各国とも膨大な労働裁判(ドイツ62万件、フランス20万件、イギリス10万件)を簡易、迅速に処理する制度を確立している。わが国でも個別的労使紛争が多発している(厚労省の発表でも年間9万件)にもかかわらず、労働裁判の提起は年間3000件に達していない。個別労使紛争事件を提起から原則として6ヶ月以内に解決する裁判制度を実現するために、特別の審議方式を定めた簡易労働訴訟手続法の制定が必要である。

3) 証拠開示手続きなどを拡充強化すること

「審理期間の半減」のためには、使用者の証拠隠しを許さない証拠開示手続などの拡充強化が必要である。

 労働事件の場合、使用者と労働者との間には圧倒的な証拠の差があり、証拠の偏在が著しい。こうした労働裁判に特有な事情を踏まえて、証拠開示手続の拡充強化が必要である。

4) 当事者の同意のない「付調停」を導入しないこと

「労働調停」は、労働事件の迅速・適正な解決に資するための制度にすべきであり、当事者の同意のない「付調停の導入」は認められない。

5)弁護士報酬敗訴者負担制度は絶対に許されないこと

 

 

13 裁判迅速化のための改革と「裁判迅速化法案」の検討

 

司法制度改革推進本部は、2003年の通常国会に、民事・刑事のすべての裁判で1審判決を2年以内に出すことを明記した「裁判の迅速化の促進に関する法案」を提出する方針を固め、その骨子をまとめた。

しかし、裁判所の人的・物的基盤整備やその他の司法制度改革の諸課題をなおざりにしたまま、審理期間の目標のみが取り上げられると、今まで以上に裁判が拙速となって、審理の充実化の要請からますます遠ざかり、国民の信頼が得られないものになる恐れが強い。裁判迅速化の要請は、司法制度改革の諸課題と併せて検討されるべきである。すなわち、裁判官の大幅増員、民事では計画審理と証拠収集手続の拡充、刑事では取調べ過程の可視化や証拠の全面開示、公的被疑者弁護士制度の確立などの諸課題と併行して追求していかなければならない。

  

 

14 弁護士制度改革と弁護士自治

 

1 弁護士制度改革の重要性

日弁連の目指す司法改革は、憲法に立脚した、市民に身近で利用しやすい司法の実現である。そのためには、まず第1に、現在のキャリア裁判官制度の改革と、市民に開かれた検察制度への改革をすすめることと、訴訟手続きの改革、裁判所、検察庁の人的・物的拡充こそが大切である。

 それと同時に、司法と市民を結びつけるという重要な立場にある弁護士・弁護士会も、人権擁護と社会正義を社会の隅々にまで実現するために、自らを改革する努力を怠ってはならない。

 即ち、司法改革審議会意見書が、弁護士制度の改革をうたい、弁護士の社会的責任、弁護士へのアクセス拡充、弁護士の執務態勢の強化や弁護士会のあり方について提言している内容を積極的に受け止め、主体的に取り組むべきである。

 現在弁護士の法的援助を受けられない市民が多数存在している。弁護士・弁護士会は、憲法32条の裁判を受ける権利が保障されているとは言えないわが国の現実を真剣にとらえ、国や自治体に財政的な措置を求め、地域での司法サービスの拡充に尽力する必要がある。

また、高度なプロフェッションとしての弁護士の専門性と倫理の強化のため、弁護士会による研修と継続教育の充実は重要である。

2 警戒すべき危険な動き

弁護士制度改革をめぐる現在の危険な動きとして警戒すべきは、人権擁護と社会正義の実現という弁護士・弁護士会の公益性を歪めて解釈したり、あるいは否定しようとする議論である。近時、内閣の行政改革司法制度改革推進本部規制改革委員会は、弁護士会の強制加入制を廃止すべしと主張した。さらにその後身ともいうべき総合規制改革会議は、弁護士法72条の抜本的見直しを提案し、弁護士の数の制限に反対している。ここに描かれた弁護士像は「対価をとって法的知識を提供する商人」というものであり、弁護士会が職業倫理などを指導・監督することすら否定し、どの様な弁護士が残るのかは市場のユーザーの選択に委ねればよいとするものである。彼らの議論に立つと、報酬規定を弁護士会が定めることは違法であり、弁護士の養成に国費を給付することに反対することになる。そして最終的には、強制加入の日弁連を解体し、弁護士の自治を否定する危険性を秘めている。

3 弁護士自治の堅持と国民の信頼

わが国の弁護士・弁護士会は、戦後の日本国憲法の下の弁護士法によって、権力に対抗して人権を擁護する弁護士の使命を貫徹する担保として、高度の自治権を獲得した。これは、戦前の弁護士が、強固な司法官僚の統制下に置かれ、軍国主義下の内務省・警察、司法省・検察・裁判所による著しい人権抑圧と戦争に対する抵抗の力を発揮できなかったことの反省に立って、国民から負託されたものである。

規制緩和の下での社会的弱者の人権を擁護する必要性がますます高まっている現在、弁護士自治制度の堅持は極めて重要である。弁護士は、人権擁護と社会正義の実現を基本とする高度の法的プロフェッションとして、社会のあらゆる場面で法的支援を求める人々の期待に応えなければならない。そして、この責務を誠実に果たす弁護士・弁護士会の活動こそ、登録、指導・監督、懲戒などの弁護士自治の基盤となる国民の信頼につながるものなのである。

 このように弁護士自治は国民から負託されたものである以上、弁護士会には、弁護士登録、指導・監督(研修を含む)、綱紀・懲戒、報酬に関する自治権を適正に運用している事実を国民に説明する責務がある。

 しかし、弁護士の自治組織としての会に固有の事務(予算、決算、財務など)や、会の内部事項の決定手続(人事など)については、基本的に弁護士会が国民に説明責任を負うことはない。とはいえ、弁護士・弁護士会の業務と活動について市民の理解を支持を得るために、弁護士白書を発刊するなど、弁護士会が主体的に市民に情報を提供することは必要である。また、国民の意見を十分聴取する姿勢を持つことは重要であろう。市民に対し組織や活動の何をどのように開示すべきかについては、今後十分に検討を要する。

4 日弁連綱紀審査会の設置問題

日弁連綱紀審査会の設置問題については、弁護士自治との関係で、それに拘束力を持たせるべきではないとしてさまざまな議論がなされた。期成会は、2001年に、綱紀審査会が屋上屋を架するものとして、その設置に消極的意見を発表した。

しかし、その後、2002年2月の日弁連臨時総会で綱紀審査会の設置を認める「基本方針」が採択された。司法制度改革推進本部の検討会の議論では、懲戒委員会の審査に付する限度での拘束力を認めるべきだとの意見が圧倒的多数を占め、その旨の取りまとめがなされ、日弁連理事会でもその点に関する執行部方針が了承された。さらに、制度設計としては、綱紀審査会の委員については日弁連総会の議決に基づき日弁連会長が委嘱することになり、綱紀審査会での議決要件は出席者の3分の2以上となった。結局、綱紀審査会の設置によって、懲戒委員会の外部委員過半数化論や懲戒請求人に対する出訴権付与論を押え込むことにもなった。

このような経過と情勢を勘案すれば、懲戒委員会の審査に付する限度での拘束力を認める綱紀審査会の設置はやむをえないものとして是認すべきものと考える。今後の具体的な制度設計や運用に当っては、屋上屋論の立場や弁護士自治堅持の立場からの不断のチェックも忘れてはならない。

 

 

15 弁護士過疎・偏在の解消と地域司法計画

 

1 弁護士過疎・偏在の解消をめざして

弁護士過疎・偏在が指摘されて久しく、公設事務所の設置や過疎地域への弁護士派遣協力事務所の募集など解消のための努力がなされてきているが、なお解消には程遠いのが現実である。今後、被疑者を含む公的弁護制度が実施されると、この問題は一層深刻となる。

各地で地域司法計画が立てられるなかで、各地の弁護士の不足の程度がかなり実証的に明らかにされつつある。

司法試験合格者数が増えるに伴い新人弁護士も増加しているが、相変わらず大都市集中の傾向は弱まっていない。今後、地方に法科大学院が設置されるに及んで、そこを卒業した弁護士が地元に残ることが期待されるが、それだけではなく解消策をなお一層推し進める必要がある。

但し、2001年3月に日弁連の「弁護士偏在解消に関する研究会」が取りまとめた意見書が提起している新人弁護士に対する強制的配置は慎重になされるべきであり、司法修習生の地裁支部への配置、法科大学院生に奨学金制度を創設した上で、指定地域で活動した場合にはその返還を減免する等の方策が検討されるべきである。

東弁としても、日弁連が計画する全国的対策への全面協力の他、独自に応募が低調な弁護士派遣協力事務所の積極的募集による過疎・偏在の解消、公設事務所での派遣弁護士の養成、地元単位会との協議を経てのこれらの事務所の支所の設置、などの検討課題に取り組む必要がある。

2 東京都内で公設事務所の相次ぐ開設を

東京都内でも、都市型偏在のみならず、過疎型の偏在もあり、公設事務所や法律相談センターを設置する必要性は高い。

東弁は、2002年6月、池袋に東京パブリック法律事務所を立ち上げた。市民の法的問題に迅速に対応する「駆け込み寺」であると同時に、弁護士任官推進事務所、地方の過疎地の公設事務所に若手弁護士を送り出すベースキャンプ地等として位置づけて、活動している。このような公設事務所を第二、第三と相次いで開設することが求められている。

東京都内における地域司法計画の策定は、公設事務所の活動を軸に据えながら、早急に行われる必要がある。

なお、市民が身近な場所で法律サービスを受けられるように国が各地に法律サービスの拠点を設けるとの「リーガル・サービスセンター」(仮称)構想が、昨年11月に一部の新聞に報道された。これは、影響するところが大きいだけに、その動向や内容に注目していく必要がある。

 

 

 

16 法曹資格付与問題

 

1 何が検討されているのか

既に司法書士などの隣接法律専門職に対しては限定されたとはいえ代理権の授与が行われている。その上、法曹制度検討会では、@特任検事、並びに、A司法試験に合格後修習せずに?企業法務部等で一定の法律職務に従事した者、B公務員として一定の法律職務に従事した者、C国会議員であった者、に対する弁護士資格付与の可否、および、これらの場合の条件如何についての検討が行なわれている。

また、準弁護士資格とも言うべき副検事・簡易裁判所判事への簡裁での代理権・弁護権の付与も検討される予定となっている。

 このような動きの背景として、弁護士の社会において果すべき役割の増大に比してその数が足りない実状、専門性の活用が指摘されている。 

確かに法曹人口が不足しており、法曹一元まで展望した場合に、弁護士人口の大幅な増加と、多様な経験を踏んだ専門性の高い法曹が必要なことは事実である。そして、その解消策は一定の質の確保も踏まえて法科大学院構想を実施する中で図られるべきである。したがって、上記資格付与問題は恒常的制度としてではなく、法曹人口増加過程での緊急補完対策であることを踏まえたうえで検討されなければならない。

2 弁護士資格に求められる能力

弁護士は、「法令および法律事務に精通」するだけではなく、基本的人権を擁護する職責を持っているからこそ、職務遂行に当たっての禁止事項が法定され、弁護士倫理等の会則の遵守義務を負っている。

 これは、複雑な社会的要因の複合体である紛争の適切・妥当な解決のためには、幅広い法的な知識と単なる法技術が必要になるだけでなく、それらを超えた法の理念・趣旨の理解が必要になるからである。しかも、これらは、訴額の多寡とは関係しない。

 したがって、弁護士資格の特例を厳格にすべきは当然である。

3 「専門性」の内容

そこで問題となるのが、弁護士資格付与などが検討されている上記対象者が有する「専門性」の内容・程度である。

前記Aの修習未了者については、「一定の実務経験」が修習により習得される能力に代替しうるか否かが問題となる。結論的にいえば、企業内法務経験だけでは、利害対立の場における高度の倫理教育など弁護士になるために何より肝心な能力の習得が充足されているとはいえない。

@の特任検事については、既に検討会で在職5年の他はなんら条件を付けることなく弁護士資格を認めるとの取り纏めがなされている。特別考試は司法試験の論文式試験とほぼ同じ構成で、その合格レベルは司法試験並と説明されているが、それならば口述試験を受験するのが本来の姿であろう。弁護士法5条2号の5年間の経験は合格の前後を問わなければよい。

弁護士不足の緊急措置であるとしても、最低限事前研修は必要であろう。

以上のとおり、「一定の実務経験」を基礎に弁護士資格を付与する特例を無条件に拡大することは反対である。仮に、弁護士不足の緊急措置が必要としても、緊急の時限措置であることを明確にした上で、経験する「実務」の限定と十分な年数の確保、事前の能力担保措置が必要である。

4 法曹資格の多様化

副検事・簡裁判事に簡裁における代理権・弁護権等を付与することは、副検事・簡裁判事が主として2で述べた能力を前提としない職種であることから時限措置としても反対である。

検討会等では、弁護士資格の多様化に加え、副検事・簡裁判事や司法書士等に限定的とはいえ訴訟代理権・弁護権等を付与することが検討され、一部では立法化された。

これらに共通して説明される理由は、専門性の活用と多様な資格があることの利便性である。

社会の複雑化・専門分化により、紛争の解決に専門知識が必要となってきてことは確かであるが、紛争の適切・妥当な解決や刑事弁護に求められる専門性は、2で述べた幅広い知識と高い倫理性の保有を前提としたものであり、専門領域での知識のみを意味するものではない。

専門性の活用は、弁護士自身の努力、弁護士と専門家の協力体制の強化によるべきであり、弁護士との協同を前提としない独立した法曹資格の多様化によることは却って国民の利益に反する。

 

 

17 「外国法事務弁護士」との提携・協同問題

 

1.国際化の潮流

審議会意見書は、国際化対応の課題として「日本人弁護士と外国法事務弁護士等との提携・協働の推進」のため、特定共同事業の要件の緩和等を行うべきであるとしつつ、外国法事務弁護士による日本人弁護士の雇用禁止の見直しは将来の検討課題とした。必ずしも審議会で十分に議論されたと言い難いものの、世界貿易機構(WTO)のリーガル・サービス貿易自由化交渉ラウンドの開始も重なって、開放化への強い圧力となっている。

2.制限論と開放論

制限論の骨子は、以下のとおりである。

@外国法事務弁護士は、本来的にわが国の弁護士ではないから、その活動は厳格に制限すべきである。

A呼称も、日本の弁護士と混同する危険のある「弁護士」の呼び方は本来は避けるべきで、外国の例にならい、「外国法相談士」といった呼称が妥当であった。

B資格要件としては、外国の例にならって、「資格取得国における一定年数以上の職務経験」を要求すべきである。

C主に、日本のいわゆる「渉外弁護士」の活動を阻害しないように、行える業務は本国法に関する制限的事項に限定すべきである。

D外国法事務弁護士が日本人弁護士を雇用することは、弁護士を使って日本法の領域に侵入してくる可能性もあるので禁止すべきである。パートナーシップの形態も同様の危険があるので、禁止すべきである。逆に、日本人弁護士が外国法事務弁護士を雇用することは、かような弊害がないので差し支えない。

開放論の骨子は、以下のとおりである。

@外国法事務弁護士の問題については、ユーザーである依頼者(クライエント)の便益を第一に考えるべきであり、この立場からは、一つの事務所だけですべて用が足せる環境が望ましい。

A職務経験年数の要否については、相互主義の立場を徹底すべきであり、外国(合衆国の場合は州)が要求する資格要件を過重すべきではない。

B行える業務は、資格取得国の法に関する事項を基本とするが、日本人弁護士との共同受任により、法廷立会などの事項も肯定していくべきである。

C日本人弁護士を雇用したりパートナーシップを結ぶことは、特段の弊害はないから、これを肯定すべきである。

3.開放論の限界

1)日本における法文化との関係

世界的な潮流は開放論そのものであるが、司法制度はそれぞれの国の歴史のなかで、特有な法文化を形成し、これに即した法曹像を築いている。日本における法文化の一端をあげるとすれば、次の諸点を指摘できるが、外国法事務弁護士制度はその点からの制約を受けざるをえない。

@法曹人口増を厳しく制限したため、法曹(弁護士)の専門化が諸外国を比較して進んでいない。

A人権に対する観念の歴史が比較的浅く、この分野における弁護士の尽力、貢献がめざましかった。

B司法予算が著しく僅少で、法律扶助、国選弁護などが、わずかな報酬で運営され、被疑者弁護活動を支える当番弁護士も、弁護士の寄付により維持されている。

2)緩和の限度と弊害防止措置の整備

日本の歴史的法文化のなかで、外国法事務弁護士制度を緩和の視点で考えるとき、その限度を示すとともに、他方で弊害防止措置の整備を確立しておく必要がある。

さしあたって、審議会意見書の要旨に即して指摘すると、特定共同事業の目的制限の撤廃である。現行外国法事務弁護士法では、原則として外国法の知識のみを必要とする案件に限られている制限を緩和し、@外国法、日本法双方の知識を併せて必要とする法律事務、A日本に居住する外国人の事件も含めるなど、目的制限の撤廃を認めてよい。

弊害防止措置としては、目的制限緩和をする場合、外国法事務弁護士による日本法の取り扱いや不当関与の防止を実効化するため、提携契約の届出制度、具体的案件についての弁護士会調査に対する応答及び関与内容などの記録開示の義務づけ等の整備が必要である。外国法事務弁護士の資格要件についても、従前どおり相互主義を維持すべきである。

また、現状では外国法事務弁護士が日本人弁護士を雇用することは許すべきでない。これは日本における資格制度破壊または潜脱というにほかならないからである。日本人弁護士の雇用が禁止されても、特定共同事業において、外国法事務弁護士と日本人弁護士のパートナーが日本人弁護士を共同雇用できるのであるから、ユーザーの利便が損なわれることはない。

  

 


 

第3章 人権擁護活動の前進のために

 

 

1 憲法改正問題への取り組み

 

1 国会情勢及び政治情勢

 2000年1月に両議院に設置された憲法調査会は、その活動期間を概ね5年とされ、3年経過を目途に中間報告を行うものとされていたが、2002年11月3日、衆議院憲法調査会は中間報告を発表した。

 これまでの憲法調査会では、憲法学者や学識経験者らを招いて、「憲法制定経緯」や「21世紀の日本のあるべき姿」について参考人質疑を行ったり,公聴会を開いて国民から意見聴取などを行ってきたが、2002年7月25日に行なわれた各委員の自由討議では,憲法と現実(国内社会及び国際社会とも)の乖離を指摘し,憲法をそれに合わせていく必要があるとの意見が多く見受けられた。新しい人権,首相公選制,地方自治などの論点が指摘されるが、やはり焦点は憲法9条の改正問題である。

 いわゆる押しつけ憲法論も根強く主張されてはいるが、最近特に若手議員の中で主張されているのは,国際協調主義の要請からの9条改正論である。平和主義を維持したまま,自衛隊の存在を憲法上認めて,さらには国際貢献できるようにすべきであるとする議論である。

 現在,国会で継続審議されている有事法制3法案は,戦争放棄・武力行使などの永久平和主義、国民主権主義、立憲主義、基本的人権尊重主義、地方自治制など日本国憲法の基本原理を改悪するに等しく、実質的な憲法改正を先取りしようとするものである。弁護士・弁護士会は、明文憲法だけでなく、実質的な改憲についても反対していく必要がある。

 2 憲法改正問題への取り組みの必要性

 現在、弁護士会は有事法制3法案の廃案を求める活動を積極的に展開している。こうした弁護士会の運動については,一部の会員から,「強制加入団体として相応しくない」との反対意見が出されたことがある。しかし,国民の基本的人権が制限されたり,憲法の基本原則が変更されそうな事態に直面したとき,弁護士・弁護士会は,その使命及び職責から,決議を挙げたり,運動に取り組むことに消極的であってはならない。

 憲法は,統治機構の基本を定め,人権の価値序列を定めるものであるから,政治的色彩を帯びるのは当然であり,個人の価値判断に密接結びつく側面も有している。しかし,憲法条項が改正されれば,基本的人権が大幅に制限されたり,立憲主義の原則が破壊されて憲法の究極の価値である個人の尊重が果されなくなる危険も大きい。様々な意見があることを踏まえて丁寧な会内合意の形成に向けて努力することが必要であるが,憲法問題であることを理由に消極的態度をとることが許されるはずがない。その意味で,まず衆参両議院からどのような中間報告が出されるかについては注目する必要があるし,今後,改正条項の立法化の動きも含めて,具体的な憲法改正に向けての国会の動向については,弁護士会としても即時に対応できる体制を準備しておくことが必要である。

 弁護士・弁護士会の憲法改正問題に対する判断基準は、永久平和主義、国民主権主義、基本的人権尊重主義、地方自治制など現行日本国憲法の基本原理を維持・発展させるための改正であるのか、それともこれを弱める方向での改正であるのかを見極めて、後者に対しては明確な反対の意思を表明すべきである。

期成会は、期成会内に設置した「憲法問題プロジェクトチーム」を中心に、憲法改正問題に全力で取り組む決意である。

 

 

2 有事法制法案の廃案を求める取り組み

 

1 弁護士会の取り組みの経過

 政府は、2002年4月17日、第154回国会において衆議院に有事法制3法案を上程した。同3法案は、基本的人権尊重、平和主義、国民主権、地方自治という憲法の原則に抵触するおそれがあり重大な危険性を有するものであった。

 日弁連は、国民にその内容を十分に知らせないまま有事3法案を上程することに反対する理事会決議を同年3月15日に挙げ、法案の内容が明らかにされるや、その内容に反対し廃案を求める旨の理事会決議を4月20日に挙げ、さらに、6月21日の理事会では「『有事法制』3法案についての意見書」を採択した。また、10月11日の人権大会では有事法制3法案の廃案を求める旨の決議を圧倒的多数で採択した。他方、廃案に向けた取り組みを強化するために、5月9日、「有事法制問題対策本部」を設置し、同対策本部を中核として、法案反対運動を展開してきた。10月23日には、日弁連会長を先頭にした約1000人の弁護士による日弁連始まって以来ともいえる日弁連国会請願パレードを実施した。全国の各単位会でも反対決議や会長声明が続々と挙げられ,ビラ巻き宣伝活動や新聞への意見広告の掲載など様々な運動が取り組まれている。東弁では5月10日に有事法制3法案に反対する会長声明を発表し,その後,「有事法制問題対策協議会」を設置して,同法案の廃案を求める活動を行ってきた。

期成会は、上記日弁連及び東弁の決議等を全面的に支持し、廃案を求める一連の活動に積極的に参加してきた。例えば、4月には会内に「有事法制プロジェクトチーム」を設置し、また、前記東弁会長声明に先立って、5月7日には、期成会代表幹事名で東弁会長に「有事法制問題に関する期成会の提言」を提出し、東弁として同法案に反対する諸活動を行うよう要請するなどの活動を行った。

その後、日弁連等の活動を含め国会内外の批判が高まる中で、同法案は採択に至らず継続審議となった。このように、日弁連、東弁の同法案の廃案を求めるこの間の取り組みは、画期的かつ意義のあるものであり、そのなかで期成会は一定の積極的な役割を果すことができた。

日弁連は、2002年10月の人権大会において、「有事法制3法案の廃案を求める決議」を採択したが、同決議の次の指摘は極めて重要である。

「有事法制3法案は、武力又は軍事力の行使を許容するための強大な権限を内閣総理大臣に付与する授権法であり、基本的人権侵害のおそれ、平和原則への抵触のおそれだけではなく、憲法が予定する民主的な統治構造を変容させ、地方公共団体、メディアを含む指定公共機関の責務と内閣総理大臣の指示権、直接実施権及び国民の協力・努力義務を定めることにより、国家総動員態勢への道を切り開く重大な危険性を有するものである。当連合会は、法案の持つ重大性、危険性に鑑み、法案の問題点を国民に明らかにし、上記理由に基づき、有事法制3法案に反対し、廃案することを改めて強く求めるものである。」

 2 今後の取り組みの重要性

今日においても同法案の成立をめざしている政府の姿勢に変わりはない。しかも、同法案の本質が、1997年の日米ガイドラインを背景とし、いわゆる「アーミテージ報告」に見られるように、日本の集団的自衛権行使の体制整備、アメリカ軍の軍事行動への日本の積極的支援にあること、そして、アメリカがイラクへの軍事行動を着々と準備していることを考えれば、同法案の成立を求める動きが強まる可能性は高い。次の国会での法案の強行採決という最悪の事態もありうる。引き続き同法案の廃案を求める活動を強化する必要がある。

弁護士・弁護士会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命としている。同3法案が基本的人権侵害の危険性を有している以上、その廃案を求めることは弁護士・弁護士会として当然の責務である。

期成会は、上記人権大会決議を全面的に支持するとともに、この決議が指摘した同法案の問題点を広く国民に明らかにするために、シンポジウム等の学習会活動、ビラの配布など宣伝活動などの取り組みを通じて、同法案の廃案に向けて今後とも努力する決意である。

 

 

3 反核・平和を求める取り組み

 

 日弁連は、1950年5月の定時総会で平和宣言を採択したことを皮切りに、世界の恒久平和確立、沖縄の早期本土復帰、核兵器などの開発・使用などの即時停止と核兵器の廃絶、日米地位協定の改定などを求めて、くりかえし定時総会や人権大会で宣言・決議・会長声明・会長談話などを発してきた。

 これらは日弁連としての平和を希求する姿勢を内外に明らかにしたものである。

 しかし、21世紀に入った今日、日弁連の一貫した活動の指針ともいうべき日本国憲法、特にその第9条の改正が現実的な政治課題として提起されている。そして、憲法改正を実質的に先取りする内容をもつ有事法制3法案が国会に上程され、さらには、アメリカのイラクへの核攻撃も辞さないとの強行姿勢が示されている。このような情勢の中で、今日ほど反核、平和への取り組みが求められている時代はないといってよい。

弁護士会は、日本政府に働きかけ、あるいはブッシュ大統領や国連機関を訪問して、イラクへの軍事行動を断念・中止させるための行動を展開すべきではないかという意見も会員の中から出ている。さまざまな政治的信条をもつ会員で構成されている強制加入団体としての弁護士会としての性格上、会員同士の議論を重ね、一致できるところで行動することは当然として、私たちのよって立つ日本国憲法、とりわけ戦争放棄・武力不行使・軍備放棄を明記した第9条の輝かしい理念を私たちの共通の武器にして一層取り組みを強めることが必要である。期成会はそのために最大限の努力を払う決意である。

 

 

4 教育基本法見直し問題

 

1 中央教育審議会の「中間報告」

中央教育審議会は2002年11月14日の総会で「中間報告」を確定し、文部科学大臣に提出した。

中間報告は、日本社会が「グローバル化の進展と国際的な大競争時代」などの様々な課題に直面しており、「政治、行政、司法制度や経済構造の改革など21世紀にふさわしい国のかたちの再構築を図る一連の諸改革と軌と一にして、教育についても、根本にまで遡って見直しと改革が必要」であるとし、「新しい時代の教育の目標は『新しい時代を切り拓く心豊かなたくましい日本人』の育成である」とする。そのためには、教育基本法の見直しが必要であり、@一人一人の個性に応じてその能力を最大限に伸ばす視点、A「公共」に主体的に参画する意識や態度の涵養の視点、日本人としてのアイデンティティ(伝統、文化の尊重、郷土や国を愛する心)の視点などを明確にする観点から見直しをするとする。また、中間報告は、これらの教育目標を実現するための政策を教育振興基本計画に書き込み、基本計画の根拠規定を教育基本法に明確に位置づけるとする。この基本計画の中には、「我が国の歴史、伝統、文化等に関する理解と愛情を深め、他国と異なる歴史、文化等を理解し尊重する態度の育成」「郷土や国を愛する心をはぐくむ教育の推進」など、精神的自由権の踏みにじるものとなっている。

2 憲法の実質的変更

「教育の基本理念」の見直しについては、そもそも教育基本法は、日本国憲法の「理想の実現は、根本において教育の力にまつべきもの」とし(前文第1文)、個人の尊厳等の日本国憲法の理念を具体化した教育の普及徹底(前文第2文)、「日本国憲法の精神に則」った「新しい日本の教育の基本を確立する」ため制定されたものであり、憲法と不可分に結びついている。日本国憲法の理想の実現を積極的に進めるために、本来憲法で規定してよい事項について教育基本法で制定されたのである。したがって、教育基本法の「改正」は憲法を実質的に変更することにほかならない。

 「教育振興基本計画の根拠」を教育基本法に設けることは、教育行政による教育内容への全面的介入に導くものである。「エリートを育てそれを支える社会」の議論も、「教育振興基本計画」の議論とも絡んでなされているが、それが憲法も保障している教育の機会均等を実質的に掘り崩し、統治する者と統治される者を作り出して、民主主義を掘り崩す方向に向かわざるをえない点で看過できない。

3 教育基本法を生かすことこそ必要

確かに、教育現場においては、いじめ、校内暴力、学級崩壊などの深刻な状況がある。しかし、学校における子どもの人権侵害、家庭の児童虐待、少年非行などの問題を救済活動や弁護活動を担当してきた弁護士としては、これらの問題状況が憲法や教育基本法に基づく理念や教育実践にあるとの議論には重大な疑問がある。むしろ、子ども一人一人の人格の全面的発達をめざす教育基本法を生かすことこそ求められている。

4 弁護士会の取り組み

弁護士会は、教育基本法の見直し問題が憲法問題でもあるとの観点で、取り組まなければならない。

 また、教育基本法の意義について、子どもの人権侵害に対する救済活動、少年非行についての弁護活動・付添人活動などの実践に裏付けに基づいて積極的な提言をすべきである。

 

 

5 政府から独立した実効性のある人権救済機関の設置

 

 1 人権擁護の名に値しない人権擁護法案

これまで弁護士会は、国連自由権規約委員会の1998年11月の「警察や入管職員による虐待を調査し、救済のための活動ができる法務省などから独立した機関を遅滞なく設置する」ことなどの勧告を受けて、政府から独立した実効性のある人権救済機関の設置を求めてきた。ところが、法務省が2002年3月に国会に上程して参議院で先議され、継続審議となっている人権擁護法案は、パリ原則の予定する人権救済機関とは程遠いものであって、到底、人権擁護の名に値しない。人権擁護法案の問題点は以下の通りである。

 2 法務省に従属する人権救済機関

法案では、新たに設置される人権委員会は、入管、拘置所、刑務所、公安調査庁などを所管する法務省の外局とされている。これでは、人権加害者が人権救済者を兼ねる組織であって、独立性はない。特に、名古屋刑務所において、名古屋弁護士会への人権侵害救済申立をした受刑者に申立の取下げを迫って看守が革手錠使用による暴行・虐待で重傷を負わせ、死亡させた事件などが発覚した。この事例からも、法務省の外局とすることが許されるべきでないことがより一層鮮明となっている。

しかも、人権委員会は、中央に置かれるだけで、高裁所在地の8ヶ所には法務局の人権擁護部の職員がそのまま横滑りする事務局が置かれ、その他の地域では法務省の出先機関である地方法務局長に事務委任される。地方法務局には訟務部が併設されており、国家賠償訴訟が提起された時には、国に責任はないという立場で国の代理人として訴訟を遂行する。つまり片方の手で人権救済を求めながら、他方の手で人権侵害の事実を否認し争うという全く矛盾した立場に立つことになる。

事務局の職員も法務省本省との人事交流が予定されており、将来、法務省に戻ることが予定されている職員が本省から睨まれるような救済活動を行うことを期待することには無理がある。

予算も法務省を通じて行うなど財政面でも法務省からの独立性がない。

以上のことだけでも、法案には致命的欠陥があると言わなければならない。

 3 実効性のない組織

 人権委員会の運営に当たる人権委員は5名であり、そのうち常勤は2名だけである。年間1万7千件とも言われる人権侵害救済申立事件を2名の常勤委員が調査・検討することは不可能である。事務局任せになり、実効性を期待できないことは目に見えている。

 4 公権力による人権侵害では差別と虐待に救済対象を限定

 公権力による人権侵害については、強制力のある人権救済(特別救済)の対象を差別と虐待に限定している。これでは、ハンセン病患者への隔離政策など国や自治体の誤った政策による人権侵害や防衛庁の情報公開請求者の違法なリスト作成配布なども救済の対象から除外されてしまう。憲法や国際人権法により人権侵害とされるものが広く救済されるようにしなければならない。

 5 労働関係での人権侵害を丸投げ

 労働分野での差別や虐待については、人権委員会が取り扱わずに厚生労働大臣(船員は国土交通大臣)に丸投げしている。今でも、国や都道府県の斡旋・調停が人権被害者の救済に役立っていないにもかかわらず、これらに丸投げするというのでは、人権救済の実があがるとは思われない。縦割行政の悪弊をここでも残そうとしている。

 6 報道被害と人権救済

 犯罪被害者等に対する報道によるプライバシー侵害と犯罪被害者等に対する過剰な取材のみを特別救済の対象としている。特別救済の対象から政治家や高級官僚などを除外していないことは大問題であるが、そもそも独立性の欠如した人権委員会が報道機関に対して特別救済として強制権限を行使することは、国民の知る権利に奉仕すべき報道の自由を侵害するものであり、認められない。

 

 

6 刑事司法と人権

 

1 犯罪と犯罪者は増加しているか

 刑事司法システムの入口と出口で,今顕著な現象が現れている。「平成13年版犯罪白書」のテーマは,「増加する犯罪と犯罪者」であり,マスコミも,刑務所が「パンク状態」になっていることを報じている。

1) 認知件数増加の意味

 近時,犯罪の認知件数が上昇している。これは、従来は被害届が出されても,警察が現場の判断で受理しないとか,示談させて事件化しないですませる処理方式をとっていたものが,例えば桶川事件が強い世論の批判を受けるなどしたため,2000年から,警察庁が被害届があれば,裁量的判断をしないで受理するよう通達を出して運用が改められた結果によるところが大きい。認知件数の増加を単純に治安の悪化によるとみるのは早計である。

 又,検挙率が下っているのも,増えた認知件数に検挙が追いつかないという見かけ上の意味合いが強い。なぜなら、検挙件数はここ数年横ばいであり、捜査能力は基本的に変わっていないと見るべきだからである。

 検挙人員、検察庁受理人員については、刑法犯は増加しているが、覚せい剤などの特法犯の方は減少している。前者の増加は、特に交通業過や強盗、強制わいせつなどの暴力的犯罪に著しい。しかし,刑法犯全体の起訴猶予率は高くなっているのに、業過を除く刑法犯と薬物事犯では低くなっている。これらは交通業過の多くを罰金又は起訴猶予で処理していることを示す。

 喧伝されているような外国人犯罪の飛躍的増加はない(日本の景気低迷で,流入する外国人の人口は却って減少している)。ただ,従来退去強制で処理されていた部分が,刑務所で服役する方に回っている面はある。

 要するに,捜査,起訴をめぐる統計を追うかぎり,犯罪や犯罪者の増加は,必ずしも著しいものではなく、強制わいせつ、覚せい剤事犯等における起訴率の上昇が指摘できる程度である。一面的統計数値、例えば、認知件数の増加と検挙率の低下をもとにした警察人員の増大や警察力の強化を警戒しなければならない。

2) 過剰収容こそ問題

 深刻なのは,新確定受刑者数の急激な伸びである。その原因は,覚せい剤事犯を中心にした,言渡刑期の長期化にあるということができるが,裁判所の量刑基準をリードする検察庁の求刑姿勢の変化が背景にある。数年前まで3万7、8千人を推移していた受刑者人員が,このため1996年以降4万人をこえ,やがて6万人に達しようとしている。2000年には,全国の刑務所で収容定員をオーバーする事態となっており、2、3年のうちに8万人に達するとシュミレートされている。

 この過剰収容こそが,拘置所から刑務所への受刑者の流れをとめ,さらに留置場(代用監獄)から拘置所への移動の障害となっている。

 また,刑務所の中においても,教育・更正よりも規律維持のための保安が優先され,職員の配置も受刑者の増加に追いつかない。規律違反の増大は,ひいては仮釈放を阻害する。そして,あふれた受刑者が釈放となっても,従来帰住施設の代替となっていた更正・保護施設の不足を招き,ホームレスか再び刑務所の門をくぐるという悪循環となってくる。

 最近における名古屋刑務所の刑務官の受刑者に対する革手錠と保護房収容による陵辱も、過剰拘禁による刑務官と受刑者の極度の緊張関係が一因となっているといえよう。

過剰収容は,日本の刑事司法(すでに多くの問題を抱えてはいるが)が,正常に機能しなくなる前兆ととらえて,単なる刑事施設の増設,刑務所職員の増員だけでなく,根本的対策を講ずる必要がある。

 たとえば,刑の厳罰化を招く要因の除去(世論への働きかけなど)のほか,懲役刑以外の代替刑の採用,社会復帰する受刑者へのきめ細かい福祉等の用意などがあげられる。

 この問題は,現在日弁連と法務省がつづけている「受刑者処遇勉強会」でも重要テーマとして取り上げており、弁護士会においても引き続き取り組みを重視すべきである。いずれにしても,治安強化の方向では,決して解決の途はないのである。

2 東京における大型留置場問題

東京都は,原宿駅近くに600名規模の大型留置場建設を構想している。都内の留置場が満杯になっているため,原宿署の建替を機に,同署の留置場という形をとり,この大型留置場に広く都内全域からの留置人員を受け容れようというものである。被逮捕者の増加(1.9倍)よりも,起訴後の勾留人員(3.7倍)の増加に対応するものであって,名実ともに大型代用監獄である。

 東京三会及び日弁連は,2002年秋までに,東京都と法務省に対しこの大型留置場は「警察官署に付属する留置場」を拘置所に代用できるとする監獄法1条3項の趣旨を逸脱したもので,本来拘置所として建設されるべきであるとする反対意見書を提出している。

 なお,警視庁はすでに多摩地区の留置場不足に対処するためとして警視庁本庁の付属施設として,立川署近くに警視庁本庁の付属施設たる大型の留置場建設をすでにすすめているが,われわれのこれへの対応は十分ではない。

 一部に,留置場(代用監獄)の方が,弁護士の夜間接見などに便利であるから,むしろ賛成すべきだという意見もあるというが,ことは刑事司法の根幹にふれる問題である。自白中心の取調べの便宜のために代用監獄が機能していることを直視すれば,夜間,休日接見の実現と共に拘置所増設こそ求める会内意見の一致をはかっていく必要があろう。

3 外部交通の制約

1) 信書の検閲制度

在監中の被疑者,被告人と弁護人間の信書は長く検閲されてきた。これに一石を投じたのが,高見,岡本国賠の大阪地裁判決(2000年5月25日)である。一審で確定した判決は,拘置所が当該信書の内容を精査したり記録化するのは違法と断じている。

これを受けて日弁連では,全国の単位会に意見照会しつつ,2002年2月法務省に弁護人と被疑者,被告人間の信書の検閲禁止を求め,その協議を申入れた。法務省は協議自体を拒否しているがこの不当な態度を改めさせ,弁護人の自由な接見交通の一環としての信書の無検閲を実現すべく,さらに努力する必要がある。

2) 接見禁止問題

 近時,刑訴法81条の接見禁止決定が増え,公訴提起後のみならず,第1回公判後も続くケースまで報告されている。こうなると,「人質司法」というよりも「密室監禁司法」(日弁連45回人権大会報告18頁)と評すべきだろう。事例を収集し,対応策を検討すべきである。

 この関係で無視できないのが,接見禁止中の被告人と弁護人の文書の授受に関して,検察庁が弁護士会に懲戒申立をしていることである(埼玉弁護士会の会員のケース)。全国への広がりを警戒しなければならない。

4 心神喪失者等『医療』観察法案

 政府提案の「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案」が,国会で継続審議されている。

 この法案は,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者につき,地方裁判所で,裁判官・精神科医各1名で構成する合議体の審判により,「再犯のおそれ」がある場合には,指定入院医療機関に入院させ,あるいは保護観察所の監督下で指定通院医療機関に通院させるというものである。

 しかし,この法案には次のような問題点がある。@精神障害者の初犯を防ぐことはできない。そのためには,日弁連が一貫して主張してきたように,精神医療の改善・充実以外に方法がないのにそれには一切応えていない,A逮捕勾留中の精神医療の継続,不起訴判断の適正化(簡易鑑定の見直し)という,現在緊急に求められている司法と精神医療の狭間を埋めるための対策が全くない,B厳格な証明によることなく犯罪事実を認定し,医学的には判定できないといわれている「再犯のおそれ」を理由に指定入院医療機関に一生隔離することも可能である,C指定入通院医療機関における具体的な医療体制や具体的治療方法などについては一切提示されていない。しかも財政的裏付けもなく,その実質は擬似医療的な強制隔離政策にすぎないなど,看過できない重大な問題点を持っている。

 本法案は,およそ精神障害者の保護や治療を主眼とするものではなく,その本質は,治安優先,社会の安全のため,医療の装いをもって精神障害者を強制的に隔離収容する新たな保安処分の創設にほかならない。かつて,国民的世論の反対で,治療処分という名の保安処分制度の新設を含む刑法「改正」は葬り去られたが,この保安処分制度は,厳格な証明を要するなど刑事訴訟手続のもとで判定され,収容期間も限定されていた。ところが,この法案は,治療を口実に,厳格な証明も要せず,「再犯のおそれ」を理由に一生指定入院医療機関に強制収容することを認めるもので,かつての保安処分以上に人権を侵害するものである。

 日弁連は,心神喪失者『医療』観察法案対策本部を設置して反対運動に取り組んでいる。法案に反対し,日弁連がこれまで提唱してきた地域精神医療の改善・充実の実現を求める運動が今こそ求められている。

 国際的組織犯罪防止条約問題

 日本政府は,2001年12月,国際的組織犯罪防止条約を批准した。その条約には,わが国の刑事法体系にない,共謀罪や結社参加罪,司法妨害罪,刑事免責制度などが含まれている。この条約の国内法整備のため,次期通常国会に提出すべく,現在,法制審議会刑事法部会で,@組織的な犯罪の共謀,A証人等買収,B犯罪収益規制,C贈賄罪の国外犯処罰などについて審議されている。

 条約の国内法化を巡っては,今後,弁護士の守秘義務に反して国に依頼者に関する情報提供を義務付けるゲートキーパー問題(第5章5参照)やサイバー犯罪問題なども俎上に上ることは必至である。

 条約の国内法化,あるいは社会の安全などを口実とする,構成要件の緩和,処罰範囲の異様な拡大,重罰化,適正手続の軽視,捜査権限の拡大等々,わが国の刑事法体系をめぐる状況は極めて厳しい。今こそ,国家権力から国民の基本的人権を守る原点としての刑事法の原理原則に立ち返った対応が不可欠である。

6 死刑廃止問題

死刑廃止をめぐっては,2002年6月,欧州議会で日本・韓国・台湾における死刑廃止に関する決議が採択され,死刑廃止もしくは死刑執行停止の実現が要請された。2001年6月に欧州評議会議員会議は,アメリカとわが国に対し,早急に死刑執行の一時停止を行い,死刑制度の廃止に必要な手段をとることを要請し,2003年1月1日までに明らかな進展がない場合には,アメリカとわが国のオブザーバー資格を維持することに異議を唱えることとした。

このような欧州議会の対応に象徴されるように,死刑の廃止もしくは死刑執行の一時停止を導入することが国際社会の主要な潮流となっており,それはわが国の近隣諸国にも及んでいる。

 国内では,死刑廃止を推進する議員連盟の動きが注目されている。1995年には死刑執行停止法案を策定,2002年には死刑廃止法案や死刑存置を前提とした終身刑法案などが検討されている。

 日弁連では,「死刑制度問題対策連絡協議会」が時限立法としての死刑執行停止法を提唱するとともに,死刑に代わる最高刑や死刑制度の改善などについて提言し,会内論議を活発化しようとしているが,死刑をめぐる会内論議は極めて低調である。また,議員連盟との意見交換も行っているが,議員連盟は死刑執行停止法には消極的であり,その実現の可能性は低い。

死刑を廃止するか否かについては,すでに議論の段階は過ぎ,決断の段階に至っている。死刑廃止を推進する議員連盟をはじめとする議員に死刑廃止を決断させる取組みが求められている。

 

 

7 犯罪被害者支援

 

1 弁護士による犯罪被害者支援の現状

 わが国における犯罪被害者支援はどちらかといえば警察主導で進んできたが、全国的にみても弁護士会による相談窓口が増加するなど、弁護士による犯罪被害者に対する支援は定着しつつある。

 東京でも、東京3会による共通リーフレット作成及び関係機関への配布、並びに警視庁、東京地方検察庁等との懇談などにより、弁護士会の犯罪被害者支援活動に対する期待は、ますます高まりつつある。

2 東弁による取り組みの現状と課題

 東弁では、2002年4月から、従来週1回行なっていた電話相談を、週3回に増やした結果、相談件数は増加し、現在では電話相談が月に30件から50件、面接相談も5件程度となっている。また、外部講師による被害者の心理についての講義や、DV法やストーカー規制法の学習会を開くなど、定期的に相談担当弁護士に対する研修も行なっている。

 来年度の課題は、@更に相談窓口についての広報を続けること、A他機関(警察、検察、社団法人被害者支援センター、民間団体)との連携を強めること、B相談担当弁護士への研修を充実させることである。
 また、犯罪被害者基本法や、いわゆる「修復的司法」の手法(一定の種類の犯罪について、当事者が合意した場合に限り、加害者と被害者が面接などをして関係の修復を図り、ときには被害弁償について合意形成を試みる和解プログラムなど)について、研究を進めるべきである。

 

 

8 消費者問題
 

1 変化の激しい消費者問題

消費者問題の分野は被害の発生に際し機敏に対応することが求められ、常に新たな問題・立法をかかえている。
 とりわけ、ここ数年の新立法・法改正はめまぐるしい。2000年に成立し、2001年施行になった法律だけでも、消費者契約法・金融商品販売法・特定商取引法(訪問販売法の改正)・民事再生法改正(個人民事再生の導入)があり、2002年に成立施行になったものとしてメール適正化法がある。
 他方、日々生起している消費者問題としては、悪徳商法による大規模消費者被害事件も続発しており、2002年だけをみても八葉物流・ジーオーグループの破綻が問題となった。また、消費者契約法の施行を受けて、大学入学辞退者への入学金等不返還を許さないという、通称ぼったくり問題弁護団の結成も話題になっている。
 さらに、多重債務による被害は拡大の一途にあり、商工ローンあるいはトイチ・トサンといった違法金融も問題となっている。
 このように、この分野は日々新たな問題が生じる領域であり、状況に機敏に対応した取り組みの必要性がますます高まっている。
2 弁護士会の役割
 弁護士会において消費者問題にたずさわる委員会等は、消費者問題特別委員会であり、法律相談として「クレジット・サラ金相談」や「消費者問題相談」の窓口が設けられている。
 委員会では、時々に発生する大規模事件につき説明会を設け弁護団結成に尽力しているが、事件が度重なるにつれてなかなか人材を確保できないというジレンマも生じており、多くの会員がこれらの被害救済に積極的に協力し参加していくことが求められる。加えて、頻繁に法や状況が変わることに適正に対応できるよう、研修会や相談事例検討会などの機会を設けることが必要であるし、これらに積極的に参加していくことが大切になっている。
 また、多重債務問題についても、商工ローン・違法金融への対処などでは常に新たなノウハウが蓄積されており、これらを理解し実践していくことが必要である。さらに、非弁提携弁護士の破綻・懲戒により一挙に大量の事件につき処理が必要になるという事態が生じることがあり、会の信頼確保のためにも、積極的に処理を引き受けることが求められる。
3 司法改革問題への取り組み
 弁護士費用敗訴者負担問題や仲裁問題は、消費者問題を考えるにあたって看過できない重大問題である。消費者取引の分野では、一方的に不合理な契約を押しつけられたり、立法的な手当がないままに被害を受けるということが多い。そのような中、敗訴者負担制度が全面導入されるならば、訴訟提起を躊躇する例が増え、被害救済が図りがたくなる。また、仲裁合意を全面的に認めるならば、訴訟の道自体が閉ざされることになってしまう。したがって、消費者問題の観点からしても、これら悪しき改革には強く反対していく必要がある。

 

 

9 住基ネットと個人情報保護

 

1 世界に類例のない住基ネット

国民ひとりひとりに管理番号をつけ,管理番号を中心に国民の個人情報を管理する仕組みである住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)は,2002年8月5日、その実態を国民にほとんど知らせず,多くの市町村の施行延期の声を無視したまま,稼働を開始した。

住基ネットは,@国民全員に番号(住民票コード)をつけること,A全国的なコンピュータネットワークであること,BICカードが交付されること,C市町村が管理主体であること,を特徴とする世界に類例のない仕組みである。「外国にも番号制はある」と言われるが,附番することがつねにABCとセットになっているわけではない。そもそも,ABCをセットにしている国はない。

2 市町村に責任を押しつける住基ネット

「国が国民を管理するのではない」という外形を取り繕うためにCを採用したことが,そのまま市町村にすべての責任を押しつけることになった。法律上,市町村の事務ということになっているので国や県から補助金は出ず,市町村が経費を負担しなければならない。しかも市町村にはメリットらしいメリットがない。日弁連がこの1年内に行った3回の市町村アンケートの結果にも、市町村の疑問や不満,怒りがはっきり現れている。福島県矢祭町や杉並区,国分寺市,中野区が住基ネットへの接続を拒否し,横浜市が市民選択制を採用したのも,これらの事情が背景にある。そして住民基本台帳法附則1条2項にいう「個人情報の保護に万全を期する」との前提を欠いている点が条文上の根拠のひとつになっている。

3 コンピュータに管理される立場になる人間

コンピュータネットワークの利便性と危険性に精通しているコンピュータ専門家たちは、あまりに無責任な時代遅れの制度に呆れている。「コンピュータネットワークは放っておくと個人情報をどんどん集め,しかも半永久的に情報を記録してしまうので,意識的に分散管理するようにしないと人間の生活を監視する社会になってしまう」と彼らは言う。

これらの指摘からわかるように,住基ネットはこれを廃止に追い込めば問題が解決するというものではない。走行する車を監視するNシステム、新宿歌舞伎町に始まり全国に広まりつつある日常生活を撮影する監視カメラ、ICチップを埋め込んだJR東日本のSuicaカードによる行動監視、個人信用情報の膨大な集積とその企業利用、遺伝子情報の分析とコンピュータ管理・・・。人間はコンピュータを利用する立場から急速にコンピュータに監視され,管理される立場になろうとしている。

これまでのように「コンピュータのことはコンピュータ専門家に」任せきりについては,プライバシー保護を中心とする法的観点が欠落してしまう。他方,法律家だけでは技術的に解決すべき問題について規範を設定するだけで安心してしまうおそれがある(コンピュータの世界では技術的に容易なことは禁止しても誰かが行ってしまう。)。住基ネットはどちらの欠点も「兼ね備えた」欠陥法である。

4 責任ある個人情報保護の仕組みを

民間個人情報保護法案は官僚が国民を監視するという考え方に立脚しており,行政機関個人情報保護法案は行政機関個人情報「利用」法になってしまっている。官僚の身勝手さは目に余るものがある。法案の条文の多少の手直しで何とかなる状況ではない。

利便性ばかりを追っていてはこの流れを変えることはできない。人間が主役の立場を取り戻すために,いまこそコンピュータネットワークをどのように管理するかという問題を法律家とコンピュータ専門家が真剣に検討し,かつ実行して行かなければならない。その共同作業内容は,住基ネットを廃止させ,責任ある個人情報保護の仕組みを作ることである。

 

 

10 公害・環境問題と人権

 

1 公害環境をめぐる情勢と課題

経済活動に伴う水、大気の汚染、自然破壊、地球温暖化の進行、有害化学物質の環境への放出は人類の生存を脅かし、多くの生物を絶滅の危機に陥れてきた。

東京電力の原発損傷隠しの問題は一歩間違えれば環境に取り返しのつかないダメージを与える看過できない大問題であり、改めて、我々の生存を脅かす事態が目前に迫っていることを多くの国民に認識させた。

公害・環境問題は単に一部の公害被害者の問題にとどまらず、まさに、人類のみならず全生物が地球上で生存し続けることができるかどうかが問われる、緊急の課題となっている。

 このような状況の下で、多くの弁護士が公害、環境訴訟、あるいは弁護士会活動や環境NGOの活動において、公害・環境問題に取り組み、多くの成果をあげてきた。弁護士会でも、これらの環境問題に対して適宜、意見書を公表するなどして、行政や大企業に対して提言を行ってきた。

自動車による大気汚染公害被害者500名余を原告とする東京大気汚染訴訟の第一審判決(2002年10月29日)において、東京地裁は5たび道路公害を断罪した。しかし、この判決は「幹線道路における自動車交通量の増大について、これを管理する余地がない」などとして自動車メーカーの法的責任を否定するなど市民感覚とのずれも露わにした。

また、横田基地周辺で騒音被害に苦しむ6000名以上の住民を原告とする新横田基地公害訴訟の判決においては、夜間飛行の差し止めが排斥されたという問題はあるものの、改めて基地の設置、管理の違法性を断罪し、国に損害賠償の支払いを命じた。

さらに、高尾山の圏央道トンネル工事の差止を求める「高尾山天狗裁判」では、税金無駄使いの公共事業によりかけがえのない自然環境の破壊が許されるのかという問題が問われている。

これらの訴訟においては、公害、環境破壊の事後的救済にとどまらず、環境破壊を事前に差し止めるために、環境権・自然享有権の確立が求められているが、裁判所の理解ははなはだ不十分であり、今後の裁判事例の積み重ねや司法改革をめざす動きの中で、是非とも突破されなければならない課題となっている。

2 法律相談体制の充実に向けて

大規模な公害・環境破壊に対処するだけでなく、個々の市民が日常的に直面する公害被害の救済も求められている。

東弁では、二弁と共催で、月2回、公害・環境問題についての無料電話相談を実施している。相談者の居住地域は東京やその近郊にとどまらず広く全国に及んでおり、公害・環境問題についての法的需要は、潜在的には相当数あると思われる。今後、相談体制をより一層拡充させ、電話相談にとどまらず弁護士会の法律相談の枠内で、面接による公害、環境相談を実施することも検討されている。一方、広報の問題もあってか、相談者数が伸び悩んでいるという問題もある。今後は広報を充実させて、幅広く被害者の救済を図る必要がある。

また、公害・環境問題を扱う弁護士が少ないため特定の弁護士に事件が集中する傾向にある。相談需要に応じるために公害・環境事件を担う弁護士の育成も急務である。

3 具体的な活動の強化

2001年のBSE(牛海綿状脳症)問題を契機に、政府は食品安全基本法案を次期通常国会に提出する予定であり、新しい行政組織である「食品安全委員会」の設置も企図されている。

東弁では、1981年に発表した「食品安全基本法の提言」をもとに、消費者の権利を明記し、情報公開と予防原則を旨とする「食品安全基本法の制定を求める意見書」を次期通常国会開会前に公表する予定で準備が進められている。さらには、この問題についてのシンポジウムの開催も検討されている。

 また、里山の自然(人間の手が入ることによって維持される2次的自然)については、2002年3月に策定された新生物多様性国家戦略において、その重要性が指摘された。しかし、1994年の建築基準法改正により、いわゆる地下室マンションが認められるようになったため、国分寺崖線、三多摩の丘陵地域でのマンション建設が目白押しの状況にある。このような事態を受けて、東京の里山の保全に関する調査研究も極めて重要である。

東京都環境アセスメント条例が改正され、「計画アセス」が導入されるようになった。アセスの対象が東京都の開発行為に限られるなど不十分な点はあるが、今後、この計画アセスの具体的な実施状況、実施内容について、適宜、調査を行ない、アセス制度が十分に機能するように監視する必要がある。

公害・環境問題の取り組みにあたっては、このような具体的な活動を一層強化することが求められている。

 

 

11 両性の平等

 

1 依然として著しい職場の男女差別

2000年度の女性の賃金は、男性の65.5%(パート等非正規雇用を含めると49.8%)であり、男女間の賃金格差は前年より拡大している。男女の募集・採用、昇進・昇格差別まで禁止となった改正均等法が施行(1999年)され、男女共同参画社会基本法(1999年)も施行され、男女共同参画社会が21世紀のわが国社会を決定する最重要課題と位置づけられているにもかかわらず、パート等の非正規労働者が増え続け、全体としての男女賃金格差は年を追って拡大している。

 最近の裁判例でみると、芝信用金庫昇格差別事件ではじめて地位昇格の確認が認められ、住友生命ミセス差別事件で既婚女性に対する差別が断罪されるなど新たな動きも出ているが、内山工業事件に見られるように現在においても賃金表の適用を男女で分けている男女差別が肯定されている。また、男性は基幹的業務、女性は定型的補助的業務という男女別採用・処遇(コース別人事制度)について、住友電工、住友化学、野村證券の男女差別事件では、憲法14条の主旨には反するが原告らが入社した昭和3〜40年当時の公序には反しないとして違法性を否定し(時代制約論・野村證券判決は改正均等法以降は違法とした)、男女平等を後退させる判決が続いた。

2 重大な問題を含む「パートタイム労働研究会報告」

 厚生労働大臣の私的諮問機関である「パートタイム労働研究会」は、2002年7月に最終報告を発表した。報告は、「ヨーロッパ型の同一労働同一賃金の原則はわが国の公序になっていない」として、「日本型均衡処遇ルールの確立」を提唱している。特に「残業や転勤などの拘束性」によって賃金等の処遇が異なることを当然視し、正規雇用も含めた見直しが必要としている。現在も育児や介護など家庭責任を負っているのは圧倒的に女性であるため、長時間過密労働の下で残業や転勤などの「拘束性」の有無・強弱によって賃金に格差を設けるということになれば、男女間の賃金格差は是正されるどころか拡大することは明らかである。

 日本はすでに1967年に、「同一価値労働同一賃金の原則」を定めたILO100号条約を批准している。この間、ILO100号条約勧告適用専門委員会、女性差別撤廃条約や自由権・社会権人権規約委員会から毎年のように、わが国の著しい男女賃金格差が指摘され、是正のための措置を求められているにもかかわらず、今回の報告は国際的にもわが国の人権感覚が疑われる内容である。東弁や日弁連は、2月の「中間報告」段階で意見書を発表しているが、引き続き最終報告に対する批判が必要である。

3 ジェンダーの視点からの司法改革を

 日弁連の両性の平等委員会は2002年3月「司法における性差別─司法改革にジェンダーの視点を」のシンポジウムを開催した。弁護士や市民のアンケートにより法曹三者、警察、調停委員会、調査官等のジェンダーバイアス(性に基づく差別、偏見)に基づく発言等が明らかにされた。例えば「夫が多少の暴力をふるうのは当然」「浮気くらいで離婚を言うのは我慢が足りない」「仕事なんかしているからこんなことで離婚を言い出す」などである。

 日本の社会においては職場、学校、地域、家庭などで性別役割分担意識やジェンダーバイアスが依然として根強く存在する。特に司法においては、被害の救済、権利の実現を求めてくる女性に対してしばしば2次被害の人権侵害をもたらしている。今後ジェンダーの視点からの司法改革に積極的に取り組むべき課題である。

 立法分野でいえば、選択的夫婦別姓制度導入の民法改正要綱答申が出されて6年以上も法案が国会に上程されていない。同姓が強要される現行法の下で不利益を被っているのはほとんどが女性であることから、弁護士会としても今後も引き続き働きかけを強める必要がある。

 

 

12 子どもの人権

 

1 子どもの権利条約

 子どもの権利条約の実施状況を報告するため、政府は2001年11月、批准後2回目の政府報告書を提出した。

 しかし、政府報告書は、警察の記載ばかり目立ち、相当に偏った内容になっているだけでなく、形を整えることに終始し、全体的に新鮮味に欠ける内容になっている。1998年6月に国連子どもの権利委員会が明らかにした総括所見では、独立した監視機関の設置が勧告されたが、いまだ履行されていないし、子どもを権利行使の主体と位置づけた条約の理念も実現されているとは言い難い。

 弁護士会としても、条約の理念の実現に向けて、子どもの権利専門の公設事務所を検討するなど、一層の努力を傾注する必要がある。

2 東京都子どもの権利擁護委員会

 1998年11月に発足した東京都子どもの権利擁護委員会は、来年度に5年目を迎える。東京都下における子どもの権利擁護を目的とし、いわばオンブズマン的な活動を目指すこの制度が、子どもの権利条約を意識して設置されたことは論を待たない。発足以来、2002年8月までに寄せられた相談件数は5,350件にのぼり、しかもその8割は子ども自身からの相談であって、改めて需要の多さを実感させられる。

 委員会活動の中核を担う3名の専門員のうち2名は弁護士で、うち1名は当弁護士会の会員である。東京都下の子どもの人権擁護をわずか3名の専門員でカバーしなければならず、専門員は多忙を極めている。現在、調査員として10数名の弁護士が登録され専門員を援助しているが、都下の子どもの権利擁護を一層充実させるべく、弁護士会も積極的な支援を厭うべきではない。

 委員会は、本来、都の条例に基づいて設置され、都からも一定の独立性を確保しつつ活動することを期待されていた。しかし、さまざまな事情から条例はいまだ成立しておらず、委員会は都児童相談センター内に間借りしたまま、4年を経過した今も「試行期間」という位置づけに甘んじている。

 上述の需要に照らせば、現状のままで事足りるはずはなく、東京都子どもの権利条例制定に向けて運動を展開する必要がある。

3 児童虐待

 2000年11月に施行された児童虐待の防止等に関する法律は、2003年を目途に見直しが予定されている。児童虐待は依然増加の一途をたどっており、幼い子どもが命を落とす事件も後を絶たない。より実効性のある対応を可能にするため、防止法を含め児童虐待に関する法制度を抜本的に改正する必要がある。

 危機介入時においては、かねてから機動的な親権制限が必要だとされてきた。親子関係を規律する基本的法制度の改正になるだけに防止法制定時には見送られたが、議論を尽くしつつ一歩でも先に進む必要がある。また、保護した後の子どもたちが入所する施設の人的物的貧しさは目を覆うばかりであるし、分離した後の親子のケアも全く不十分である。こういった問題への取り組みが急務である。

4 少年司法

 改正少年法が施行されて2年が経過しようとしているが、原則逆送が条文どおり履行されるなど、予想どおり厳罰化が進行している。

 こういった現状のなかで、日々の付添人活動の重要性に、今一度目を向ける必要性がある。福岡県弁護士会では少年の身柄が拘束されている事件について、全件付添人を選任する制度を実施に移した。当弁護士会でもこういった取り組みを強化するためには、一層の経験交流や情報提供を通して、少年司法を担うことができる弁護士を増やすことが望まれる。

 一方、少年非行問題全体を見渡したとき、少年犯罪被害者対策の重要性も再確認すべきであって、修復的司法の研究など取り組むべき課題は多い。

 

 

13 高齢者・障害者問題

 

1 契約型福祉社会と弁護士会の役割

 高齢者福祉における介護保険制度の導入、障害者福祉における支援費制度の導入と、契約型福祉社会への転換により、高齢者や・障害者の権利擁護に対する弁護士、弁護士会の役割はいっそう大きくなっている。

 介護保険導入後2年が経過したが、基盤整備が不十分なままに移行したことから、負担のみが増加して十分なサービスが受けられないという状況は改善されず、福祉を民間にゆだねたことにより国や自治体の責任も不明確になっている。福祉の現場におけるさまざまな権利侵害に対し、弁護士会として監視をし、かつ積極的に提言を行うことが求められている。

 また、判断能力の減退した高齢者・障害者の権利擁護の手段ともなる成年後見制度も改正後2年が経過し、利用者は大きく増大した。しかし、手続きの煩雑さや費用負担の問題などで、まだまだ気軽に利用できるようにはなっておらず、その年間利用数は、ドイツに比し10分の1でしかない。家庭裁判所の人的物的体制は現状の利用増大にすら十分に対応できる状況にはなく、市民に身近な裁判所というにはほど遠い状況にある。裁判官、調査官、書記官を飛躍的に増員して利用しやすい体制をつくりあげるとともに、低所得者に対する補助制度を創設し、また法律扶助予算の増額による補助を行う必要がある。

 障害者福祉も2003年4月から契約に転換されるが、ここにおいても高齢者福祉におけると同様の問題が生ずる。福祉後退、権利制限とならないよう厳しく監視し、法的支援を強化することが必要である。

2 高齢者・障害者のための権利救済システムの創設

 高齢社会に突入し、また超高齢社会を目前にして高齢者への虐待は深刻さを増している。暴力、身体拘束、介護放棄による虐待などの高齢者に対する虐待を防止するためには、総合的な防止のためのシステムが必要であり、そのために高齢者虐待防止法制定の必要性が高まっている。

 また、知的障害者、精神障害者は人権侵害、犯罪被害を受けても、自身がその被害を明確にできなかったり、施設との関係で公にできないなどという問題を抱えている。事後的な法的救済はもとより、予防、再発防止のための適切な方策の整備が求められている。

 これら障害者に対する差別も依然として強く、解消にはほど遠い状況にある。基本的な対策として、障害者差別禁止法の制定への取り組みが必要である。

 なお、現行の裁判システムにおいては、視覚障害、聴覚障害を持つ人達が裁判所で裁判の進行を理解し十分に対応できるようにはなっていない。これらの人たちの裁判を受ける権利を実効性のあるものとするため、点字、録音、手話通訳の保障などの改善、法的支援もはかるべきである。

3 心神喪失者等「医療」観察法案

 心神喪失者「医療」観察法案は、心神喪失者に対して疑似医療による強制隔離を制度化しようというものにほかならない。精神医療を充実してこそ時として起こる不幸な事態を防止できるのであり、まず必要なことは精神医療改革を先行させることでなければならない。全力を挙げて政府案を廃案にさせ、同時に精神医療改革の実現をはかるべきである。

 

 

14 外国人の人権

 

1 実体的な権利の保障

人種差別撤廃条約への加入にもかかわらず、政府の積極的、実効的な差別撤廃への施策がないまま、公人の外国人差別発言等をはじめとして、条約違反行為が事実上放置されている。国際人権規約B規約人権委員会等の数度にわたる勧告にもかかわらず、在日韓国朝鮮人等の民族教育、民族学校への差別措置が是正されていない。新たに人種差別禁止法の制定が検討されるべきである。

永住外国人に対する日本国籍付与法案(届出のみで日本国籍を付与する)は、少数民族の民族教育権の保障など、その文化・伝統の継承のための十分な手当てを伴わなければ、却って対象とされた外国人の利益を害する結果を引き起こしかねないことに留意すべきである。

また、永住外国人への地方参政権(選挙権)の付与が推進されるべきである。「代表なくして課税なし」という民主主義の原則からして、「選挙権」の付与は当然である。
2 人権委員会構想

これまでは、外国人の人権救済のための法的手続きは実質的には裁判しかなかった。しかし、裁判は基本的には個別救済だけに止まり、かつ、その救済も原則として法律の枠内でしか行われえない。例えば、一連の戦後補償裁判では、明らかな不正義(韓国、台湾籍日本軍人への差別措置、日韓請求権協定に基づく政府による個人請求権の一方的放棄等)のほとんどが法技術上の問題(時効、除斥期間、戦前の国家無答責等)を理由に放置された。

パリ原則に基づく国内人権機関としての人権委員会(国内人権委員会)構想は、外国人の人権擁護の点で大きな可能性を秘めている。ところが、現に政府が国会に提案している人権委員会制度には致命的な欠陥があり、抜本的見直しが必要である(「5 政府から独立した実効性のある人権救済機関の設置」参照)

3 B規約第1選択議定書の批准

外国人の人権擁護にとっては、国際人権規約B規約の人権委員会は重要である。国際人権規約B規約人権委員会の審査を可能とする同規約第1選択議定書の批准が引き続きめざされるべきである。この批准がなされていれば、戦後補償裁判の判決の対象となった事項のうちの一部については、判決の妥当性が人権委員会によって審査されることになったであろう。

4 難民認定手続

先の中国・シェンヤンの事件以来、日本の難民認定手続の問題性への関心が高まっている。本来、難民認定手続は、難民の地位に関する条約、難民の地位に関する議定書等が規律する法的手続である。ところが、法務省(入国管理局)では、これまで、これら法的文書が予定するものとは相当に異なる独自の政治的・恣意的運用を行ってきたし、法律もそのような運用を許すものであった。裁判所もこれを追認してきた。このような仕組み、運用を改め、法的手続たる実質を確保するため、手続の透明性を高めることが必要である。さらに、難民に関する政策の策定にあたっては、難民条約、難民議定書のより一層の履行を図るべきであり、難民に関する諸手続は、難民でない者を選別することではなく、難民を例外なく保護することを目的とすべきである。
4 入管手続の透明性の確保

入管手続については、建前として国家(法務大臣)の自由裁量が妥当するといわれることがあるが、これは理論上も妥当でないのみならず、現在の運用とも乖離している。実際の運用上も、一定の分野においては権利性が認められているのは明らかである。しかし、係争案件になると、建前としての自由裁量論が国側によって主張される。どの分野について権利性を認め、どの分野についてそれを認めないのかを明確化したうえで、外国人の権利の内容、入国管理局の権限についても明確に法定し、手続全体に透明性を確保する必要がある。
 具体的には、まず、理由を知る機会が当事者に保障されなければならない。特に不利益処分については、処分の理由を実質的・具体的に書面に記載し交付すべきである。身柄拘束を伴う場合には改善すべき点が特に多い。不法滞在者等に関する全件収容主義は入国管理局の建前としても放棄されるべきである。行政庁のみの判断に基づく身柄拘束(及び釈放)を可能とする現行法を改め、裁判所等の第三者機関を関与させ、拘束可能な期間についてもより厳格に法定すべきである。

 

 

15 医療過誤と人権

 

1 なぜ医療関係事件がターゲットとなったのか

審議会意見書は、解決のために専門的知見を要する事件の1つとして、医療関係事件を例示した。そして、「専門的知見を要する事件の審理期間をおおむね半減することを目標と」するとし、その方策として「民事裁判の充実・迅速化に関する方策」に加え、専門委員制度の導入、鑑定制度の改善などをあげている。このように、医療関係事件がターゲットとなったのは、「医療過誤訴訟は時間がかかる」との批判があったからである。

 上記の方策は、審理を迅速化するために、専門家(医師)の知識を裁判に反映させようという狙いがある。1つは、専門家には専門委員という形で証拠調べ以前から裁判に関与させ、裁判官が早期に心証をとれるようにしようとの狙いであり、もう1つは、鑑定制度を「改善」し、引き受け手がなかなかみつからない鑑定人をなるべく多く確保できるようにしようという狙いである。しかし、どちらにも大きな問題がある。

2 専門委員制度の問題点

 まず、専門委員(医師)といっても、中立性が確保されているという保証がない。医療過誤訴訟においては、医師同士のかばいあいが患者側にとっての大きな壁となっているが、専門委員が被告となっている医師をかばい、判断をゆがめる危険性がある。

 次に、医師にはそれぞれの専門があり、問題となっている事件に相応しい専門性をもった医師を確保できるという保証がない。

 最後に、専門委員制度においては、その専門委員が裁判官の判断プロセスにどのようにして影響を与えたのかが当事者にはわからない。専門委員の発言によって裁判官が心証をとることになるが、それは証拠調べや鑑定という形をとらないので、その専門委員の発言内容自体を知ることができず、その信用性を争う途が閉ざされてしまう。

3 鑑定「改善」の問題点

 法務省の考えている鑑定の改善方法で最も問題であるのは、鑑定人尋問をやめ、「鑑定人に対する質問」のみを認めるという点である。

 背景には、反対尋問にさらされることを医師らが嫌い、鑑定人を引き受けようとせず、そのために必要な鑑定人を確保できないとの裁判所の考えがある。反対尋問を制限し、単なる「質問」に限れば、鑑定人のなり手も増えるはずだというのである。

 しかし、鑑定人の医学的知見の正確性や鑑定の信用性は、反対尋問によってこそ、試されるべきもので、反対尋問を制限することによって鑑定人を確保しようとすることは、本末転倒というべきである。

4 今後の取り組み

 弁護士会としては、専門委員制度導入には反対し、仮に導入されるとしても、当事者の合意を要件としたうえで、関与の範囲を争点整理段階に限るべきである。また、鑑定制度の改善(鑑定人の確保)は、反対尋問の制限ではなく、鑑定制度の運用の見直しによって行うべきである。具体的には、医療界と法曹界の相互理解を深め、「鑑定」が医療界で高く評価されるような土壌を育んでいくべきであろう。

 

 

16 民事介入暴力からの被害者の救済

 

1 民事介入暴力

 暴力団、標榜右翼、標榜同和などが民事問題に介入して、不法な利得を得ることが民事介入暴力である。

 これ等の勢力は、バブル期の頃から、それまでの闇の世界から表社会へも進出してきた。

 当初、警察は、民事介入暴力については、「民事不介入の原則」をとって消極的であった。しかし、最近は、「民事不介入の原則」を盾にとることは控えて、それが市民の生活や安全を脅かすおそれがある場合には、積極的に乗り出すような方向に転じている。但し、一線の所轄警察署の中では、まだその方向に徹底しているとはいえない面が残っている。

2 民暴事件の被害者救済は人権擁護活動の一環

 このような状況の中で、民事介入暴力の被害者の救済を目指すことは、人権擁護活動の一環としての意味を持っている。

 人権侵害は、国家権力対市民という伝統的な形式のみでなく、それ以外にも、暴力団などのブラック勢力、オカルト教団、狂信的宗教団体などによるものも含まれる。このような人権侵害に対して、被害者を救済することは、弁護士の使命の重要な側面である。

3 暴力団対策法の制定とその後の状況

 暴力団対策法が、1992年に施行され、さらに、その後改正がなされ、市民の間の暴力団に対する意識は格段に変わってきている。

 他方、暴力団側は、暴力団の名刺を使うことを抑制するなど、指定暴力団の暴力的要求行為とされることを警戒している。そして、標榜右翼、標榜同和などとの垣根がなくなり、相互乗り入れ、使い分けなどのボーダーレス化が顕著にみられる。

4 企業対象暴力・行政対象暴力

 企業は、その豊富な資金力などで、一般市民とは比較にならない。それだけに、ここが標的とされることが多い。市民が一生懸命にみかじめ料などを払わずに頑張っているのに、企業が総会屋などに利益供与をしていたのでは、結局暴力団などの闇の勢力の資金が潤ってしまう。

 その意味で、企業の暴力団などに対する弱い姿勢は、強く批判されなければならない。われわれが企業対象暴力ととりくむのは、企業の用心棒となることではなく、暴力団などへの資金源の提供を断つために必要だからである。

 行政対象暴力についても、国民や住民の税金・補助金などが、闇の勢力などとの癒着を通じて、下請け介入、利権の独占などによって、彼らに流れていってしまうことを防ぐ必要がある。

5 われわれの努力と日本の民主主義

 民事介入暴力からの被害者救済のためには、弁護士がそのノーハウを深め、弁護士相互間での連携を強めることが重要である。そのために委員会活動などを重視する必要がある。

 また一部に、民事介入暴力を助長し、あるいは救済を妨害するような不当関与弁護士がみられることは遺憾である。これらについては、弁護士会の規則、準則に基づいて的確な対処をすることが必要と考えられる。

 われわれは、弁護士の使命として、民事介入暴力とたたかうものであるが、このことは、より基本的には、日本に真の民主主義の土壌をきずくことに連なるものである。

 

 

17 戦後補償問題 

 

1 問題の発生と争点

 1990年代から、アジア太平洋戦争の被害者らが日本国に対し個人賠償を求める運動や訴訟が数多く提起されてきている。被害者は、朝鮮、中国の人々のほか、東南アジアやオランダの人々、さらにはイギリスやアメリカの戦争捕虜の人々にも及ぶ。

戦後補償問題は、国際法上の問題としては、サンフランシスコ講和条約や2国間平和条約等で被害者個人の賠償請求を放棄できるかという形で立ち現われてきており、日本政府は国家と国家の賠償問題はサンフランシスコ条約や2国間条約等で解決済みと主張している。

他方で日本政府は、オランダとの関係では個人請求権は条約では放棄できないことを認めた対応をしており、過去の国会答弁や訴訟の場においても、国家間の平和条約では国家の外交保護権(個人賠償請求を国家が代わって交渉する権利)を放棄したのみであり、個人請求権は消滅していないなどとも主張してきた。このような日本政府の不誠実な対応に対する不満もあって戦争賠償問題が大きくローズアップされてきた。

 その内容は、従軍慰安婦、強制連行強制労働問題を始め、戦時中日本国民として従軍しながら戦後一切の補償から切り捨てられたとされる軍人恩給や遺族年金等の給付問題や、原爆被害補償、さらには細菌戦被害や731部隊の人体実験被害、南京事件や平頂山事件のような住民虐殺被害など多岐にわたる。中には遺棄爆弾や遺棄毒ガス弾問題のように現在も被害が発生しているものまである。

2 今後の取り組み

 こうした問題に救済の道を閉ざすべきではない。この問題は、日本国の戦後処理の不十分さを補い、被害者らの人権を回復するとともに、特にアジアの中で日本国が真の友好と平和を築く礎となるからである。教科書問題や靖国参拝問題、周辺事態法や有事法制の制定の動きなど、アジアの日本国に対する懸念の声は収まるどころかむしろ広まっている。日本国が日本国憲法の理念である平和国家として存在し続けるためにも、この問題は積極的に解決しなければならない。国際的にも、国際労働機構(ILO)の委員会が、ここ数年従軍慰安婦問題と強制連行強制労働問題の誠実な解決を日本政府に対し勧告し続けており、2003年6月には総会でも取り上げられることになっている。

 これまでの日本国の取り組みとしては、いくつかの前進は見られる。在日韓国人、朝鮮人の旧軍人への給付金や台湾軍属への支給金などの法律の制定、従軍慰安婦を対象とした「アジア平和基金」設立などである。しかし、全体からみれば一部であり、またアジア平和基金のように日本国家の補償を否定して民間の財源に頼ったため、かえって被害者らの中に不信と混乱を招き、事業として不十分に終わったものもある。 

 日本国内の訴訟においては、いまだ日本国家の責任は認められていないが、被害の詳細な事実認定を行い、立法措置を促す判決も多数勝ち取られてきている。また、強制連行強制労働被害の問題では、加害企業との和解が韓国、中国の被害者との間で積み重ねられてきており、一部ではあるが企業の法的責任を認める判決も出始めている。

 戦後補償問題は、紆余曲折を経ながらも解決に向けて前進してきている。弁護士会は、日本国が解決に向けて強いイニシアチィブを発揮するよう働きかけなければならない。

 

 


 

第4章 弁護士会の会務運営改善のために

 

 

1 会内合意形成

 

1 合意形成の現状

実りある合意を形成するためには、まず何よりも正しい情報が迅速に会員に伝わる必要がある。印刷物による情報の伝達から、メールマガジン、ホームページなど、伝達方法は格段に進歩している。一方通行から双方向に進みつつあり、近い将来には電子機器を利用した合意形成が現実になるかもしれない。

ところで、司法改革をめぐる弁護士会内の激しい意見対立は、合意形成のあり方にまで発展し、日弁連執行部に対する批判は、総会議案の形成過程はもとより、議事運営のあり方や委任状にまで及んでいる。しかし、これを合意形成の仕組みに対する深刻な問題提起と捉える必要はない。対立に煽られて委任状の争奪戦が繰り広げられ、議長席に詰め寄る現象もみられるが、これらは対立の解消とともに自然消滅すると思われる。一部に病理現象はあるものの、喫緊の課題に関する当面の合意形成のあり方としては、現行の手段・方法・機会をいっそう充実させて対処する以外にはない。会務の執行にあたる者は、会員の関心を高める努力を継続すべきである。

2 合意形成の問題点

合意形成に全く問題がないかと言えばそうではない。将来とも現行のままでよいとは思わない。ファックスによる速報をはじめとして、大量の情報が会員に送られているが、残念ながらそれが合意形成に十分役立っているとは思えない。東弁規模の単位会になると、言葉を交わしながら日常的に意見交換することがないため、大量の情報を単に活字の羅列としか受け止められない会員も多いからである。これを、関心を持たない一般会員が悪いとか、情報を発信する執行部に責任があるとして片付けるべきではない。もちろんできる限り多くの情報を提供し、それを共有化する機会を保障することは、それ自体に価値があるが、現状では、いかに的確・迅速に提供され、意見表明の機会が与えられたとしても、情報の多さゆえに受け手の限界を超えていると思われる。情報の選択で解決できるレベルではなく、情報量が大量すぎて一般会員には消化できない実態と、そこから生じる多数の無関心層を巻き込んだ合意形成の実情を問題とする必要もある。

3 新たな合意形成方法の検討

この現実を無視して、会員の問題意識が希薄であるとか、理解していないと嘆いても事態は変わらない。はっきり言えば、全会員を等しく対象とした合意形成には無理があると認めざるをえない。大量の情報を一般会員の関心に合わせて整理し、これを伝え、理解と共感を得て、一定の合意を形成する役割は、一部の人に委ねざるをえないのではないか。

的確でスピードのある合意形成のためには、代議制の導入も検討する余地があろう。代議制はそれ自体が悪なのではなく、情実や利益誘導による民主主義の形骸化、腐敗を如何に防止するかが問われるのであり、民主化の遅れた組織では安易に導入すべきではないが、現在の弁護士会であれば、不断に警戒すれば、合意形成の方法として実効性ある制度とする可能性はある。重要案件をすべて総会に委ねる現行の方法は、会員の飛躍的増加とともに近い将来において機能不全に陥る恐れがある。

 

 

2 会務参加の促進

 

1 自主性に期待することの限界

 会務活動は自発的な参加が原則であるが、現状を直視すれば、自主性に期待するだけでは参加を促進できない。プログラム規定に過ぎない公益活動の義務化を、実効性のあるものに具体化する取組みは、早期に実現しなければならない。会務活動に精励する者に褒賞を出すことも含め、外から刺激を与え、やる気を起こさせることもまた必要である。この点で、現行の精皆勤賞はまったく物足りない。時代の変化に応じ、その要請に応えるためにはドライに考える必要もある。要するに、意欲のある人、やれる条件のある人の会務から、渋々であれ皆が力を出す会務へ脱却を図るべきであろう。

2 開催時間の変更

参加を妨げている最大の要因が日常業務への影響であることは事実だから、この障害を取り除くためには、委員会等の会務活動を午後5時ないし6時から、あるいは午前11時から1時までの時間帯とするとか、土曜日に集中的に開催するなどして、平日の業務時間を会務から解放してやる必要がある。これに対応する職員の勤務体制も、フレックス制の活用や、職員不在でも活動できる委員会態勢を作ることによって解決すべきである。これは、東弁であれば副会長の負担の軽減にもつながる。

3 メール等の活用

定例会も月1回の開催にこだわらず、メール等による意見交換の場もいっそう広めるべきである。特に若手は、勤務時間に拘束される度合いが高いから、この点は十分に配慮しなければならない。併せて、雇用する弁護士の意識調査を行い、必要な指導を行なう必要もあろう。

4 委員会の流動化

 委員会活動全体をみると、委員の偏りは顕著である。特定の委員会に特定の人たちが長く委員として在籍する。興味の湧く、面白い、ためになる委員会と、そうではない委員会とがある。固定された感があるこれら委員の流動化は必要であろう。

また、委員会活動のなかには、必ずしも弁護士会の活動と位置付けず、外部に出しても一人歩きできるものもあろう。このような外部化も委員会活動に刺激を与えるものとして検討の余地がある。肥大化した委員会活動を整理する効果もある。

 

 

3 公益活動の義務化

 

1 公益活動参加の現状と課題

東弁は、国選弁護事件や当番弁護担当の登録会員が少ないばかりか、そのような刑事事件に取り組む実働弁護士はさらに限定され、ごく一部の会員によって支えられているのが実状である。近時の刑事事件増加の傾向に対応できる状況ではない。また、委員会活動等の会務に参加する会員は一部に限定され、総会の参加者も定足数を満たすのがやっとの状況である。

弁護士活動の公益性に鑑み、これら公益活動は全員参加が原則であろう。

アメリカや韓国では、弁護士の公益活動は義務化されている。特に韓国では2000年から弁護士法改正により、弁護士1人当たり最低年間30ないし20時間(単位会で選択できる)の公益活動を義務付け、所定時間に満たない場合は、1時間あたり2ないし3万ウオン(約2ないし3千円)(単位会で選択できる)の寄付金を弁護士会に支払う制度を実施している。その結果、弁護士会の委員会活動の出席率はせいぜい50%だったのが、義務化でほぼ100%になり、活動が活発になったとのことである。弁護士会が自ら公益活動の義務化を宣言することは、弁護士会が果たしてきた人権擁護と社会正義実現の使命をより強化することであり、国民の信頼も高まるはずである。

2 公益活動のポイント制の実施を

東弁には「会員の公益活動等に関する会規」があるものの、参加を要請するレベルに止まり、1998年の施行前後で活動への参加状況に見るべき変化はない。これに実効性を持たせるには、韓国のようにペナルティを伴う義務的制度にすべきである。たとえば、一定の公益活動にポイントをつけ、年間指定ポイントを満たさない場合は1ポイントにつき一定金額を会に納付するような制度である。現在総務委員会等で検討が進んでいるが、弁護士人口の増加を目前にした今日、早急に公益活動のポイント制を伴う義務化を制度化し実施すべきである。なお、制度化にあたっては、弁護士の公益活動への主体的な参加を促進するよう、対象となる公益活動の範囲、ポイント数、納付金の額、一定の場合の免除等、実情にあったきめ細かい検討が必要である。

このような制度は、できれば日弁連全体で、少なくとも東京三会で足並みをそろえて実施すべきである。

 

 

4 会務運営の透明化

 

1 透明化は時代の要請

 国民の支持と理解を得るためにも、弁護士会の運営を国民に開かれた、透明なものにする必要がある。これまで会務運営が不透明だとして、外部から指弾されることはなかったと確信するが、そうだからといって、透明化の要求に対し、権力の介入を招くとの一事で否定することも時代の要請に合致しない。この国の民主主義の発展を信じ、孤高を守る態度から脱却すべき時である。

2 透明化の内容・方法

透明化は、弁護士会が積極的に情報を公開することによって実現すべきである。その方法には、各種パンフレットや公報等の配布、ホームページの公開、総会等の傍聴、資料の閲覧謄写の許可などがある。ただし、会務情報の中には、会員等のプライバシーに関するものもあれば、悪法阻止活動や人権擁護活動など、公権力や特定の社会勢力に対峙する活動に関する情報もあり、これら情報がすべて外部に筒抜けになることは好ましくない。情報公開はそれ自体は民主主義の基礎をなすものであるから、一層広げる必要があるが、他方で悪用される弊害も念頭に置かなくてはならない。その点を考慮しつつ、弁護士会の情報公開制度を確立する必要がある。

さらに、個々の市民からの弁護士情報開示請求にどこまで応えるかという問題がある。特に、弁護士にすでに依頼し、又は依頼しようとしている市民から弁護士の懲戒処分歴の開示請求がなされることが多い。これは会員のプライバシー保護と市民の利益擁護のいずれを優先すべきかという問題につながることであるが、非弁提携弁護士問題が多発している現状から見れば、市民の開示請求にできるかぎり応える方向での具体化を早急に検討すべきである。

3 弁護士会の運営への第三者参加

会務運営が公開され、それが外部から一定の批判を受ける対象になることは当然としても、弁護士会の意思形成や会務執行の中枢に第三者を参加させることまで必要であろうか。弁護士会は税金で運営される公団体ではないし、株式会社のように株主の利益を守りつつ社会的責任を果すことを求められる法人でもない。そもそもコーポレートガバナンスの観点から社外取締役、監査役を必要とする性格を有していない。

 弁護士自治に対する国民の支持がある限り、弁護士会の運営を透明化する課題は他から強制されて決めることではなく、自主的にその適否や内容を判断することができるのである。これこそ弁護士に自治が認められたゆえんである。弁護士会の意思形成や会務執行についても外部からの意見を聞く姿勢は常に持たなければならないが、外部に情報を提供し正当な批判を受けることと、内部に第三者を加え、その判断によって活動が影響を受けることとは、決定的にレベルの違う問題であり、ここまで会務の透明化の一環と考えるべきではない。したがって、弁護士以外の者が弁護士会の意思決定や執行に加わることは、認められるべきではなかろう。

 

 

 内外人事の民主化・透明化・公平性

 

1 弁護士会民主主義の実現のために

会内民主主義の実現のためには、会内外人事の民主化・透明化・公平性を図ることが不可欠である。

会内人事の民主化の第一は、役員選挙民主化の一層の推進にある。

近年選挙期間が短縮されたことから、選挙期間を通じて会員が候補者の政策・識見・人格を十分に見極めるためには、演説会や公聴会を一層充実させる必要がある。

 たとえ無投票当選になるような場合であっても、公聴会などを単なる儀式に終わらせないように工夫する必要がある。

 各種委員会の正副委員長等の重要人事については、適材適所主義を確立しなければならない。各会派への割当人事や落下傘人事など、旧態依然とした派閥人事が往々にして見られるが、その弊風打破のために不断の努力と自覚が必要である。

2 人事運営の現状と問題点

 弁護士会の役割の拡大に伴い、適正な人事運営が重要な課題である。

 各種人事の多くは公募にしており、希望者を中心に参加人数を確保することは、適正な人事運営を行うための必須の条件である。

ところが、人事案件によっては、参加を希望する会員が極めて少ない場合があり、中でも若手会員の参加希望者が少ない傾向が見受けられる。

 参加希望者の少ないことが、適正な人事運営を阻害する重大な要因となっている。

 参加人数の確保が困難になると、「多重会務者」を生み、彼らに過重な負担を強いることになる。かかる事態は会務運営の根幹を揺るがすものとして看過することができない。

3 幅広い結集のために

常日頃から会員に対して会務運営への積極的参加を呼びかけるだけでなく、会員向けの説明資料を作成し、会員控室に常備し、会員宛てに発送するなど、会員の参加意欲を高める努力も必要である。しかしそれだけでは参加者数の大幅増加は期待できない。東弁は、若手を対象に会務運営に参加することの意義と必要性についての理解を得るため、創意と工夫をこらした活動に取り組むべきである。

4 対外人事の推薦手続の民主化・透明化

 司法だけでなく、行政関係を始めとして各分野に弁護士の活躍の場が広がっている今日、東弁の対外人事推薦手続をきっちりと機能させることは極めて重要になっている。しかし、形式的には東弁の人事推薦手続を利用しながらも、実質的には行政側からの一本釣りというような不透明な人事がまだまだ存在するというのが実情である。

 真に有為な人材を登用し、登用される弁護士を通じて弁護士会の考え方を各界に反映させるためにも、対外人事の推薦手続の民主化・透明化は強力に推進していかなければならない。

 改善策としては、対外人事の推薦手続には、必ず人事委員会の推薦を必要とする方法などが考えられよう。

5 司法研修所教官人事の民主化・透明化を

 司法研修所弁護教官の選任に関しては、衆目が一致して適任と考える候補者が選任されないという事態が決して珍しくない。最高裁当局の差別的人選の結果である。

このような不透明な人選を改善するためには、日弁連が最高裁に対して選任基準の明確化を求めていくことが必要であり、現在の倍数推薦制度の廃止も検討する必要がある。

 

 

6 綱紀・懲戒制度と弁護士不祥事対策

 

1 不祥事対策と綱紀・懲戒制度改革の必要性

 精力的に取り組まれている非弁提携弁護士対策本部の活動や、これを受けた綱紀・懲戒委員会の活動は一定の成果をあげているが、残念ながら現状ではイタチゴッコの観もある。非弁提携弁護士問題の背景には、当該弁護士の経済上の困窮と、それにつけこむ悪質な整理業者が多数存在しているという実態がある。綱紀・懲戒制度をどのように改革しても、この問題を改善することは容易なことではない。そのような実情を踏まえ、焦眉の課題である弁護士不祥事対策をさらに前進させるために、現行の制度をいかに改革すべきかについては、様々な観点から慎重に検討する必要がある。

2 綱紀の粛清は地道に

綱紀の粛正は永遠の課題であると達観し無策であってはいけないが、他方で、綱紀・懲戒制度は弁護士自治の核心であるから、不祥事問題への過剰な反応による制度の改革もまた将来を誤る道につながる。特効薬には強い副作用があることに注意しなければならない。

地味であるが、もっとも効果的で永続的な対策は、会員を会務活動に引き付けることである。これらの活動を通じて弁護士の使命の自覚を促し、綱紀問題に注意を払う雰囲気を会員間に広く醸成することである。この点では、倫理研修の強化、公益活動義務化の徹底をはじめ、強制加入の団体である利点をもっと生かす余地がある。

3 当面の非弁提携弁護士対策

不祥事の続発対策としては、当面のところ問題を起こす可能性がある会員に対する具体的なケアが必要である。問題会員は数パーセントに過ぎないのであるから、更生意欲のない会員に対しては厳しい懲戒処分で臨み、更生可能性のある会員に対しては弁護士会の大きな囲いの中に導きいれる工夫をすべきである。十分な研修の機会を与え、法律相談、扶助事件、小額管財事件、当番弁護士、国選事件などの業務活動を斡旋援助することも必要となろう。

4 援助制度の導入

一度懲戒処分を受けた会員は立ち直りが事実上不可能となり、再び問題を起こす、いわば再犯・累犯が後を断たないのが実情である。これに対しては、会から委嘱された会員が被処分会員の状況を継続的に把握し、立ち直らせるためのプログラム作りをする等、なんらかの援助制度を導入する必要があると思われる。

 

 

7 会員のためのサービス機能の充実

 

1 予算をもっと会員のために使おう

 会員は会費に見合う十分なサービスを受けているだろうか。この点は会費によって成立する組織としてもっとも大事なことである。これを忘れて会財政を膨らませ、会費を値上げしようとしても大方の会員の支持を得ることはできない。これまでの会務運営や会財政は、人権や司法問題をめぐる諸活動を優先させてこざるを得なかった事情から、会費の会員への還元の視点が欠落していたか、弱かったというべきである。研修や業務便覧の有料化はその最たるものであり、運動会の有料チケットも同様である。これでは会員は何のために会費を支払っているのか分からない。直ちに無料化を考えるべきである。

2 役に立つ情報を提供する

東弁の公報はリブラへの衣替えによって親しみ易くなった。これからもあらゆる媒体を使った情報の提供を進める必要がある。そして、何よりも会員に具体的に役に立つものでなければならない。この点、現在のメールマガジンは会員への要請や行事案内が多く、あまり日常業務に役に立っていると言えないのではなかろうか。

3  協同組合、年金基金、健康保険の拡充を

福利厚生の充実は、まず不断に共済給付の増額を追求すべきである。協同組合、年金基金、健康保険などの制度の拡充が求められる。生命・傷害保険、所得補償保険、賠償責任保険などの各種保険の保険料徴収窓口を弁護士会にして、一定の利益を得る試みがあるが、これも拡充していきたい。

また、青壮年時代には懸命に業務に携わりながら老後の蓄えをほとんど残さなかったため晩年を不安な中で生活する弁護士は数多い。弁護士人口が増大する将来に向けて、老後も安心して生活できるような、強制加入の年金制度の創設を検討すべき時期に来ているのではないだろうか。

4 会員を援助する

会員が相談できる窓口の開設が検討されてもよい。市民窓口同様に専用の電話を置くべきであろう。業務上の悩みから、事務所経営など、広く会員が日常的に相談できる援助体制を作ることが必要である。

 

 

8 東弁財政のあり方

 

1 東弁財政の現状

1999年度、東弁は日弁連のひまわり基金に1億円を寄付して、ゼロワン地域の解消に向けて大きく貢献した。しかしこれは、東弁の財政が潤沢であったからできたわけではなく、基本財産会計を取り崩すという苦渋の選択をした結果であった。

今後、予想される大きな支出項目は、第2、第3の公設法律事務所、外部法律相談センターの増設といった司法改革関連事案のみならず、役員・弁護教官への報酬・助成、バージョンアップによるO・A機器費用の増大、人件費の自然増、退職金の引当等、枚挙に暇がない。東弁の一般会計は、毎年、赤字予算を組み、予算の執行の過程で工夫を重ね、収入を増加させる一方、支出を極力抑えて何とか黒字決算に持ち込んでいる。しかし、2001年度の監事報告書によれば、東弁の1996年から2000年までの「次年度繰越剰余金」の伸び率は年々落ち込んでいる。この繰越剰余金は、確実に支出増が見込まれる人件費やバージョンアップによるO・A関係費、あるいは確実に不足が見込まれる職員退職積立金など「隠れ債務」の引当金であって、純然たる余剰金ではない。

2 会費値上げ以外の道はあるか

当面、司法改革関連の予算増額は避けられない。東弁の財務の現状で、会費を値上げすることなく財源を捜すとすれば、基本財産会計を取り崩すか、剰余金を当てるか、いずれかしかない。しかし基本財産会計については、その目的が副次的に一般会計の赤字補填等にあるとはいえ(基本財産規則8条、同付則3)、会館建て替えの準備金という主たる目的を無視して、司法改革関連に使用することが許されるか、という疑問があり、剰余金は「隠れ債務」の備えであるため、取り崩すことは躊躇される。

東弁は、1994年以降、会費の値上げをすることなく、財政を維持してきた。会費外収入の増加が大きく寄与してきたからである。しかし、今後、会費外収入の大幅増大を見込むことはむずかしい。大幅に増加しようとすると、会員が東弁から受ける各種サービスにも、受益者負担を名目に対価を徴収することになる。会費外収入の増加が見込めなければ、会費値上げを図るほかに道はない。

3 会館特別会計で財源確保を

現在、会館特別会計の次年度繰越金は約40億円で、その内訳は修繕積立金会計が33億円、残りの約7億円が維持管理会計である。会館特別会計には、世代間の公平な負担として新入会員が納める1人当たり130万円「新会館臨時会費」が繰り入れられている。維持管理会計には、1998年4月1日以降、一般会計の中から原則として会員1人当たり月額5,500円が繰り入れられることになり、ここから新会館のランニングコストが支払われ、毎年1億円以上の繰越剰余金を生み出している。

これらを前提に、会費値上げを避けて財源を確保するためには、次の2点を実行すべきである。

(1) 1人当たり月額5,500円の一般会計から維持管理会計への繰入金を約2,000円減額する。これにより一般会計に年間約1億円を確保できる。このようにしても単年度の新会館の維持管理に当面、影響はない。

(2) 新会館の修繕積立金約33億円を、新会館のみならず新たな会館外法律相談センターや公設法律事務所の設置費用に使用できるよう、会館特別会計規則を改正する。

                            

 

 

9 多摩支部問題

 

1 多摩支部の設立

 多摩支部問題は、東京における極めて重要な地域司法問題である。

 多摩地域の市民に十分な司法サービスを合言葉に10年程の支部設立運動の末、東京三弁護士会多摩支部が設立されたのは1998年4月であった。

  会員数は2002年3月末現在で東弁311名、一弁182名、二弁137名、合計630名となっている。

 多摩支部会館の土地建物は弁護士会の支部会館である以上、本来は東京三弁護士会が土地を購入して建設すべきものであったが、残念なことに、本会の取り組みの遅れなどがあって、当初は地元の弁護士有志が設立した竃@曹ひまわり会館が所有、弁護士会が賃借するという形をとらざるをえなかった。しかし、2002年5月末に東京三弁護士会がこれを購入し、ようやく本来の形になった。

2 多摩支部の活動の概要と課題

1) 委員会活動の拡充の必要性と支部規則の改正

 委員会は、法律相談委員会、刑事弁護委員会、広報委員会、総務委員会、研修委員会、財務委員会であったが、支部活動が活発化し、高齢者・障害者問題部会や少年法部会、女性部会ができた。

 従来、支部規則で委員会が6委員会に限定されていたため、委員会を増やせないで活動に困難をきたしていたが、2002年秋に東弁の支部規則の改正が行われ、必要な委員会を設立することができることとなった。これは多摩支部員の活動の成果といってよい。

2) 法律相談活動の充実化

   法律相談の希望者は多いが、既に弁護士会館の相談室が手狭で市民の希望に応えられず、予約がなかなか入らない状況にある。会館の増築が迫られているのである。

3) 国選弁護人選任システムの改善

 多摩支部は本会に先駆けて国選弁護選任システムの改善に取り組み、2002年10月から国選弁護人選任システムを改正し、第1回公判期日の半年から1年分の予定期日を担当弁護士に予め割り振る方式に改めた。これは公平な国選弁護の配分と国選弁護人活動に対する弁護士の責任を強化したものである。

3 多摩地域司法計画の活動

1) 東京地裁八王子支部の本庁化問題

 多摩支部は東京地裁八王子支部の本庁化を中心とする多摩地域の司法計画を検討する部会を設置し活動している。地裁八王子支部は全国の本庁を含めて民事事件が5番目、刑事事件が7番目、家事事件が4番目と、もはや支部の域を超えた多くの事件数を抱えている。それにもかかわらず支部であるがために裁判官や職員の配置が少なく人員配置や物的設備の面で格差を受けている。全国で最も裁判官一人当たりの事件数の多い裁判所で事件処理が遅れる原因になっている。多摩地域の司法サービスの需要に応えるには支部を本庁化することも正面から検討する時期にきているといってよい。もちろん、裁判官の増員や建物の拡充を図ることは先決である。

2) 弁護士会館の増築

 法律相談活動を充実させ、会員のための会館にするには、手狭な現在の弁護士会館の増築こそ急務である。幸い弁護士会館の隣地が空き地であるため隣地取得ができれば会館はほぼ倍の規模の建物になることが可能である。速やかに隣地を取得して会館を増築することが地域司法計画の重要課題として求められている。

3) 地元自治体との協力関係と地域の司法サービスの充実

 多摩支部設立後、地元自治体への法律相談担当や講師弁護士の派遣は歓迎され、増加する一途である。今後の課題としては、多摩地域への司法サービスを充実させるため、立川市での法律相談センターの設置や弁護士会館での仲裁センターの実施がある。

 

 

10 日弁連の会務運営上の課題

 

1 合意形成のあり方

今次の司法改革においては、多岐にわたる論点が、短期集中的に同時進行で検討され、法案化作業が進められている。日弁連の見解はいずれも、全単位会を結集した司法改革実現本部・弁護士制度改革推進本部や、関係委員会からの人材と叡智を結集したバックアップ会議により、できる限り会員の総意に近い合意形成を行う努力がなされ、理事会で説明し了承を得た後確定されている。

確かに日弁連は、合意形成に必要な情報については速報等を通じて一般会員に迅速に伝える努力をしている。しかし、それだけでは必ずしも十分とはいえない。日常的に大量の情報に接する会員に対し、何が重要な論点なのか、その論点についてどのような考え方から意見が対立するのかなどについて、分かりやすく提示することが必要であり、そのような論点整理の作業が不断に求められている。

単位会は日弁連の関係機関に適材である会員を派遣して合意形成に寄与し、またその会員を通じて論議の内容を単位会へフィードバックする必要がある。日弁連からの情報を一方通行に終わらせないよう、たとえば月1回の「司法改革報告会」や会員集会を定例化するなど、単位会としても一層の工夫が必要であろう。

2 民主的な合意形成の要請と迅速性の要請

重要課題に関しては、全ての会員の意見を反映した合意形成の重要性は言うまでもないが、この民主的な合意形成の要請と、情勢に即応した迅速な判断の要請とが衝突する場面が往々にして生ずる。

例えば、日弁連総会開催の手続きについてみれば、開催日より20日前には議案を添付した招集通知が必要であるが、単位会常議員会などで検討する時間を考慮して、現実には1ヶ月以上前の通知がなされる。しかも、その議案は、1ヶ月に1度開催される日弁連理事会において、理事が単位会の意見を聴する期間を置くために2回の審議の上確定する必要がある。このように、執行部での議案確定から総会開催までに、最低23ヶ月を要する。これでは、迅速性を必要とする課題に即時対応することはできない。

民主的合意形成と迅速性の二つの要請をどのように調和させるかという観点から、総会事項の見直しも含め、「代議制」を検討すべき時に至っているのではないだろうか。

3 目前の課題となった機構改革

制度設計が煮詰まってきた課題については、日弁連は今後具体的に対応していく必要がある。その中には法科大学院関係(教材開発・実務家教員の派遣・第三者評価機関など)、裁判官制度改革関係(恒常的な弁護士任官者の発掘と支援・裁判官の他職経験受入事務所の提供など)、新設される日弁連綱紀審査会への対応、代理権を与えられることになった司法書士・弁理士などの能力担保措置のための研修協力など、人的配置を行い恒常的に対応していかなければならない業務が多い。今後、裁判員や公的弁護について制度設計が具体化すれば、これらへの対応も必要となるなど、弁護士会の新しい社会的使命は格段に増大することになる。従来の委員会形式では対応は困難で、専従弁護士の配置が必要と思われるものも多い。これらの新組織をどのように構築していくか、早急な検討が求められる。

他方で、日弁連も会員数増加の時代に入った。強制加入の団体として、会員への職務上の情報提供や研修制度の充実など、求められるサービスも多様化しており、これに応えることも急務である。

新たな課題を精査しながら、日弁連が社会的に果たすべき役割と会員に対して果たすべき機能を再整理し、従来果たしてきた役割を弱体化させることなく、新しい時代に対応できる組織を今後どのように作っていくか、短期的・中期的・長期的な視点を持ちながら、機構改革の構想に着手する時期である。

 

 

11 関弁連の活動上の課題

 

1 関弁連と日弁連の一層の連携強化

  関弁連の悲願であった日弁連副会長の増員問題は、関弁連からの1名増員が認められた。増員された日弁連副会長が関弁連の常務理事を兼ねることとなったため、日弁連との連携がある程度強化されるという形で一定の前進をみた。このことは評価できるが、日弁連との一層の連携強化を図るには、関弁連理事長が日弁連副会長を兼ねることが必要である。日弁連機構改革委員会の答申では、関弁連から出す日弁連副会長は2名としている。関弁連からもう1人、日弁連副会長を出すという問題をめぐっては、様々な観点から議論を重ねる必要がある。

この問題も含め、日弁連との一層の連携強化を図るための方策について、積極的に検討していかなければならない。

2 関弁連シンポ

 関弁連は、1971年以来、毎年1回関弁連シンポを開催し、その時々の重要なテーマを選んで、国内外の実態調査等をふまえた報告・提言・意見表明を続けてきた。2002年度のテーマは「子供の法教育―21世紀を生きる子供たちのために―」であった。関弁連シンポは、常に高い評価を得てきており、関弁連活動の重要な要素となっている。このシンポをさらに発展させ、関弁連活動の一層の活性化につなげることが必要である。

 従来、シンポは十県会の担当とされ、開催地の弁護士会と関連する委員会が総力をあげて取り組んできたが、東京三会もシンポの開催を担当すべきである。

3 司法改革に向けて関弁連の役割

弁護士任官のための裁判官候補者の推薦は、ブロック会である関弁連がすることになり、2002年6月には「裁判官候補者推薦に関する委員会」が設置された。司法改革を進めるうえで、関弁連の役割も大きく変わろうとしている。

 関弁連は管内単位会にばかり頼ることなく、広い視野をもち、独自に任官適任者を発掘し任官者を支援していくシステムを早急に確立する必要がある。その他にも、司法改革に向けた関弁連の役割を、関弁連独自に構想していく必要がある。

      

 

 

 

 

 

第5章 弁護士のあり方を考える

 

 

1 あるべき弁護士像と弁護士自治

 

1 ゆらいでいる弁護士統合の理念

今日、弁護士の業務内容の拡大・拡散に伴い、弁護士全体を統合する基本理念がゆらいでいる。

 新自由主義と国際競争力の強化をすすめる経済界、そして内閣の下にある総合規制改革会議の描く弁護士像は、「法的知識を対価をとって提供する商人」であり、人権擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の公益性をことさらに否定し、弁護士制度を変質させる動きを強めている。内閣の行政改革司法制度改革推進本部規制改革委員会は、2000年12月、弁護士会の強制加入制を廃止すべしと主張した。内閣の下にある総合規制改革会議は、弁護士法72条の抜本的見直しを主張し、弁護士の数の制限に反対している。この弁護士像によれば、弁護士会の反公害活動や国家機密法などの悪法反対運動は、弁護士法違反であるとの主張につながり、弁護士会が弁護士倫理などを会員に指導することすら否定し、どの様な弁護士が残るのかは市場のユーザーの選択に委ねればよいという論理になる。報酬を弁護士会が定めることも違法な規制と主張し、弁護士の養成に国費を給付することにも反対する。そして最終的には、強制加入団体としての日弁連を解体し、弁護士自治の否定につながる危険性を秘めている。

他方、弁護士会内では、近時、弁護士プロフェッション論が強まっている。この立場では、弁護士像を、医師や聖職者と並んで、高い倫理性と高度の学識に裏付けられた専門職ととらえる。確かにプロフェッション論は、弁護士の拡大した業務を統合するアイデンティティとして有効のようにみえる。しかし、弁護士プロフェッション論だけでは、弁護士が何故に高度の自治権を有するのかを理論づけることはできない。医師や聖職者には、弁護士のような自治権はない。

2 弁護士のアイデンティティの再確認を

 弁護士自治は、弁護士が権力に対抗して人権の擁護をまっとうするための担保であることを、あらためて確認すべきである。

 今日、官僚司法の改革や刑事司法の抜本的改革が容易にすすまない状況があり、規制緩和の下での社会的弱者の人権を憲法に基づいて擁護する必要性が強まっている。それ故、現行の弁護士自治制度の堅持はきわめて重要である。そして、弁護士自治への攻撃が強まっているいまこそ、弁護士の原点は人権擁護と社会正義の実現であり、弁護士はその精神に立脚したプロフェッションであること、そして、そこに全国の弁護士が日弁連に強制加入する基礎があることを、全ての弁護士の共通の認識とする必要がある。これこそが、全ての弁護士のアイデンティティとして再確認されなければならない。

 弁護士は、高度の法的プロフェッションとして、社会のあらゆる場面で法的支援を求める市民の期待に十分に応えることが肝要である。弁護士は、被疑者・被告人などの人権を擁護し、訴訟活動などを通じて依頼者の正当な権利・利益の実現に尽力する責務がある。また同時に、「プロ・ボノ」活動、国民の法的サービスへのアクセスの保障、公務への就任、後継者の養成など、社会に貢献することが求められている。これは、人権擁護と社会正義を実現する活動の一環である。

 そして、これら人権擁護の責務を誠実に履行する弁護士・弁護士会であるからこそ、弁護士の登録、指導・監督、懲戒、報酬は、弁護士・弁護士会の自治に委ねてよいとの国民の同意を得ることができるのである。 

 

 

2 弁護士人口増大のもとでの弁護士活動領域の拡大

 

 審議会意見書は、2010年を目途に司法試験の合格者を3,000人とし、2018年を目途に法曹人口を現在の2万人から5万人にするとしている。

 法曹人口増は、すなわち弁護士人口増といって過言ではなく、15年後には、現在の3倍近い弁護士が存在することになる。

 日弁連をはじめとする弁護士会の努力により、弁護士過疎地域への弁護士の配置が基本的に達成されても、弁護士人口の増加によって多くの弁護士が、東京・大阪や高裁所在地をはじめとする大規模単位会に所属するであろうことは間違いない。

弁護士増によって、「2割司法」といわれる事態が一定程度改善されるものと考えられ、弁護士民事法律扶助制度の拡充や、国費による刑事被疑者弁護制度が導入されることになるであろう。

しかし、弁護士大量増という状況の下においては、弁護士の財政・活動基盤は必ずしも十分ではなく、弁護士が活動領域を量的にも質的にも拡大して、業務基盤を強化しなければならない。

最近10年、20年の歴史をひもといてみても、弁護士は、公害問題、労働・労災問題、医療問題、消費者問題、さらには東南アジアをはじめとする諸外国国民と連帯しての国際的な活動など、さまざまな分野に活動領域を広げ、国民の要求と期待に応えてきた。

法的ニーズが高いとされる企業法務に限らず、弁護士の助力が求められている「未開拓」の分野も少なくなく、先人の経験に学び、こうした分野での先駆的な活動に旺盛に取組むべきであろう。

 

 

3 弁護士法72条と隣接専門職

 

1 法律事務独占の必要性

弁護士法第72条で定める弁護士による法律事務独占は、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現する」使命に基づき、「誠実に職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力」し、「常に深い教養の保持と高い品性の陶やに務め、法令及び法律事務に精通」する弁護士(弁護士法1条、2条)のみに法律事務を行わせることによって、国民の基本的人権・利益を守り、社会正義の実現をめざすために認められたものである。

時代の変化にかかわらず、このような使命感や品性、知識を有する弁護士のみに法律事務をおこなわせるという法の趣旨は堅持すべきである。

法の趣旨からも明らかなように、弁護士による法律事務の独占を維持するためには、弁護士及び弁護士会が弁護士法1条及び2条の規定を遵守するために不断の努力を続けるとともに、国民各層、各地域の国民の要求に応える法的サービスを提供することが不可欠である。

近時、日弁連や各単位会において、当番弁護士制度の確立、弁護士過疎地域への公設事務所の設立、都市型公設事務所の設立等を行い、これまで法的サービスへのアクセスが必ずしも十分ではなかった人々や地域に対する法的サービスの提供に、自覚的に取組みはじめた。

このような活動は一層取り組みを強めなければならない。

2 簡裁の事物管轄拡大の危険性

弁護士会の法的サービスを提供する努力はあるものの、なお現状においては、弁護士の多くが東京や大阪をはじめとする大都市、高裁、地裁本庁所在地に事務所を置いている。それが需給関係によるものであったとしても、弁護士の偏在化は顕著である。

こうした状況下において、司法制度改革推進本部においては、その業務内容からして地域間の偏在が少ない司法書士に、簡裁の民事訴訟手続き並びに調停手続等についての代理権を付与するとともに、簡裁の事物管轄を広げる方向での議論がなされている。

しかし、司法書士が訴額の低い事件、したがって、報酬も低い事件について、代理人としてどれだけ十分な活動ができるかという疑問がある。もしコスト面を重視するならば、本人の意向にかかわらず、「一丁上がり」的に処理される危険性もないわけではない。司法書士に簡裁における訴訟代理権等を付与するのであれば、法的能力だけでなく、依頼者の利益のためには採算性を度外視した活動をすることも含めて、弁護士と同様の厳しい職業倫理を求め、これが担保される制度的な保証の存在を前提とすべきである。

また、膨大な数の消費者金融関連事件が係属している現在の簡裁の状況からみても、いわゆる「駆け込み寺」としての性格からみても、安易に事物管轄を拡大すべきではない。

さらに、法的紛争が生じた場合、有資格者であれ無資格者であれ、誰に依頼するかは本人が自己責任において決定すればそれでよいとする見解がある。すなわち、それによって利益を受けるのも不利益を被るのも本人の選択の結果であるとする。このような見解に代表されるような、法72条の撤廃論あるいは骨抜き論に対しては、警戒を緩めるわけにはいかない。

弁護士は、一人一人の人間にとっては一生の間に稀にしか生じない法的紛争を解決し、その人の利益を擁護する活動を行い、厳しい職業倫理によって社会正義を実現する立場に立って、依頼者の利益を全力で擁護する使命がある。このような法的知識・法的処理能力を有する弁護士に法律事務を独占させる必要性は、いささかも薄れてはいない。

 

 

4 続発する企業不祥事問題と弁護士のあり方

 

最近、雪印(乳業、食品)、日本ハム、東京電力、三井物産などわが国有数の大企業で様々な不祥事が相次ぎ、国民・消費者からの手厳しい指弾がなされ、企業の存立それじたいが危殆に瀕するという事態が生じている。

国民の企業に対する批判の刃は、犯罪行為たる「不祥事」を組織ぐるみで行ったということだけではなく、その不祥事が発覚しても、真相を究明しようとせず、あるいは、真相が明らかになってもそれを何とか隠蔽しようとする体質に対しても向けられている。

発覚した不祥事は氷山の一角とみるべきである。社内における労働諸法規違反、対消費者関係における品質や賞味期限等の虚偽表示などを「会社」という組織の中で平然と行い、むしろ、犯罪行為を行うことが企業に対する忠誠心の証であるかのごとく評価するわが国の企業風土は、速やかに改められなければならない。

 企業の顧問や、企業に籍を置き勤務する弁護士、あるいは社外取締役や社外監査役などに就任した弁護士は、企業にコンプライアンス、コーポレート・ガバナンスを徹底させることが求められる。もちろん、コンプライアンスが確立されるかどうかは、企業がいわゆる「不芳情報」も含めた情報をこれら弁護士に開示するかどうかにかかっているが、企業に関係する弁護士は、企業に対して全情報を開示するように働きかけることが必要である。

企業に関与する弁護士は、企業から報酬を得ることからくる「危険性」のあることも、十分自覚しなければならない。

 企業内弁護士となることによって、職務専念義務や過度の忠実義務を課せられ、弁護士としての独立性の保持が喪失されるならば、コンプライアンスではなく、違法行為を助長させる結果にもなりかねない。顧問や社外取締役・監査役の職務の実態とかけ離れた多額の報酬を得ることによって、違法行為に加担するような結果を招くことは絶対に避けなければならない。

弁護士は職を賭けてでも企業の違法行為・不正行為と闘わなければならない。

 

 

5 ゲートキーパー立法問題

 

1 ゲートキーパー立法の危険性

ゲートキーパー立法とは、弁護士に対して、自分の依頼者の中に「マネーロンダリング」を行っている者がいないかと、常に依頼者を監視し、疑わしい依頼者については、その情報を監督官庁に報告させようという法規制のことである。

マネーロンダリングに対する規制は、我が国では「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」によって、既に実施されている。犯罪収益に由来する財産の収受等は、この法律によって規制され、その対象はほとんどの主要犯罪(200程度の罪名)に拡大されている。ゲートキーパー立法は、マネーロンダリング対策を強化するために弁護士に対しても、「その疑い」のレベルでの通報を義務づけようとするものである。

この報告義務制度が導入されれば、依頼者のために行動するはずの弁護士が、依頼者の行動を、当局に告げ口することを強いられることになる。弁護士が秘密を守ってくれるという市民の信頼の根底にある守秘義務が、危機にさらされる。

2 各国のゲートキーパー立法をめぐる動き

現在までに、弁護士に依頼者の通報義務を課して、守秘義務を排除するゲートキーパー立法を行ったのは、イギリス、カナダ、ドイツ、オランダなどに限定されている。しかし、FATF(OECD加盟国で構成する国際機関。「金融活動作業部会」の訳)は40の勧告の改訂という形で弁護士に対し、一定の場合には,「疑わしい取引に関する報告義務」を課そうとしているし,イギリスでは、依頼者のマネーロンダリングが疑われる活動について、金融監督機関への報告義務を怠ることは、過失による場合を含めて懲役5年以下の刑とされており,さらに、弁護士が報告の事実を依頼者に開示することも犯罪とされ、同じく5年以下の懲役とされているという憂慮される事態が生じている。

EU諸国では、EU改正指令に基き、通報義務を定めた法令の制定がはじまっている。しかし、この制度に反対する活動を活発に展開してきたヨーロッパ弁護士会(CCBE)の会長フィッシュ氏は、この制度は「弁護士の職業的秘密の原則の変更を意図するものであり、重大な誤りである」と指摘し、「どんなに時間がかかってもこの制度の廃止のために闘い続ける」と決意を語っている。また、カナダではすべての州で、弁護士会の提起した憲法訴訟により、報告義務制度の実施は暫定的に停止されている。2002年10月8日には、パリでFATFの会合が開催され,民間団体の意見の聴取が行われた。日弁連は、代表団を派遣し、世界の弁護士会と連携して報告義務の制度化に反対する声を上げた。FATFの勧告は来春にはまとめられる予定であるが,世界の弁護士会,弁護士の連携を一層強化する必要がある。

3 弁護士の独立性を守るために

いま、弁護士が正当な依頼者の利益を守ることができるかどうかの正念場を迎えている。まず会内のコンセンサスを深め、その力でこの問題の持つ重要性を依頼者=市民に向けて、訴えていく活動が必要である。世界中の弁護士との固い絆を武器として、多くの会員が取り組むことが大切である。弁護士制度の根本を揺るがす問題に取り組まねば,司法改革の前提が脅かされることになろう。

以下,若干の行動提起をする。

(1) 日弁連は,各単位会に「マネーロンダリング対策とゲートキーパー問題」に関する研修会等を緊急に行うよう提起し,現在20近くの単位会で全国キャラバンが展開されている。兵庫県弁護士会では会長声明を出すなどの取組みもしている。東弁では,会派単位での学習会などが開かれているが,会内の様々なレベルでの研修会や市民向けシンポジウムなどが開催されるよう大きな力を割かなければならない。会内の組織的受皿作りも検討すると共に、倫理委員会などを中心に、マネーロンダリング対策と弁護士倫理につき早急に研究を開始する必要がある。

(2) 東弁としては,隣接業種(司法書士,税理士など)との情報交換,連携も図る必要がある。

(3) 法律家の養成プロセスで「マネーロンダリング対策と弁護士の関わり」について学べるよう,働きかける必要がある。民事・刑事弁護教官にも働きかける必要がある。

 

 

6 弁護士報酬問題

 

司法制度改革推進本部法曹制度検討会は、「報酬の報酬に関する標準を示す規定」を会則に定めなければならない旨規定している弁護士法33条2項8号の削除を決めた。そして、内閣ではその方針を閣議決定し、2003年通常国会において、その旨の法改正を行う予定としている。

ところで、公正取引委員会は、弁護士会も含めた資格者団体について、会則に報酬に関する基準を記載することが法定されている場合、その資格者団体が定める報酬額が個々の資格者が報酬額を定める際の基準として用いられる限りは独禁法違反にならないが、会則にそのようなことが法定されていない場合、標準額、目標額等報酬について目安となるような基準を設定することは独禁法違反になるとの見解をとっている。

この見解を前提とすると、現行の日弁連報酬等基準は法改正後においては、独禁法違反となってしまう恐れがある。

だが、このような見解は、標準額、目標額等報酬について目安となるような基準設定の持つ重要な意義を見落としている。その1つ目は、弁護士がプロフェッションとして、競争原理よりも社会の信頼を得てよく使命を果たすために必要であるとの点である。その2つ目は、弁護士報酬の目安があることによって、市民の利用しやすい司法の実現に資するとの点である。その3つ目は、弁護士の不相当な報酬請求防止の制度的機能があるとの点である。しかし、かねてより弁護士報酬の分かりにくさが指摘されてきたことも事実である。

日弁連弁護士制度改革推進本部では、このような事態を目の当たりにして、新たな報酬額の目安を設けるべく、公正取引委員会と協議を始め、全会員に対する報酬アンケートを実施するなどしている。ちなみに、上記検討会は、報酬額の目安の決定については弁護士会と公取委の協議に委ねるとの姿勢をとっている。 

さらに、現在は報酬の透明化・合理化に関する規則の整備を進めている。

日弁連弁護士制度改革推進本部の進めようとしている方向は理解し得るものであるが、その際弁護士報酬の目安の持つ重要な意義を失わせることにならないよう最大限の努力を傾けるべきである。

 

以上




←テスト用のエクセルファイルです。右クリックをして「対象を
 ファイルに保存」を選ぶとパソコンにダウンロードされます。