2004年度期成会基本政策


目 次

1面 市民に開かれた司法制度の実現を

2面 信頼される司法にするために

3面 市民の権利保障をめざして

4面 弁護士自治の充実・強化を信頼される司法にするために公的弁護制度の充実を

弁護士報酬を透明に

弁護士任官と公設事務所の充実

市民の権利保障をめざして

憲法・平和問題への取り組みを

監獄法の抜本的改正を

男女平等・均等待遇実現を

外国人の人権保障を

戦後補償問題の取り組みを

消費者問題に機敏な対応を

八王子支部の建替・移転問題

あるべき弁護士像と弁護士自治

会員サービスの充実を

日弁連活動の新たな展開のために



市民に開かれた司法制度の実現を

はじめに

政府は、憲法を無視して、戦争状態が継続し泥沼化の様相を呈しているイラクへの自衛隊の派遣を強行しようとしている。また、リストラ、倒産、失業、自殺、ヤミ金、増加する犯罪など、社会的弱者の人権侵害は深刻化している。社会の現実は、憲法の理念を踏みにじり、裏切る方向に進んでいるかに見える。

 このような状況のもとで、平和主義・国民主権主義・基本的人権尊重を基本原理とする憲法を光り輝かせ、社会のすみずみまでこれを行きわたらせて、社会的弱者の人権を擁護するために、今ほど、私たち弁護士が全力をあげて取り組むことが求められているときはない。

 憲法を守り、人権を保障することは、まさに司法の役割である。今次の司法改革は、さまざまな勢力のせめぎ合いが展開するなかで、立法化作業が急ピッチで進んでいる。私たちは、日弁連の追求する、市民による市民のための司法の実現をめざして、最大限の努力をしなければならない。

 本年一一月末に司法制度改革推進本部の設置期限が終了するのを控え、具体的な制度設計は現通常国会での立法に委ねられる。司法改革はいよいよ後半戦における正念場を迎える。国会への働きかけがきわめて重要である。

 弁護士の大幅な増員が開始された。社会のあらゆる分野の法的ニーズを掘り起こし、これに応えるとともに、市民の弁護士に対する信頼をより強固にする活動が必要である。そのためには、弁護士の意識改革、弁護士制度改革、弁護士会体制の強化・確立に向け、不断の努力が不可欠である。

 とりわけ、弁護士自治の堅持と充実・強化は最大の課題である。弁護士のアイデンティティの確保と弁護士会への会員の結集を図り、弁護士自治の弱化・剥奪を狙う動きには毅然と対応し、市民の信頼と世論の支持をさらに広げていかなければならない。

 弁護士会の活動の基礎となる会員の合意形成を図り、そして、実践的活動を十二分に展開すること、それが、今、弁護士会に強く求められている。私たち弁護士は、英知を結集し、力を合わせて、基本的人権擁護と社会正義実現のために、前進していこうではないか。

 

東京弁護士会期成会 私たちの政策

市民が使いやすい公正・透明な司法を

 司法制度改革はまさに大詰めを迎えている。私たちは多岐にわたるテーマについて、相互の関連にも注意しながら,短期間に市民とともに精力的な活動を続けてきた。すでに立法化されたものもあり、残されたテーマについても通常国会への提出に向けて法案作りに入っている。私たちが追求してきた、市民が使いやすい公正で透明な司法、そして市民の権利が守られる司法をどこまで実現できたのか、この間の活動を振り返り,あわせて今後の課題を提起する。

 まず何よりも、審議会意見書の後退を許さず、不十分な点を補うとの立場で、各テーマについて具体的な提案・対案を示して、検討会の場のみならず推進本部や国会議員への働きかけを精力的に行ってきた。この提案・対案の作成は、日弁連の対策本部、関係委員会、各単位会等での協議を経て、理事会での承認を得る手続きを踏んでなされた。また、検討会等への働きかけにおいては、市民に広く訴えて、ともに行動することを追求し、たとえば、裁判員制度では各地での模擬法廷開催やビデオの上映運動、弁護士費用の敗訴者負担では一〇〇万人を超えた署名運動や反対のパレード等を実行した。その結果、課題は残したが、一定の成果をあげることができた。

 しかし、多くのテーマが、短期間のうちに並行して進められるという、これまで経験したことのない進行状況のため、日弁連主導となり、東弁での議論が後追いになったことは教訓とすべきである。

 すでに制度化されたテーマについては、その制度が運用・実践において本来の目的に沿うものになるように、引き続き注視し、適切に対応すべきである。それなしでは、せっかくの改革も実効性のないものとなってしまうおそれがある。

人権を保障する刑事法制を

 

刑事法制と人権

 一九九〇年代以降、さまざまな刑事関連立法がなされたが、総じて言えば、社会と生活の安全の確保を名目とした国家による国民監視の様相が強い。

 その特徴は、犯罪の事前的・予防的規制の強化による令状主義の形骸化の危惧、被害者感情の保護や将来的な危険予防などのための重罰化・厳罰化、国際協調を理由とする犯罪対策の立法化による日本の刑事法制度との齟齬・抵触などである。

 人権保障機能を確保する視点から、現行刑事法の運用及び新規立法に対する監視と批判が不可欠である。

 刑事裁判の改革

 刑事裁判の充実・迅速化には次の改革をする必要がある。

 第一回公判期日前の新たな準備手続に関しては、検察官手持ち証拠の全面開示と接見交通権を確保したうえで、十分な準備期間を置いて行い、そこでの争点整理は被告人・弁護人にその後の主張・立証制限を課すものであってはならない。防御権・弁護権の行使は、法廷の場に限定されず多様であるから、開示された証拠の使用方法を狭い「審理の準備」に限定すべきではなく、目的外使用に制裁規定を設けるべきではない。

 連日的開廷の実施には保釈の原則化が重要である。

 訴訟指揮の実効性確保としてあげられている制裁規定等の新設は、防御権・弁護権を侵害する可能性があり反対である。

 

裁判官制度改革の確実な履行を

 下級裁判所裁判官の指名を検討する「裁判官指名諮問委員会」の設置は、最高裁事務総局の密室の中で行われていた裁判官の任命手続を、市民の声を反映できるものに変える画期的な制度である。弁護士委員が、中央の委員会には二名、高裁所在地の八つの地域委員会にも参加している。そこでの審議を、実質的なものにするためには、最高裁からの正確な資料の提出,加えて会員からの適切な資料(情報)提供が不可欠である。本年度は初年度のため会員からの情報が少なかった。この制度の、裁判官の適・不適を私たちが考えるという意義を広く周知して、日常的に取り組み,多数の情報が提供されるように工夫すべきである。

 裁判官の人事評価

 外部評価を否定した最高裁の研究会報告から、外部評価の導入・評価方法の透明化・本人への開示等について前進したものの、なお、評価権者が所長・長官であるなど不十分さは否めず、その運用を誤れば却って裁判官の独立を脅かすことになるとの指摘もある。しかし、特に外部評価の反映に関して、あるべき裁判官像を想定しながら、具体的な事例を提供するなど、外部評価の適切な活用を期待したい。

 裁判所運営に市民の声を

 裁判所改革として地裁委員会が新設され、家裁委員会が改組された。一回目が開かれているが、意見を聞く立場の裁判所が,委員長に所長をあてるなどの問題点もある。充実した委員会とするためには、利用しやすい裁判所にするための意見と提案を積極的に出すことである。問題がどこにあり、改善には何が必要かについて、法曹以外の委員に対して、弁護士会として、素材の提供や意見交換の場を設けるべきである。

 判事補の弁護士経験導入

 「裁判官の身分を離れる」ことが裁判所事務官となることに歪曲されたことは、問題であり不満と言わざるを得ない。弁護士以外の他職経験は、裁判官の身分のままで行われることになっており、弁護士経験希望者を多数にするには、年金、退職金、官舎の利用等で不利益が生じない制度にする必要があるため、公務員の身分を離れるわけにはいかないというのがその理由である。検察官の弁護士経験についても、法務事務官となることで、同様の問題がある。

 不利益が生じない制度にするとしても、裁判所事務官・法務事務官の身分を保有することで活動が規制され、自立した弁護士業務の遂行に制約を受けるようなことがあってはならない。

 しかしながら、弁護士経験が実施されることの意義は大きく、最高裁と法務省にこのような制約を与えないことを求めつつ、弁護士会としても受け入れ事務所に任せきるのではなく、積極的に協力して充実した内容の経験ができるようしなければならない。

 裁判官・検察官の増員

 推進本部で未だ増員目標と増員計画がたてられていないことは大きな問題である。これまで、日弁連が指摘していた理由に加え、裁判迅速化法が成立した今、裁判官・検察官及び職員の増員は急務である。日弁連は、一〇年計画で裁判官を二三〇〇名、検察官を一二〇〇名増員することを求める方針を決定した。推進本部、政府等へ財政措置を含めた働きかけを強化する必要がある。

 

市民の権利を守る訴訟手続に

 行政訴訟改革

 違法な行政による国民の権利侵害に対する,司法による権利救済が適切になされることは民主国家の基本である。しかし、我が国の行政訴訟は、機能不全に近い状態といわれてきた。行政検討会での議論も、この現状を抜本的に改革するものとはいえない。原告適格の拡大、義務付け訴訟の法定、差止訴訟の法定、被告適格の明確化、抗告訴訟の管轄の拡大、出訴期間の延長等,一定の前進はみられるものの、厳格な要件やあいまいさも残っている。団体訴訟の導入、行政立法・行政計画・一般処分への取消訴訟の拡大、証拠の偏在の解消策、提訴手数料の見直し等は先送りされた。早期の改革を求めて国会に働きかける必要がある。

 労働訴訟改革

 労働参審制が実現できなかったことは残念であるが、それに替わるものとして労働審判制度が実現する見込みである。個別労使紛争で、裁判官と労・使の審判員が、三回の調停が不調に終わった場合には、証拠に基づいて合議により権利・義務関係を踏まえた解決案を提示し、不服のときは申立時に提訴を擬制する制度である。

 他方で、労働訴訟固有の訴訟手続については、実務での運用改善にとどめられ、また、労働委員会の救済命令に対する司法審査のあり方については、先送りされた。今後とも関連委員会での検討と問題提起を続ける必要がある。

 

国民参加に値する裁判員制度を

 昨年一〇月に事務局案に事実上代わるものとして示された「井上座長私案」は、統治主体意識を涵養するための新しい制度作りという発想を欠くうえ、防御権・弁護権への配慮が足りず、市民の期待を裏切るものであった。

 市民も主体となって参加する制度とするためには、裁判官一名、裁判員九名以上(二〇歳以上)の合議体で、審理は伝聞法則を厳格にして、直接主義・口頭主義を強化し、取り調べ過程を可視化する必要があり、有罪の評決は原則として全員一致とすべきである。

 防御権・弁護権の保障のため証拠の全面開示と保釈の原則化の実現を特に強く求める。

 また、さらなる制度改革の必要性や裁判員への負担を考えれば、守秘義務は内容と期間の両面で限定すべきで、報道規制は法定すべきではない。

 現在、自民党、公明党、民主党等の各政党間にも、主として裁判官と裁判員の数について見解の違いが見られる。私たちは、通常国会の審議に向けて、「自分たちが裁判員として参加することに実質的な意味が見出せるような制度にしてほしい」という市民の声を結集して、国会議員等に対して、今後とも強力に働きかけていく必要がある。

 

市民に信頼される弁護士制度改革を

 弁護士制度改革に関する弁護士法の改正はすでに成立した。それに伴い、日弁連と東弁において必要な会則・会規の改正がなされた。その主なものは、

会務運営に市民の声を反映させる方策、綱紀・懲戒制度、公職就任・営業等の届出制、報酬規程の廃止、法律事務の独占の緩和、弁護士資格の付与の拡大である。

 市民と直接接する弁護士が今まで以上に市民に身近になり、信頼される存在になることが眼目である。活動の場を広げ、会務や業務に対する市民の声に謙虚に耳を傾けていくことが必要であると同時に、弁護士の使命とそれを支える弁護士自治を弱めるものにしてはならない。

 信頼を強め、弁護士自治をより強固なものにするには、市民と双方向での議論と意思疎通を充実させること、弁護士人口の増大により多くの新人弁護士が生まれるもとでの研修制度や非行防止策にいっそう工夫することが重要である。そのうえで、個々の弁護士の人権感覚に支えられた個性豊かな活動が求められる。

 

優れた法曹養成のために

 昨年一一月、法科大学院の設置認可がなされ、いよいよ法科大学院での法曹教育が始動することとなった。弁護士会は、国民のために良質かつ多数の法曹を輩出するため、積極的に黎明期の法科大学院を支援していかなければならない。特に重視される課題は、以下のとおりである。

 これまで奨学金や私学助成金等、法科大学院及び入学志望者への経済的支援は一定の成果を見たが、引き続き、法曹志望者が経済的事情から法科大学院入学を断念することがないよう、国政への働きかけを行う必要がある。また、司法修習生への給費制を維持し、貸与制への切替、任官者のみの返済免除は、断固阻止しなければならない。

 法科大学院は、理論と実務の架橋を図り、そのなかで法曹教育を実現する場である。東弁は、全国に先駆け、日本初の法科大学院内公設事務所(第三公設事務所)を設置し、そこで優れた臨床教育を施そうとしている。全国の法科大学院が注目している企画でもあり、人的・物的支援をしなければならない。

 法科大学院を新司法試験の受験予備校化させないためにも、第三者評価機関によるチェックが重要になる。現在、学位授与機構などが第三者評価機関として名乗りをあげているが、これらは主に研究者による自己評価機関である。あるべき法曹教育を語り得る実務家こそが評価に積極的に関与し、日弁連法務研究財団の第三者評価事業を支援していくべきである。

 

迅速化は審理の充実とともに

 昨年成立した裁判迅速化法は国会で修正と付帯決議はなされたものの、その実施・運用にあたり、幾つもの課題を残している。

 迅速は充実と車の両輪であるが、その両立には訴訟手続きの改善と人的及び物的な充実を図る基盤整備が不可欠である。基盤整備についてはその目標数、実施計画、予算措置などを早急に決定すべきである。それ抜きの迅速化は、訴訟の充実を積み残したままの、拙速化になってしまう。刑事被告人の人権を守り、裁判を受ける権利を実質的に保障し、利用者の納得のいく裁判を実現するための「迅速」でなければならない。また本年四月から開始される検証は、単に審理期間の長短の検証ではなく、訴訟の充実を図りつつ迅速な裁判を実現するための、訴訟手続の問題点の指摘を含む実践的な改善策に資する体制と内容にすべきである。

 

市民に役立つ司法ネットに

 司法ネット構想は、顧問会議における「全国どの街でも市民が法的救済を受けられるような司法ネットの整備を」との議論から生まれ、通常国会への法案提出を予定して検討が進められている。審議会意見書でも市民へのアクセス拡充や総合的法律扶助などが検討課題にされており、司法制度改革の重要な柱と位置づけることができる。

 運営主体は独立行政法人類似の法人が検討されているが未定であり、事業内容としてアクセスポイント―相談受付、情報の提供等、司法過疎対策、民事法律扶助、公的刑事弁護、犯罪被害者対策等があげられている。

 弁護士の活動や組織の運営における独立性・自主性の確保、とりわけ刑事弁護活動の独立性・自主性が必要不可欠である。そのためにも運営主体の関与につき慎重な検討が必要であり、日弁連はこの制度はひまわり基金による過疎対策を補完するものとしたうえで、制度構想や運営につき、日弁連及び法律扶助協会の意見を反映させるように積極的な活動を展開している。

 東京では、公設事務所・法律相談所等の設置について、三会が総合的な計画の協議を始めている。都内の交通網や地理的環境、さらには過疎地域への応援体制にも配慮した、公設事務所・法律相談所等の拠点設置構想等を実践的に検討すべきである。

 

 二〇〇六年から公的弁護制度が実現することになったが、運営のあり方と対応体制についての問題が残されている。

 前者については、リーガル・サービス・センター(LSC)の問題として検討されている。被疑者・被告人の権利擁護の観点から、弁護活動の自主性・独立性の確保は譲ることができず、選任に際しての弁護人の推薦が恣意的なものとなってはならない。推薦は弁護士会作成の名簿に基づくこととし、その前提として、LSCのスタッフ弁護士についても、弁護士会の推薦によるものとする必要がある。弁護水準の確保についても、弁護士会の基準と指導が尊重されるべきである。

 後者については、対応体制の完備に全力をあげなければならない。段階的実施計画で、初年度約一万件、三年後の第二段階で約一〇万件、五年後の第三段階で全件対応の約一三万件と予測される事件数に対応するには、東弁での受任率の向上が不可欠であるのみならず、不足する地域に対する応援体制を組まなければならない。試算によれば、全件対応の場合、東弁は本庁に限っても約一万六〇〇〇件に対応することになるが、現在の国選弁護受任者と当番弁護士は約二〇〇〇名に過ぎない。また、多摩地区では最低二五名の刑事専門弁護士が必要といわれている。加えて、全国の過疎地域への応援体制に二〇名以上が必要と思われる。公設事務所の活用、計画的配置、支援事務所の拡大、受任システムの改革など実践的な努力が欠かせない。

 

 都市型公設事務所に期待される機能は、弁護士任官のほか、都市の中の過疎対策、市民の駆け込み寺、子どもの人権救済、高齢者・障害者の財産管理、過疎地公設事務所への派遣、刑事弁護対応、法科大学院のクリニック等、次々拡大してきたが、東弁はこれらに的確に応えてきた。二年目を迎えた東京パブリック法律事務所は、人的・物的にその機能を拡大した。加えて、四月には刑事対応型の第二公設事務所を北千住に開設すべく準備中であり、今年には渋谷に法科大学院のクリニック機能を持つ第三公設事務所を設置することも決定した。勤務弁護士の確保、支援体制の充実に、会員一丸となって対応する必要がある。

 東弁の弁護士任官推進のポイントは、基盤整備を進めることにある。公設事務所の任官への引き継ぎのサポート機能を、昨年四月任官者が活用した。この利点を広く知ってもらう必要がある。

 公設事務所の勤務弁護士の募集にあたって、任官含みであることを公示しているが、新人弁護士からの打診・応募が多数に及んでいる。数年後の弁護士任官候補者が公設事務所から複数出る下地ができつつあることを実感する。

 しかし、ここ数年は、各種イベント・広報により、会員に任官への関心を持ってもらう必要がある。前年度の、シンポジウム、公開コンペ、合宿での企画、「LIBRA」の特集などを上回る企画をすべきである。また、優れた人材を継続して出すために、他薦制度は今後重点をおくべき課題である。

 下級裁判所裁判官指名諮問委員会は昨年一二月、弁護士任官希望者一一名中四名を不適当とした。また、夏には弁護士任官希望者の氏名を事前に公表して、弁護士に情報提供の周知を要請してきた。これらは、弁護士任官の推進を萎縮させる。弁護士任官をより推進するには、指名諮問委員会設置前に決められた会内の推薦手続を、今後同委員会と協議して再検討する必要がある。

 

弁護士倫理会規化は会内合意を

 「弁護士業務基本規程案」は、昨年の夏、会員の議論に供されたが、弁護士の職務の根幹にかかわる重要な問題を含んでいるにもかかわらず、検討の時間があまりにも少なく議論不足は否めなかった。また、現行「弁護士倫理」を基本に作成した案を会規化しようとしたため、倫理的行動指針までが懲戒処分事由になりかねないという危惧感を多数の会員に与えた。各単位会等から寄せられた意見をもとに修正された今回の「弁護士職務基本規程案」が、いま再び会員の議論に供されようとしている。

 弁護士・弁護士会をとりまく情勢の変化、弁護士人口の増大、弁護士に対する市民の信頼の強化の必要性等を考えれば、会規として「弁護士職務基本規程」を制定することは必要であるが、徒に活動を規制するものであってはならない。

 そこで、この会規には、倫理的行動指針と行為規範との仕分けをして行為規範についてのみ法的拘束力を持たせること、法的拘束力を持たせる条項については構成要件をできるだけ明確にすること、という二つの要件が充足されるべきである。

 その点で今回の修正案は相当改善された。しかし、会規としての基本規程を制定するには、会内合意を十分に図ることが重要である。どのような職務のあり方に行為規範として法的拘束力を持たせるべきかは、一人一人の弁護士の活動に大きく関わる問題であるだけでなく、弁護士に対する市民の信頼をより強固にするためにも、弁護士自治を守るためにも、きわめて重要な意味を持つ。議論が尽くされるよう十分な配慮がなされなければならない。

 

 弁護士法の改正によって弁護士報酬規程が廃止され、今後、弁護士報酬は受任契約等のなかで契約当事者が任意に決めることになった。任意といっても、「任意」に弁護士を選任でき、また、報酬を対等の立場で決定できる依頼者は少ない。報酬は、倫理上・会則上も適正な額でなければならないから、依頼者・弁護士双方のために目安が必要である。

 日弁連が全会員を対象に行ったアンケートの集約でこの要請に応えることになっており、充実した集約が求められる。現在でも報酬をめぐる依頼者の不満が相当寄せられている実情から、透明で説得的なものにする努力が求められる。

 他方で、各人・各事務所の業務内容に即した報酬基準を作成することで、創意をこらすことも可能である。

 弁護士報酬は、依頼者との信頼関係に大きく関係することを自覚したい。

 

敗訴者負担制度は原則維持で

 両面的敗訴者負担制度の一般的導入は、市民の裁判利用を萎縮させ、裁判の紛争解決機能、人権保障機能、法創造機能を阻害する。司法アクセスを拡充するためには、行政訴訟や一定の公益実現につながる訴訟について片面的敗訴者負担制度を導入すべきである。

 この観点から、すべての弁護士会と弁護士連合会が反対決議・声明をあげ、市民と連携して、大運動を展開している。反対署名は一一〇万筆を超え、推進本部には、一か月で五一三四通という多数の意見が寄せられた。期成会も、敗訴者負担問題チームを組織し、署名やパブコメ応募など、積極的に取り組んだ。

 これらの広範な反対運動のなかで、司法アクセス検討会での議論は大きく様変りした。一一月二一日には「すべての訴訟について原則各自負担とし、弁護士等によって代理される訴訟当事者が訴訟上合意したときのみ敗訴者負担とする」との意見が多数となった。

 しかし、この「合意制」にも、合意をしないことが裁判所の心証に影響を与えないかなど、さまざまな危惧がある。なかでも、訴訟上の合意に限るとしているのは、あくまでも訴訟費用としての弁護士報酬であり、労働契約や消費者契約、一方が優越的地位にある事業者間の契約などで敗訴者負担の条項が入っている場合、敗訴者は本案訴訟で弁護士報酬を請求される可能性が残る。今後このような私的契約上の敗訴者負担条項が増加する危惧があり、これは労働者や消費者などに訴訟利用の萎縮効果をもたらすことになる。

 このような弊害や不安を解消する法的対策の具体化を求めて、市民・マスコミへの広報を強め、各政党、国会議員に向けた運動を強化することが重要である。

 

 日弁連は、有事法制三法案の廃案・イラク戦争反対に向け、会長声明、各党との懇談、マスコミ各社との懇談、市民集会の開催など、これまでになく多様な活動を積極的に展開してきた。残念ながら有事法制三法案は制定されたが、この間の平和を希求する弁護士会の取り組みは従来にない画期的なものである。期成会は、「有事法制プロジェクトチーム」を立ち上げ、日弁連及び東弁の取り組みに精力的に参加してきた。

 政府は、有事法制三法案の制定、「イラク特措法」の制定に続き、戦闘が絶えないイラクへの自衛隊の派遣を準備している。有事法制に関しては、「国民保護法制」の制定など国民を強制的に戦時体制に組織するための法整備を進めている。さらに、教育基本法の「改正」、憲法「改正」を公然と表明している。

 このような情勢のもと、日本国憲法の基本原理、とりわけ戦争放棄・武力不行使・軍備放棄を明記した憲法九条の平和主義の理念を堅持し、発展させることが重要である。会内合意の形成を尊重しながら、憲法九条の平和主義の理念を中核とした平和の構築に向けて積極的に取り組むべきである。

 

独立した人権救済機関を

 法務省が二〇〇二年三月に国会に提出した人権擁護法案は、名古屋刑務所事件の発覚もあって、法務省の外局に置かれる人権委員会では不適だとの強い批判を受けて昨年一〇月に廃案となった。政府は、廃案となった人権擁護法案を若干修正し、再度、国会に上程しようとしている。

 しかし、国内人権機関はその独立性・実効性を確保するために、法務大臣の所管でなく内閣府に置くこと、委員は国会に設置された推薦委員会が推薦すること、職員は独自に任免し他の省庁との人事交流はしないこと、事務局長及び事務局員は人権擁護に必要な知識と経験を有する者をあて、法曹資格を有する者をあてる場合は検事ではなく弁護士をあてること、地方人権委員会もしくは地方事務局の設置、憲法、国際人権法に規定するすべての人権の侵害を対象とし、とりわけ公権力によるすべての人権侵害を対象とすること、#Q8028;人権救済のほか国会や政府への政策提言、人権教育の実施などの権限責務を持つことなどが必要不可欠である。

 

 昨年四月からスタートした行刑改革会議が、九か月の審議を経て一二月二二日法務大臣に提言を出した。

 その内容には、刑務所の透明性をめざして民間人からなる視察委員会を施設毎に設ける、電話を導入し外部交通を広げる、累進制や担当制を廃止する、刑務作業を柔軟にする、軍隊行進をやめさせる、などの注目すべき点があり、その方向はそれなりに評価することができる。

 しかし、なお規律優先の考え方が克服されない問題点も多い。最も期待された不服申立を扱う施設審議会は、法相の諮問機関とされ、勧告権しか与えられていない。電話や外部交通の拡大も、「有益な場合」という条件付きである、累進制に代えて特典を付与・剥奪する報奨制度は、運用次第では新たな差別支配となりかねないし、行進自体や脇見、房内での姿勢は自由化されていない。医療改革の柱になるはずの厚生労働省への移管や健康保険の適用は先送りであり、刑務作業への賃金制の導入、職員の団結権保障などは見送られた。

 私たちは、この二〇年余、代用監獄の廃止、拘禁二法案反対の闘いに取り組み、他方で二一世紀にふさわしい監獄法の全面改正を追求してきた。提言からの後退を許さず、不十分な点を補った立法作業にコミットしていく必要がある。

 

 わが国の女性の賃金は、二〇〇二年で男性の66・5パーセント(パート等を含めると49・7パーセント)であり、その格差は拡大傾向にある。昨年七月の国連女性差別撤廃委員会の日本政府に対する最終意見は、コース別人事制度等間接差別、不安定雇用の低賃金、女性の家庭と仕事の調和の困難性など多くの問題を指摘し、改善を求めている。さらにILOからも男女差別是正の措置をとるよう勧告されている。

 有期雇用や派遣は臨時業務の必要性など合理的な場合に限定し、均等待遇の原則を確立するなど、弁護士会としてその法制化に向けた意見表明が必要である。

司法改革に

ジェンダーの視点を

 二〇〇二年五月の日弁連決議「司法改革にジェンダーの視点を」の取り組みを具体的に進めることが必要である。特に、法曹三者、警察、調停委員、調査官、法科大学院教官を含めた関係者のジェンダー教育を実施することも重要である。 また、選択的夫婦別性制度導入や非嫡出子相続差別解消などの民法改正要綱答申が七年以上も法案化されておらず、弁護士会としては今後も法案の成立に向けて引き続き働きかけを強める必要がある。

 

 消費者問題は、常に新たな被害・問題を抱える分野である。

 ここ数年をみても、八葉物流・ジーオーグループの悪徳商法による大量被害、大学入学納付金返還問題、ヤミ金問題、電話利用料等の架空・不当請求などが問題となった。

 これらに対し、東弁では「クレジット・サラ金相談」「消費者問題相談」といった相談窓口を設けているが、研修や事例検討などを充実させ、適切に対応できるようにしていくことが求められる。さらに、大規模事件については、説明会を開き弁護団結成に尽力しているが、多くの会員がこれらの被害救済に積極的に協力し、参加していくことが必要である。

 また、消費者保護法改正、内部通報者保護制度、団体訴権など、新たな立法課題に対しても、意見表明・立法提言などを行い、積極的に参加していくことが必要である。

 一方的に不合理な契約を押しつけられたり、立法的な手当がないままに被害を受けるということが多い消費者問題の分野では、被害を予防するとともに被害回復を図るために弁護士・弁護士会の果たすべき役割は、ますます重要である。まさしく機敏な対応が強く求められている。

 

定住外国人に参政権を

 外国人は、住民税も支払っているのに、地方自治体の参政権もない。日弁連理事会で採択した意見書の通り、定住外国人には地方自治体の首長・議員選挙での選挙権・被選挙権を付与すべきである。住民投票参加や非権力的業務担当公務員任用も認めるべきである。

 また、弁護士の調停委員委嘱での国籍差別を廃止し、定住外国人の裁判員資格付与を検討すべきである。

難民政策の根本的是正を

 ミャンマー人キンマウラ氏の本国強制送還を容認する東京高裁判決に対する国内外からの批判が高まっている。

 二〇〇一年の日本の政治難民受入数は二六人であり英国二万一〇〇〇人、カナダ一万三〇〇〇人、フランス九七〇〇人と比べても極端に少なく閉鎖的である。難民政策を国際水準に合致させるために弁護士会が果たすべき役割は大きい。

外国人市民との共生を

 石原東京都知事をはじめとする地方自治体首長や政治家などによる、外国人市民を敵視・排除する発言が相次いでいる。在日コリアンの子どもたちに対するいわれなき攻撃も広がっている。弁護士会は人種差別禁止基本法制定を検討し、差別撤廃運動を強化すべきである。

 

犯罪被害者支援の充実を

 犯罪被害者支援については、第四六回人権擁護大会で、国に対して、犯罪被害者基本法の制定、犯罪被害者に対する十分な経済的支援制度の整備、犯罪被害者支援の民間支援組織への援助、公費による犯罪被害者支援弁護士制度の創設、捜査機関担当者への教育・研修の徹底及び捜査機関の施策改善のための立法等を求める決議を採択した。日弁連としても、犯罪被害者支援をより実効性あるものとするために,法律相談活動、民間支援組織との連携等をよりいっそう充実強化することが決議された。

 東弁においても、日弁連の犯罪被害者支援委員会と協力しながら、上記のような立法に向けた研究と働きかけを行い、あわせて被害者のための法律相談活動をより充実したものにするために、相談担当弁護士の研修を強化し、相談の回数をさらに増やす必要がある。

 国際機関からの日本政府に対する人権救済勧告等を受けて、従軍慰安婦問題や朝鮮半島や中国からの強制連行問題など、戦後補償問題が国際的な関心を呼んでいる。

 戦後補償問題での被害者には、従軍慰安婦、強制連行、七三一部隊の人体実験、南京事件や平頂山事件のような住民虐殺、遺棄毒ガス弾による被害など、アジアの諸国民を中心とする外国人被害者がいる。

 他方、治安維持法による被害、原爆被害、国内での遺棄毒ガス弾による被害、在外資産没収の被害など、日本人被害者の戦後補償問題がある。

 日本での訴訟では、サンフランシスコ講和条約や二国間条約による請求権放棄の有無、国家無問責の是非、時効・除斥期間などが問題になっているが、国際人権法・国際人道法の見地に立って、国に法的責任があることを前提として被害救済を図る立法がなされるべきである。

 日弁連人権擁護委員会では、戦後補償に関する基本法大綱を検討中であるが、これを重要な人権問題と位置づけ、まずは、アジアの諸国民を中心とする外国人被害者の被害救済を第一義的、優先的に考えるべきである。

 

教育基本法「改正」に反対

 昨年三月の中央教育審議会答申は、教育基本法の「改正」を求め、これに沿う「改正」法案が二〇〇四年通常国会に上程される予定となっていた。この中教審答申は、国に有為な人材づくりのための教育をめざしており、子どもの人権としての教育への権利に根ざすものではなく、「国を愛する心」の教育により内心の自由侵害をもたらす危険がある。教育行政による教育内容への積極的介入を当然の前提とするなど、看過し得ない問題をも含んでいる。東弁は答申当日の会長声明でこの旨確認した。弁護士会は、法「改正」の先取りとして行われている「子どもの心を作る教育」、エリート選別・競争的教育などに迅速かつ的確に対応しなければならない。

 また、政府の治安対策優先の青少年非行対策については、少年法の保護主義の理念や子どもの最善の利益確保の観点から、適切な対処が必要である。

 弁護士会としては、身体拘束少年事件全件付添の実現に向けた取り組みを強化し、公設事務所に子ども専門部を設けるなど、子どもの人権救済センターの機能を充実させる必要がある。

 

高齢者・障害者の権利擁護を

 介護保険導入後三年が経過し、障害者福祉も昨年四月から契約システムに移行した。このような制度の導入により契約型福祉社会へと転換が図られつつあり、高齢者や障害者の権利擁護のための弁護士・弁護士会の役割はいっそう大きくなっている。とりわけ、権利侵害が生じないよう厳しく監視し、法的支援を強化することが必要である。

 成年後見制度も改正後三年が経過したが、成年後見等の申立件数の飛躍的増大に対処するため、家裁の裁判官、調査官、書記官の大幅な増員が必要である。

高齢者・障害者の差別・

虐待防止を

 障害のある人に対する差別の解消には障害者差別禁止法の制定が必要である。 高齢者への虐待が深刻さを増している。そのために高齢者虐待防止法制定の必要性が高まっている。

 他方、現行の裁判制度では、視覚障害、聴覚障害を持つ人たちが裁判の進行を理解し十分に対応できるようにはなっていない。これらの障害を持つ人たちの裁判を受ける権利を実効性のあるものとするため、点字、録音、手話通訳の保障などの改善、法的支援を図るべきである。

 

公害・環境問題の取り組みを

 東京の公害・環境問題は、自動車排ガス、基地騒音、廃棄物処理施設による健康被害、マンション建設による日照被害などのほか、化学物質過敏症や土壌汚染問題等、新たな問題もあり、取り組むべき課題は多い。

市民の立場に立った

弁護士、弁護士会活動を

 公害・環境問題では、比較的新しい物質などによる汚染や被害が増えている。そのため、被害者である市民の側からの因果関係や過失などの立証が困難であるという特徴がある。科学的知識や資力に乏しい市民が、原因や対策もわからないままに、一方的に犠牲を強いられやすい。しかも、将来の世代の犠牲も含めて、結果が甚大な場合も少なくない。

 このように社会的不公正、不正義が罷り通りやすい公害・環境の分野では、とりわけ弁護士や弁護士会が果たすべき役割は大きい。

 東弁はここ数年、二弁とともに、月二回、公害・環境問題についての無料電話相談を実施している。市民への広報活動を活発にするとともに、弁護士会内で講習・研究体制を充実させるなど、相談、事件を受任する弁護士の質・量を向上させる取り組みが重要である。

 

弁護士自治の充実・強化を

 

 弁護士自治の本質的根拠は、基本的人権の擁護という弁護士の職業的使命にあると理解されてきた。日弁連が自由と正義を掲げ、日弁連最大のイベントとして人権擁護大会に取り組んできているところにもその一端は窺われる。

 ところで、今次の司法改革では、二〇一〇年を目処に司法試験合格者を三〇〇〇名とし、二〇一八年を目処に法曹人口を現在の二万人から五万人にするとされている。それによって二割司法の現状が改善され、弁護士の活動分野が今まで以上に広がっていくと期待されている。

 しかし、弁護士が企業や自治体などさまざまの組織に進出することによって、弁護士会よりそれらの組織に対する帰属意識を深める可能性が、また弁護士が大幅に増加することにより、弁護士間の競争を激化させ、弁護士層の階層分化を促進する可能性が生じてくる。そして、このような事態は、弁護士集団内部における一致点の形成をより困難にし、基本的人権の擁護という従来の弁護士統合の理念を大きく揺るがすおそれがある。

 私たちはこのような厳しい状況認識のもと、臨司意見書や弁抜き裁判特例法案に対する闘いによって守り抜いてきた弁護士自治を維持発展させるため、弁護士倫理の職務基本規程化の実現を図り、義務化された公益活動により多くの会員を結集し、積極的に取り組む必要がある。

 

公益活動の義務化

 昨年一二月一六日の東弁臨時総会において、公益活動等に関する会規が改正され、公益活動等に関する会員の義務が強化された。

 その内容は弁護士自治を支える会務も含めて、会員が負担を分かち合うべき最低限の活動を一つ以上行うことを義務とし、年額五万円の負担金の支払いをもってこれに代えることも認めるとなっている。そして、これらを行わない会員には、勧告を経て会館内に氏名等を公表するというペナルティを課するに留めており、きわめて緩やかなものとなっている。

 弁護士は今後大幅に増加し、社会のさまざまな分野で活動をすることが見込まれる。そのようななかで、ときに権力とも対峙する弁護士が、国民の支持を得て自治を守り、真に市民のための存在であり続けるためには、自治を支える会務を会員が公平に負担しつつ公益活動を行うことが不可欠である。本年度においては、まず前記義務の履行を徹底することが必要である。そのうえで、今後さらに社会からの強い要請でもある高い質の公益活動等が確保されるような施策を継続的に検討すべきである。

 

不祥事防止は総合対策で

倍増した懲戒処分件数

 全国の弁護士懲戒処分件数は九〇年代は年間でおおむね三〇件台で推移していた。それが、ここ数年倍増して六〇件台となり、昨年はついに七〇件台となって過去最高を記録した。このような処分件数の増大は弁護士不祥事対策が喫緊の課題であることを示している。

 しかし、不祥事防止の特効薬はなく、弁護士の職務の質の向上を図る努力を粘り強く積み重ねていくほかない。これを怠れば、市民の弁護士に対する信頼が大きく揺らぎかねないばかりか、弁護士自治さえも脅威にさらされかねない。

 防止のための総合対策を

 不祥事防止対策の基本はなによりも会員の自覚である。その自覚を促すための情報提供の強化、法曹養成段階での倫理教育及び弁護士倫理研修の充実化、弁護士倫理の徹底、弁護士会への市民からの苦情に対する処理の適正化、綱紀懲戒制度の改善とその運用の厳正化等を不断に追求することが必要である。そして、これらの対策は個々に行うのではなく、有機的に連携させ、総合的な対策として実施されなければならない。そのためには弁護士不祥事対策検討チームの設置も必要である。

 現在、弁護士倫理の会規化が議論されているが、職務規範のあり方についての議論をさらに深め、これを全会員に浸透させる必要がある。

 非弁提携問題は、非弁提携対策本部等の地道な活動が一定の成果をあげつつあるが、提携弁護士根絶に向けて、その対策の充実も重要な課題である。

 

東弁は、これまで司法改革、人権など多くの課題に取り組んできた。他方で、会費に見合う会員へのサービスは、いわば後回しにされてきたきらいがある。

 経済成長が停滞し、平均的に弁護士の経済的な余裕は失われつつある。また今後、弁護士業務が多様化することによって、会員がこれまで経験したことのない多様な問題に直面することが増えると考えられる。弁護士会はこれら諸問題に適切な情報を提供し、場合によっては会員の相談にのるなどのサービスを行うことが必要である。

 第一に、会員が必要とする専門的知識にかかわる多様な情報を、迅速かつ十分に提供する必要がある。第二に、綱紀・懲戒を含む問題事例の増加や会員の会への帰属意識の低下などを防ぐため、会を介して会員が情報を共有し合うこと、また、会が会員の悩みを解決するために助力をすることが必要である。さらに法律相談活動をよりいっそう充実させて、若手会員の業務を支援することもたいせつである。具体的には、専門研修をいっそう充実させるほか、インターネット等を通じた業務関連情報や会務情報の提供、会員サポートデスク(会員の相談窓口)、事務所の仲介あっせんや引退する会員等の事件の引き継ぎなどを、十分な議論のうえ、積極的に行っていくべきである。

 

会務運営の透明化を

弁護士・弁護士会に対する市民の信頼は、私たちが一方的に評価することなく、常に謙虚さをもって高める努力を続けるべきものである。弁護士が市民の身近な存在になるにつれ、素朴な疑問をはじめとして弁護士・弁護士会のことについて知りたいという要求が強くなるのは自然の流れである。この流れに的確に対応し、また場合によっては、弁護士会の活動について市民からの意見を参考にすることが、私たちの活動がよりいっそう市民に依拠し、弁護士自治を支えることにもつながる。このような観点から、会務運営における自主性の確保や弁護士の個人情報の保護も念頭におきながら、会務運営の透明化や情報公開に積極的に取り組む必要がある。

 現在、東弁で設置が検討されている「市民会議」(仮称)は、このバランスにも配慮しており、妥当な制度となっている。また、情報公開のあり方等については、開示する情報の範囲だけでなく、開示のシステムの検討も必要である。

 

 昨年七月、東京高等裁判所は弁護士会に地裁八王子支部の建替・移転を通知してきた。

 地裁八王子支部は、管内に静岡県全県を超える四〇〇万人の人口を擁し、本庁を含めた全国の裁判所中、四番目ないし七番目に多い新受事件数を取り扱っており、施設面でも人員の面でも余りに不十分である。早急に庁舎を建て替え、人員を拡充すべきであるが、現在地において必要十分な庁舎が建設できないのであれば、移転に賛成である。

 しかし、移転する場合でも、一〇〇万人の市民が生活する八王子周辺地区には、独自に多くの司法ニーズがあり、簡易裁判所や区検察庁が必要である。したがって、現在地を今後も司法の場に活用することを検討すべきである。

 また、市民に開かれた利用しやすい裁判所とするためには、支部長に予算・人事などの権限がない支部では不十分である。建替・移転を機に本庁化(たとえば東京多摩地方裁判所)を検討すべきである。

 現在、裁判所は、建替問題についての経過や移転計画などの具体的情報をいっさい明らかにしていないが、これらの情報を開示すべきである。そして市民や弁護士会の要求を反映させるため、東京三会、弁護士会多摩支部の代表と東京高等裁判所との定期的な協議の場を設定すべきである。また、市民や会員の要望や意見を集約するため、多摩支部の関係者も加えた会内及び東京三会の協議機関をつくるべきである。

 

会財政の見直しを

東弁財政の現状

東弁では、一九九四年以来会費の値上げをすることなく財政を維持してきた。だが今後、公設事務所、外部相談センターの増設など司法改革関連事業がいっそう拡大する。加えて、役員・弁護教官への報酬・助成、業務合理化のためのシステム開発費、退職金の引当など、負担の大きな課題が山積している。現状の一般会計の枠内でこれらの課題を実現していこうとすれば、いずれ会費値上げを迫られる可能性がある。他方、特別会計を加えた繰越金の総額は毎年増え続けて二〇〇二年度末で約五五億円となった。全体として不要不急の資金を蓄積していくのは好ましくなく、特別会計の余剰を見直すことで、会費の値上げなくして課題の実現ができるのであれば、その方向を追求すべきである。

会費外収入の確保を

 二〇〇二年度は、法律相談料、事件受任手数料、破産管財人等負担金の収入が、前年度比約一億円増の四億二二三五万円となったが、まだ回収率は高くなく、回収手続の工夫によるいっそうの増収が期待される。

会館特別会計の見直しを

 会館特別会計の繰越金は、二〇〇二年度末で合計約四〇億円近くとなったが、予期される一〇年目、二〇年目の修繕費用を大きく上回っているとみられる。修繕費用の見積もりを可能な限り算定するとともに、当面、維持管理会計に毎年発生している余剰金を、一般会計からの繰入金を減額して(会員一人あたり月額五五〇〇円を月額三〇〇〇円に減額)解消する必要がある。

歴史的試練に直面している日弁連

 二一世紀の司法制度を基礎づける司法制度改革審議会の意見書は裁判員・刑事、法曹制度、司法アクセスなど一一の検討会を生み、新たな制度構築に向けて要綱から法律案への作業が進んでいる。これらは二〇〇四年一一月三〇日までの期限つきである。いずれも裁判員制度、敗訴者負担、被疑者公的弁護など、今世紀の司法制度の骨格を形づくる内容である。さらにリーガルサービスセンター(LSC)構想という自民党司法制度調査会の提言なども加わり、数多い課題と素早い展開のなかで、日弁連は各界への働きかけ、会内合意の形成と市民運動など、幅広い活動を続けている。しかし、さらに多数の会員が活動に参加して支えなければ情勢に対応できない。

会内の体制の検討を

 また日弁連は、検討会への対応に向け、裁判員、敗訴者負担、LSCなどの対策本部を設け、市民のための司法制度の実現をめざす運動、検討会事務局への人材派遣など市民運動と法律案作成という内と外の両面からの影響力の行使という展開も続けてきた。他方、戦略的には官僚立法を打破する組織体制を構築する構想を今から検討し始めなければならない。

 また、迅速に進展する立法作業に対する会内合意形成の手続きも旧態依然で、長い煩瑣な手続きを要する総会の代替として代議員制を活用することも、具体的に検討すべき時期に至っている。

 日弁連は市民のための法の支配の担い手であることを踏まえ、憲法上疑義のある有事法制や自衛隊の海外派遣などへの迅速な意思表明や行動を、今後も適切に展開できるような合意形成の仕組みの検討も始めなければならない。

 

関弁連シンポの成功をめざして

関弁連は東京三会(会員数九三七九名)と関東十県会(会員数二二二一名)の合計一万一六〇〇名で構成されている。このように東京三会は、その構成員数において圧倒的な割合を占めているにもかかわらず、その会員の関弁連に対する関心や認識の低さが問題となってきていた。 

 その原因の一つとして、かねてより東京三会がこれまで関弁連の定期大会・シンポジウム開催の担当会となってこなかった点が指摘されていた。二〇〇三年度にこの点について、東京三会から了解を取りつけ、二〇〇六年度には東弁がトップバッターとして関弁連の定期大会・シンポジウム開催の担当会となった。これを機に東弁も関弁連の活動により積極的に取り組んでいかなければならない。

裁判官制度改革への

関弁連の取り組み

最高裁に下級裁判所裁判官指名諮問委員会が、東京高裁にその地域委員会が設置されたことに伴い、これらの委員会が適切に運営されるよう協力するため、関弁連内に裁判官選考検討委員会が設置された。二〇〇〇年度に発足した弁護士任官者の適格性の調査と推薦の可否についての審議を目的とする「裁判官候補者推薦に関する委員会」とあいまって、真に裁判官の適・不適を考えるための制度として定着していくよう、今後ともその運用に注目していく必要がある。

発行責任者

 代 表 幹 事 鈴木 堯博

 政策委員長 有正 二朗